情報通信技術を活用した民事訴訟制度の見直しを審議する
法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会 第4回会議
岩田合同法律事務所
弁護士 蛯 原 俊 輔
1 はじめに
現在、法務省の法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会(以下「本部会」という。)では、民事訴訟制度をより一層、適正かつ迅速なものとし、国民に利用しやすくするという観点から、後述する情報通信技術を活用した口頭弁論期日の実現など、民事訴訟制度の見直しのための審議がなされている。本稿では、本部会で審議されている見直し事項の概要について解説した後、令和2年10月9日の本部会第4回会議で審議された事項のうち、証人尋問等に関する事項に関して、補足して解説する[1]。
2 本部会で審議されている見直し事項の概要
見直し事項の概要は、下表のとおりである[2](なお、以下、ウェブ会議及びテレビ会議を併せて「ウェブ会議等」、ウェブ会議等と電話会議を併せて「電話会議等」と表記する。)。
大項目 | 小項目 | 主な審議内容 |
総論 | オンライン申立ての義務化等 | 訴えの提起等の裁判所に対する申立てその他の申述をオンラインにより行うこと(オンライン申立て)を原則義務化 |
訴訟記録の電子化 | 全面的に訴訟記録を電子化 | |
訴えの提起 | オンラインによる訴え提起 |
事件管理システム(※1)に訴状等をオンラインで提出 ※1裁判所において、今後開発を予定しているシステム。当事者が外部からオンラインで接続することができ、裁判所に提出すべき書面等をアップロードする方法等によって提出することを可能とする。 |
濫用的な訴えを防止するための方策 | オンライン申立てを可能とすることにより、濫用的な訴えが増加するおそれがあるとの指摘があるところ、かかる訴えを防止するための方策を検討 | |
送達等 | ― |
従来の送達方法(郵便等)に加え、システム送達(※2)を設ける ※2 裁判所書記官が事件管理システムに送達すべき書類の電子データをアップロードし、送達を受けるべき者が同システムにアクセスして、閲覧又はダウンロードすることにより、送達すべき書類を受領する送達方法。 |
口頭弁論 | ― | 一定の要件の下、ウェブ会議等の利用により口頭弁論の期日における手続を実施 |
特別な訴訟手続 | ― | 裁判手続のIT化に当たって、審理期間の定めなどがある特別な訴訟手続を設ける |
争点整理 | ― | 裁判所が相当と認める限り、幅広く電話会議等による弁論準備手続の実現を可能とする |
書証 | ― | 現行法に明文の規定がない電子データの証拠調べについての規律を設ける |
証人尋問等 | ― | 当事者の利便性向上の観点から、ウェブ会議等により実施できる場合を拡充 |
その他の証拠方法 | ― |
|
訴訟の終了 | 判決 |
|
和解 | 電話会議等による和解手続の期日の実施 | |
訴訟記録の閲覧等及びその制限 | 訴訟記録の閲覧等 | 事件管理システムの利用登録をした当事者は、同システムに記録されている訴訟記録の閲覧及び複製をいつでもできるようにする |
閲覧等の制限決定があった場合における秘密保持制度 | 訴訟記録の閲覧制限の決定があった場合の、当事者の秘密保持制度の制度化 | |
口頭弁論の公開 | ― | 引き続き現実の法廷において行い、インターネット中継やテレビ中継は実施しない |
土地管轄 | ― | 現行の民事訴訟法の規律を維持 |
上訴、再審、 手形・小切手訴訟 |
― | 第一審の訴訟手続と同様IT化 |
簡易裁判所の手続 | 簡易裁判所の訴訟手続 | 地方裁判所の第一審手続と同様IT化する |
支払督促手続 | オンライン化されていない送達や異議申立て等の手続についても民事訴訟と同様にIT化 | |
手数料の電子納付 | ― | 現金の電子納付等に一本化 |
3 証人尋問等に関する事項について
現行の民事訴訟法では、ウェブ会議等による証人尋問が実施できる場合として、①証人が遠隔地に居住するとき、又は②事案の性質、証人の年齢又若しくは心身の状態等の事情により、証人が法廷に現実に出廷して証言すると圧迫を受け精神の平穏が著しく害されると認める場合であって、相当と認める場合に限定している(同法204条)。
しかし、本部会では、実施の要件を緩和し、①について、証人が遠隔地に居住していなくとも、証人の年齢又は心身の状態等により受訴裁判所に出廷することが困難な場合にも実施できるようにし、また、③裁判所が相当と認める場合であって、当事者に異議がないときにも、ウェブ会議等による証人尋問の実施を認めるようにすることが審議されている。
また、現行の最高裁判所規則では、ウェブ会議の利用は想定されず、証人が全国各地のどこかの裁判所に出頭して行うテレビ会議により証人尋問を行う方法のみが規定されている。
しかしながら、本部会においては、証人を裁判所以外の場所に出頭させて行うウェブ会議の方法による証人尋問の実施についても、審議されている。
なお、当事者尋問についても、上述した証人尋問と同様の見直しを検討している。
4 終わりに
本部会で検討されている民事訴訟制度の見直しが実施された場合、証人尋問等を含めた訴訟手続をオンラインシステムやウェブ会議システムにより行うことができるようになるため、訴訟当事者等の負担が減ることが期待される。今後の本部会における審議結果が注目される。
以 上
[1] 本稿執筆時点(令和2年10月26日)では、本部会第4回会議の議事録は公表されていないため、法務省HP(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00029.html)上の議事概要及び本部会部会資料に基づき解説を行う。
[2] 本部会部会資料1「民事訴訟法(IT化関係)の改正における検討事項の例」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/001322978.pdf)、同部会資料2「総論(オンライン申立ての義務化及び訴訟記録の電子化)」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/001322979.pdf)、同部会資料3「訴えの提起及び送達(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/001324465.pdf)、同部会資料4「手数料の電子納付」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/001324468.pdf)、同部会資料5「口頭弁論、争点整理手続等、特別な訴訟手続、証人尋問等」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/001328515.pdf)、同部会資料6「書証、その他の証拠方法等、訴訟の終了、土地管轄、上訴、再審、手形・小切手訴訟、簡易裁判所の手続」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/001331327.pdf)