SH3134 企業法務フロンティア「新型コロナウイルス感染拡大に伴う休業と雇用調整助成金」 小川尚史(2020/05/08)

そのほか労働法

企業法務フロンティア
新型コロナウイルス感染拡大に伴う休業と雇用調整助成金

日比谷パーク法律事務所

弁護士 小 川 尚 史

 

1 はじめに(本稿の概要)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴って事業の縮小や休業を強いられる事業主が増加している状況を受けて、労働者の休業が発生した場合の休業手当の支払、そして雇用調整助成金の支給をめぐる問題について検討を行う。

 国・厚労省は、休業が行われる状況の中で労働者への休業補償を確保するための手段として、休業手当の支給を前提とする雇用調整助成金の活用を事業主に呼びかけ、新型コロナウイルス感染症に関する特例措置を定めて制度拡充を図っている。

 しかし、雇用調整助成金に関しては、「法的に支払義務のない休業手当であっても支給されるのか?」、「いかなる類型の休業であっても支給されるのか?」といった議論の進んでいない論点があり、これらの論点に関する国や厚労省の見解は明確ではない。雇用調整助成金の活用による休業補償の実現を図るのであれば、国や厚労省は少なくともこれらの論点に関する見解をより明確に示すべきである。

 そもそも、行政からの要請に基づく休業の場合に雇用調整助成金を活用して休業手当を支払うよう事業主に促し、これにより労働者への休業補償を行うことは、制度の想定外利用といわざるを得ず、そのために法令の解釈・適用という場面で複数の歪みが生じている。上記の2つの論点が生じる原因もこの点にある。

 助成金不支給のリスクを事業主に負担させつつ、法的に支払義務のない(又は支払義務の明確でない)休業手当を支払うよう事業主に期待するのは困難であり、雇用調整助成金を前提とする休業手当により労働者への休業補償を確保するという仕組みには、その実現性が個別の事業主の対応に委ねられているという問題もある。

 新型コロナウイルス感染症の急激な拡大という今般のような緊急非常事態にあっては、雇用調整助成金という既存制度を活用して労働者の休業補償を図ることはやむを得ない対処であったと考えられるが、本来であれば国から労働者に対して直接的に補償金の支給を行うという手段が合理的である。したがって、制度の目的外利用に伴って生じている歪みや、その帰結として労働者への休業補償という目的が十分に実現されないという問題を踏まえ、将来に向けては、事業主から労働者への休業手当の支払を前提としない、労働者への休業補償の確保策の検討が必要である。

 

2 新型コロナウイルス感染拡大に伴う事業の縮小・休業

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会情勢の変化、行政からの緊急事態宣言や休業要請等に基づいて、多くの事業者が事業の縮小や休業を余儀なくされており、それに伴って労働者(従業員)の休業も増加している。このような状況における労働者の休業は、それが生じる経緯や理由等の事情に応じて分類すると、以下の3類型に整理することができる。

  1. [①型休業]
  2.   感染拡大に伴って経済上の事情から事業の縮小を強いられ、あわせて従業員の休業を行っているもの(航空会社、旅行会社等)
     
  3. [②型休業]
  4.  (本来は営業することは可能であり、経済上の理由も存在しないものの)新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という。)に基づく行政からの休業要請の対象となり、従業員も休業となっているもの(劇場、遊興施設、学習塾等)
     
  5. [③型休業]
  6.   行政からの休業要請対象外であるが、自主的に休業としているものや、行政による在宅勤務の推奨を受けて在宅勤務の難しい一部の従業員につき休業の取扱いとしているもの(理容店、美容室、その他の事業者等)

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