◇SH0088◇法務省、「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」(8月26日決定)を公表 別府文弥(2014/09/19)

未分類

法務省、「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」(8月26日決定)を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 別 府 文 弥

1.はじめに

 民法(債権関係)の改正に関しては、平成23年5月に中間的な論点整理が行われた後、昨年2月に中間試案[1]が取りまとめられ、それぞれに関する2回のパブリック・コメントの手続の後、要綱仮案の決定に向けた作業が進められてきたが、本年9月8日、法務省から「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」(以下「要綱仮案」という。)が公表された。

 改正の概要を網羅することは紙幅の関係上難しく、その具体的な内容については上記URLを参照されたい。以下では従前から注目されてきた改正点について、中間試案から変更があったものの一部を取り上げ、その内容を概観する。

 

2.要綱仮案の内容(一部)

 上記要綱仮案では、中間試案第7.2の乙案と同様の考え方が採られているものと考えられる。すなわち、権利を行使できる時から10年間という現行法の時効期間と枠組みを維持しつつ、債権者が権利を行使できることを知った時から5年という短期の時効期間を設け、いずれかの時効期間が満了したときに時効期間が完成するという考え方[2]が採られている。

 なお、改正に伴い、商法第522条を削除する旨が注記されている(要綱仮案第7.1)ほか、中間試案同様、職業別の短期消滅時効(民法170条~174条)を廃止するものとされており(要綱仮案第7.3)、民事・商事上の債権の消滅時効に関する原則的な時効期間及び起算点が統一されることとなる。また、現行法と異なり、時効期間及び起算点に関し、債権者の認識が重要となる点に注意する必要がある。

 なお、定期金債権等の消滅時効については要綱仮案第7.2を、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については同第7.4を、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については同第7.5をそれぞれ参照されたい。

 

 中間試案同様、民法第534条及び第535条については削除するものとされている一方、中間試案第12.1の本文と異なり、民法第536条第1項・第2項については、現行の規律と実質的に同一の規律が維持されているが、これは解除制度と危険負担制度を棲み分けている現行法の体系を維持するという考え方[3]に基づくものと考えられる。

 なお、売買契約における目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転については、要綱仮案第30.10を、賃貸借契約におけるそれについては、同第33.10及び12を参照されたい。

 中間試案第17.6⑴では、上記(i)の類型の契約について、保証人が主たる債務者の経営者である場合を除き無効とすることが検討されていたが、要綱仮案では、これを無効とせず、契約の締結に先立ち、その締結日前1箇月以内に特定の方法で作成された公正証書(作成の具体的な方法については、要綱仮案第18.6⑴イを参照されたい。)において、保証債務を履行する意思を表示することが契約の効力発生要件とされている。

 本案が採用される場合、上記(i)(ii)の類型の保証契約については、保証人が主たる債務者の経営者等(上記2の各号に列挙される者)である場合を除き、公正証書の作成が義務付けられることとなる。

 

 まず、債権譲渡の対抗要件(民法467条関係)については、中間試案第18.2⑴の甲案及び乙案と異なり、現行の民法第467条1項の規律と実質的に同一の規律となっている。

 債権譲渡に関する異議をとどめない承諾の制度(民法468条1項)については、中間試案同様、債権が譲渡されたことを認識した旨を債務者が通知しただけで、抗弁の喪失という債務者にとって予測できない効果を生ずることが債務者の保護の観点から妥当でないという考慮[4]に基づき、これを削除する旨が規定され、債務者は、債権譲渡に関する通知又は承諾の時までに譲渡人に対して生じた事由(抗弁)をもって譲受人に対抗することができるとされている。他方、中間試案と異なり、当該抗弁を放棄する旨の意思表示に書面性を要求する旨の規定(中間試案第18.3⑴イ)は削除されている。

 債権譲渡と相殺の抗弁については、実質的に中間試案第18.3⑵と実質的に同一の規律となっている。すなわち、権利行使要件具備時までに債務者が取得した債権(自働債権)について、自働債権と譲渡された債権(受働債権)との弁済期の先後を問わず、債務者は相殺の抗弁を対抗できることとされている(要綱仮案第19.4⑵ア)。

 また、自働債権が権利行使要件具備時より後に取得された場合でも、当該自働債権が①権利行使要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権である場合、及び、②権利行使要件具備時より後の原因に基づく債権であって、当該債権が受働債権の発生する原因となった契約に基づく場合には、相殺の期待を保護する必要性が高いという考慮に基づき、当該自働債権が権利行使要件具備時以降に他人から取得された場合を除き、債務者は同様に相殺の抗弁を対抗できることとされている。

3.まとめ

 以上要綱仮案の一部を取り上げたが、この他にも中間試案から内容が変更された部分は多岐にわたっており、また今後も、法制審議会の民法(債権関係)部会において改正要綱案の取りまとめに向けた作業が進められていくことから、引き続きその動向を注視する必要がある。

以上



[2] 法務省民事局参事官室「民法(債権関係)の改正に関する中間試案(概要付き)」25頁参照

[3] 注(2)・51頁参照

[4] 注(2)・93頁参照

(べっぷ・ふみや)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2010年東京大学法科大学院卒業、2011年弁護士登録(新64期)。一般企業法務、M&A、渉外関連業務(契約書・クロスボーダー取引・競争法関係)、株主総会、訴訟等の案件に従事。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>

〒100-6310 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング10階 電話 03-3214-6205(代表) 

タイトルとURLをコピーしました