SH1866 企業法務フロンティア「グループ内部通報制度に関する最高裁判決」 野宮 拓(2018/05/28)

そのほか労働法

企業法務フロンティア
グループ内部通報制度に関する最高裁判決

日比谷パーク法律事務所

弁護士 野 宮   拓

 

 平成30年2月15日、上場企業各社が整備しているグループ内部通報制度の設計に影響を及ぼすと思われる最高裁判決が出された(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87458)。

 本件は、上場企業の子会社にて勤務していた契約社員が他の子会社の従業員からセクハラを受けたとして、当該従業員、勤務先会社、当該従業員の所属する会社及び親会社たる上場企業に対して債務不履行及び不法行為に基づき損害賠償を求めた事案である。最高裁は、親会社の法的責任を認めた控訴審判決を覆し、親会社の法的責任を否定したものの、企業集団の業務の適正の確保等を目的として親会社がグループ会社の従業員向けに法令遵守等に関する相談窓口を設けている場合には、一定の場合にはグループ会社の従業員に対して適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があることを認めた。

 事案の概要は以下のとおりである。

 被上告人Xは上告人Y1の子会社Y2に契約社員として雇用され、Y1社の事業所内でY2社がY1社の別の子会社Y3から請け負っている業務に従事していた。

 Y1社は、法令等の遵守に関する事項を社員行動基準に定め、Y1社の取締役及び使用人の職務執行の適正並びにグループ会社から成る企業集団の業務の適正等を確保するためのコンプライアンス体制(「本件法令遵守体制」)を整備しており、その一環として、グループ会社の役員、社員等が法令等の遵守に関する事項を相談することができるコンプライアンス相談窓口(「本件相談窓口」)を設け、上記の者に対し、本件相談窓口制度を周知してその利用を促し、相談の申出があればこれを受けて対応するなどしていた。

 Xは、Y3社の従業員Yと交際を始めたが、その後、関係を解消したい旨をYに伝えた。しかし、YはXとの交際を諦めきれずに、事業所内でXに近づいて交際を求める発言を繰り返し、Xの自宅に押し掛けるなどし、Xは次第に体調を崩すようになった。Xは、Y2社の直属の上司にYにかかる行為をやめるよう注意して欲しいと相談したが、上司は朝礼の際に一般的な注意に及んだのみでそれ以上の対応をしなかった。その後もYの行為が続き、Xが上司らに相談したが対応してもらえなかったことから、XはY2社を退職し、派遣会社を介して別の事業場内における業務に従事した。

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