公取委、「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした
優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」を公表
――726件の事例報告等を分析――
公正取引委員会は6月14日、「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」を公表した。
公取委では、独占禁止法上の優越的地位の濫用規制及び下請法に違反する行為に対し厳正に対処するとともに、違反行為の未然防止に係る取組を行っており、この一環として、優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となり得る事例が見受けられる取引分野について、取引の実態を把握するための調査を実施しているところである。
近年、事業活動における知的財産保護の重要性が高まっており、また、公取委に、有識者から「優越的な地位にある事業者が取引先の製造業者からノウハウや知的財産権を不当に吸い上げている」といった指摘が複数寄せられているといった状況を踏まえ、公取委は、「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査」を実施したものである。
調査は、平成30年10月以降、①書面調査(製造業者に対し、30,000通の調査票を送付し、15,875社から回答(回収率52.9%))と②ヒアリング調査(122件。うち、製造業者に対するものが101件、事業者団体に対するものが13件、有識者に対するものが8件)により実施した。
以下、本報告書の概要を紹介する。
「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」の概要
1 「契約時のチェック体制・不安感等」について
「契約締結時等にノウハウ・知的財産権に係る取扱いをチェックする担当者又は相談できる外部の専門家(弁護士、弁理士等)の有無」を尋ねたところ、大企業においては、92.1%が「担当者等がいる」と回答した一方、中小企業においては、「担当者等がいる」と回答したのは72.6%にとどまった。
「契約締結時にノウハウ・知的財産権の取扱いについて不利な条項が入っていないか不安に感じることの有無」を尋ねた質問では、大企業では30.7%が「不安に感じる」と回答した一方、大企業ほどチェック体制の構築が進んでいない中小企業では、「不安に感じる」との回答は21.3%にとどまった。
2 「製造業者から報告された事例」について
(1) 全体の状況
今回の調査では、製造業者641社(大企業160社、中小企業480社、資本金額無回答1社)から、726件の事例報告があり、ベンチャー企業からの報告も寄せられた。報告された726件の内訳は、取引条件の内容自体を問題視するものが449件(61.8%)、取引条件に含まれていなかったものを無償で提供するよう求められたというものが277件(38.2%)となり、取引条件の内容自体を問題視するものが半数を超えた。
(2) 類型別・企業規模別の動向
類型別には、「製品を納めるだけの契約だったのに、レシピ、設計図面、3次元データ等の契約に含まれていないノウハウ・知的財産権まで無償で提供させられた」254件(18.4%)、「共同研究開発を行っていたところ、主に自社のノウハウや知的財産権を用いて新たに生み出された発明等であっても、全て一方的に取引先に帰属する取引条件になっていた」131件(9.5%)、「取引先に提供する内容に自社のノウハウや知的財産権が含まれているにもかかわらず、そのノウハウ・知的財産権に係る対価を考慮せずに一方的に低い対価を定められた(又は、ノウハウ・知的財産権に係る対価が無償だった。)」116件(8.4%)が多かった。
これを企業規模別にみると、大企業からは、取引条件として、出願前に取引先から許可を得る義務を課せられたり、共同研究開発における成果が取引先に一方的に帰属するようにさせられたりといった権利関係の事例が多く報告された。
一方、中小企業からは、発注内容に含まれていないレシピ、設計図面、三次元データ等を無償で提供させられるといったノウハウに関連した事例や買いたたき等に関する事例が多く報告された。
(3) 要請を受け入れた理由
取引先の要請を受け入れた理由としては、「取引先から今後の取引への影響を示唆されたわけではないが、その要請を断った場合、今後の取引への影響があると自社で判断したため」(36.2%)がもっとも多かった。
また、中小企業においては、受け入れた理由として「当時はノウハウ・知的財産権に関する専門的な知識がなく、取引先からの要請をそのまま受け入れていたため」を挙げたものが約1割に達した(大企業では3.9%)。
(4) 製造業者に生じた不利益
取引先の要請により生じた不利益としては、「現状、不利益は生じていない」(23.4%)がもっとも多かったが、この理由としては、ノウハウや知的財産権の場合、将来における発明等の帰属について不利な取引条件を設定されている場合でも現時点でまだ発明等が生じていない(具体的な不利益が生じていない)といったケースがあるほか、営業秘密の流出の有無やそれによる損害等を具体的に認識するのが難しいケースなどがあるためと考えられる。
次に多かったものは、技術流出により内製化されたり転注されたりすることを問題視する「取引先が自社のノウハウ・知的財産権を用いて、内製化したり、他の価格の安い事業者へ発注するようになった」(21.9%)であった。
なお、本報告書では、今回の調査で報告された事例を、次のように分類して「参考事例集」をまとめている。
- ◯ 参考事例集の構成
- 01 秘密保持契約・目的外使用禁止契約無しでの取引を強要される
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02 営業秘密であるノウハウの開示等を強要される
①秘密としている技術資料等を開示させられる
②発注内容にない金型設計図面等を無償で提供させられる
③一方的な工場見学や工場内撮影を強要される - 03 ノウハウが含まれる設計図面等を買いたたかれる
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04 無償の技術指導・試作品製造等を強要される
①競合他社に熟練工の特殊技術を無償で供与させられる
②継続取引の中での無償の試作品製造(実験等)を要請される - 05 著しく均衡を失した名ばかりの共同研究開発契約の締結を強いられる
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06 出願に干渉される
①出願内容の報告・修正を強いられる
②単独発明であっても、取引先と共同出願にさせられる -
07 知的財産権の無償譲渡・無償ライセンス等を強要される
①知的財産権の無償譲渡等を強要される
②知的財産権の無償ライセンス等を強要される
③最恵待遇でのライセンスを一方的に義務付けられる - 08 知財訴訟等のリスクを転嫁される
3 「公取委の対応」について
(1) 問題行為の未然防止に向けた周知活動
今回の調査では、これまであまり知られていなかった事例が多数報告されるとともに、書面調査等において、「これまでノウハウや知的財産権の問題について、優越的地位の濫用規制等の観点から考えたことがなかった」旨の意見を寄せる製造業者もみられた。このため、公取委は、独占禁止法及び下請法上問題となり得る行為を未然に防止する観点から、本調査結果を公表するとともに、経済産業省及び特許庁と連携し、製造業全体に対して本報告書を周知することとしている。
(2) 問題行為への厳正な対処
公取委は、今後とも、製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等についての情報収集に努めるとともに、違反行為に対して厳正に対処していく(下請法違反行為については、共同して下請法を運用している中小企業庁と連携して厳正に対処していく)こととしている。
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公取委、製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書の公表について(6月14日)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/190614.html -
○ 製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書の公表について
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/houdou.pdf -
○ 製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書のポイント(概要)
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/gaiyou.pdf -
○ 製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書(全体版)
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/houkokusyo.pdf