◇SH3105◇経産省、法務省、新型コロナウイルスの感染拡大下における「株主総会運営に係るQ&A」を取りまとめ 飯田浩司(2020/04/16)

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経産省、法務省、新型コロナウイルスの感染拡大下における
「株主総会運営に係るQ&A」を取りまとめ

岩田合同法律事務所

弁護士 飯 田 浩 司

 

 経済産業省及び法務省は、2020年4月2日、「新型コロナウイルスの感染拡大下における「株主総会運営にかかるQ&A」」を、経済産業省のHP上で公表し、さらに同月14日付で一部改訂した(本稿末尾関連リンク。以下「本Q&A」という。)。

 

 会社法上、株主総会は、一定の物的「場所」で行うことが予定されている(会社法298条1項1号参照)。

 対して、政府は、新型コロナウイルス対策で、いわゆる「三密」(換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面)を避けるべきことを呼び掛けているところ、株主総会の会場はこうした「三密」に該当するおそれがあり[1]、また、当然ながら、株主総会の会場への移動中もリスクがないとは言えない。

 

 もっとも、本原稿執筆時においては、現今の状況下でも、株主総会の開催時期自体を延期することを具体的に検討している会社は少ない[2]と思われる。

 まず、多くの会社ではその定款において「毎事業年度終了後3カ月以内に定時株主総会を招集すべきこと」を定めており、この違反リスクを完全に否定することはできない[3]

 このほか、株主の権利行使の基準日及び剰余金配当受領の基準日は、通常、事業年度末に設定されているところ、延期後の定時株主総会において剰余金配当の決議を行う場合には、これらの基準日とは異なる日を新たに基準日として設定することとなる可能性が高く(基準日は、当該基準日から3箇月内有効である。同法124条2項)、当該事業年度末時点での基準日株主の配当への期待も事実上無視できない[4]。定時株主総会によって決せられるべき役員選任その他会社の重要事項の決定も勿論大切である。さらにいえば、現今の状況が収束する時期も、当面見通せない。

 

 そこで、株主総会を例年通りのスケジュールで開催する場合、会社は、総会の主催者の立場として、来場する株主やその役職員の安全を確保するために、できる限りの配慮が求められるといえるだろう。

 本Q&Aは、以上のような状況を踏まえて、実務の混乱を防ぐために、一歩踏み込んで、経済産業省のHPで公表されたものと推察される。

 

 本Q&Aでは、大要、以下が述べられている。

  1. ① 株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために来場を控えることを呼びかけることは、可能である。
  2. ② 会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催することは可能である。
  3. ③ 上記②に関連し、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは、可能である。
  4. ④ 発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは、可能である。
  5. ⑤ 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は、可能である。

 

 本Q&Aのうち、上記については、あくまで「呼びかけ」であって株主の権利行使を制限するものではなく、新型コロナウイルスの感染拡大防止目的という正当の理由があることから、許容されると考えるのが自然ではないかと思われる。

 他方、本Q&Aのうち上記については、株主総会という「場所」への参加、すなわち議論及び議決への参加という、会議体構成員の基本的な権利を制限するものであるところ、株主の総会参加の権利は、当然のことながら従前より重視されてきているため[5]、踏み込んだ内容という印象を受ける。特に上記の総会の参加者の人数自体の制限は相当強い内容である[6]

 また、上記については、総会開会前の事項とも理解できるところ、総会開会前の事項については総会議長ではなく会社の権限事項とする理解が有力であるが[7]、当該権限の範囲については議論等の蓄積が十分とまでは言えないと思われる。会社としては、いかなる程度まで人数を制限してよいかの判断が難しい場合もあるのではないかと考える[8]

 本Q&Aのうち上記については、入場を断る場面においては、総会開会前であれば上記と同様の問題であり、総会開会後の入場謝絶、退場命令については議長の秩序維持権の解釈適用の可否の問題と整理できるのではないかと思われる。上記に依拠する場合も、上記の回答部分に記載の「ウイルスの罹患が疑われる」場合に該当するかどうかについては、何らかの合理的な基準を予め準備する方が安全と思われる。

 最後に、本Q&Aのうち上記については、いかなる意味・程度において、株主総会の時間の「短縮」が可能かについては、必ずしも明確ではない。保守的に考えれば、基本的には会社・議長の裁量の範囲内で短縮・省略可能なものに限定して対応し、取締役の説明義務(会社法315条参照)の履践については慎重を期す考え方もあり得るだろう。

 

 議論と議決を一定の場所で行うためには、それらの行為に際しての安全が確保されることが前提となる。

 本Q&Aは、この安全の確保のために総会の設営者や議長等がいかなる行為をなしうるかについて、民事法制に関する企画及び立案を所掌事務とする法務省が、公表主体の一人として、株主総会運営について公表しているものであり、実務上、相当の意味を持つと思われる[9]

 但し、その記載は比較的抽象的であり、個別具体的事案に応じて適切な判断をすべきことが、前提となっているようにも考えられる。また、「新型コロナウイルスの感染拡大下」という特異な緊急事態下において妥当する見解と理解することが、安全ではないかと思われる。

以上

 


[1] なお、いわゆる「ハイブリッド型バーチャル株主総会」については、経済産業省より2020年2月に「実施ガイド」が公表されているが、本稿ではその旨の紹介にとどめる。

[2] 新型コロナウイルス感染症の感染予防及び拡大防止を理由として、定時株主総会の延期をリリースしている上場会社も存在する。一例として、ディップ株式会社が挙げられる。

[3] これについては、既に法務省が「定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも、通常、天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで、その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。」と発表している(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html参照。東日本大震災の際も同趣旨の見解は示されていた。)。しかし、「定時株主総会を開催することができない状況が生じた」といえるかは評価の問題であることから、リスクは残る。

[4] なお、定款に定めがある等の所定の場合には、会社法459条1項に基づき、取締役会において剰余金配当を定めることが可能である。

[5] 例えば、当初の想定に比して株主総会の会場に出席希望株主を収容しきれない場合には、当該出席を拒むことは総会取消事由となり得るため善後策を講ずべきことが指摘されてきている(大阪地判昭和49・3・28民集37巻5号575頁参照)。また、議長の総会秩序維持権に基づく退場命令についても、注意、警告等段階を踏むべきと述べられることが多い。
 2009年の新型インフルエンザの際においても、実務家の論稿の中には、総会において「健康状態が思わしくない株主については別室での参加を案内する……帰宅する、あるいは病院へ行くことは求めない」という程度にとどめるものがあった(中野明安「新型インフルエンザの広がりで企業に求められる喫緊の対応策」NBL905号(2009)5頁)。

[6] 書面による議決権行使や、電磁的方法による議決権行使の場合に、当該行使された議決権の数は、出席した株主の議決権の数に算入される(会社法311条2項、312条3項。ただし、上場会社では普通決議の定足数要件は定款で排除されることが多いと理解されている)。上記Q&Aの後半部分は、総会会場に構成員たる株主が一切、物理的に出席していなくても、会議体たる総会が成立しうるという見解を示していることに意味があろうか。

[7] 上柳克郎ほか編代『新版注釈会社法(5)』(有斐閣、1986)166頁参照。仙台地判平成5・3・24資料版商事法務109号64頁は、会社が秩序ある株主総会を運営すべき立場にあり、出席する全株主の協力を求める形でその手荷物検査をし、カメラ、テープレコーダー等を一時預かることは、被告の有する議事運営権の裁量の範囲に属すると解される、としていた。

[8] 上記Q&Aの人数制限が適法に許容される場合に、どのように出席者を選抜するかが問題となるが、その際の選択肢として、上記Q&Aの事前登録制によることも許容されることを示したほうがよいと問題意識があったのかもしれない。人数制限の方法としては、会場の現場で入場者を選抜すること(あるいは先着順とすること)も考えられるが、株主総会の会場を訪れた株主が門前払いされることは、社会通念上も、感染リスク防止の観点からも望ましくないように思われる。

[9] 本Q&Aには、根拠条文の記載はない。本Q&Aのように、総会開会前の設営等の権限については、敢えて今後の議論に委ねた可能性もあるかもしれないし、様々な調整、判断の末の結論であるため、条文の摘示を控えた可能性もあるかもしれない。

 

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