グラス・ルイスの2017年版議決権行使助言方針
平田綜合法律事務所
弁護士 平 田 和 夫
1 はじめに
Glass, Lewis & Co.(グラス・ルイス)は、2016年11月30日、日本向けの議決権行使助言方針について、2017年版のもの(以下「本方針」という。)[i]を公表した。同日現在、英語版のみが公表されている。
本稿では、主に、本方針と2016年版の上記方針との相違点の概要を説明することとする。
2 二層制の取締役会の独立性
(1) 2016年版
二層制(業務執行機能と業務執行に対する監視機能を別個の機関に所掌させるもの)の取締役会について、最低2名以上の独立[ii]社外取締役があり、かつ、取締役会の20%以上が独立していることが必要である。この基準を満たさない場合、会長(会長がない場合、社長又はそれに準ずる役職の者)の再任議案に対し反対推奨をする。
(2) 本方針
取締役及び監査役の総数の3分の1が独立していることが必要である。この基準を満たさない場合、独立性に関する上記3分の1のレベルを満たすために、その社内取締役、社内監査役等に対し反対推奨をする。さらに、会社の会長(会長がいない場合は、経営トップ)がこの問題についての説明責任を負っていると考えている(以上について、本方針5頁)。
このように改定されたのは、日本のコーポレート・ガバナンスの実践を強化する近時の法令上及び規制上の努力に伴い、日本の取締役会において独立した取締役が増加しているためである。
なお、監査役会の独立性の基準については、2016年版と同様、監査役会の過半数である(本方針5頁)。
3 指名及び報酬委員会の委員長
(1) 2016年版
一層制(業務執行機能と業務執行に対する監視機能を同一の機関に所掌させるもの)の取締役会における委員会について、指名委員会等設置会社の監査委員会及び監査等委員会設置会社の監査等委員会に対してのみ、その委員長が独立取締役であることを要求する。
これに対し、指名委員会等設置会社の指名委員会及び報酬委員会については、その委員長が独立取締役であることは要求しない。
(2) 本方針
指名委員会等設置会社の指名委員会及び報酬委員会について、その委員長が社内取締役でないことを要求する。この基準を満たさない社内取締役に対し、反対推奨をする。
指名委員会等設置会社の監査委員会及び監査等委員会設置会社の監査等委員会について、その委員長が独立取締役であることを要求する点は、2016年版と同様である(以上について、本方針11頁、1頁)。
このように改定されたのは、指名委員会及び報酬委員会の重要性が増加しているためである。
4 兼任の制限
(1) 2016年版
上場企業の業務執行者を務める取締役が(自社を含む)合計4以上の上場企業の取締役会で役員を務める場合、及びそれ以外の取締役が(自社を含む)合計6以上の上場企業の取締役会で役員を務める場合に反対推奨をする。
(2) 本方針
ア 兼任制限の厳格化
上場企業の業務執行者を務める取締役が(自社を含む)合計2以上の上場企業の取締役会で役員を務める場合、及びそれ以外の取締役が(自社を含む)合計5以上の上場企業の取締役会で役員を務める場合に反対推奨をする(本方針8頁、1頁~2頁)。
このように改定されたのは、①過度に他社に関与する取締役は、特に危機の間に、会社の株主に重大な危険を及ぼす可能性があり、②学術文献によれば、一つの取締役会は、年間一人当たり約248時間を費やしているが、このことから、取締役及び監査役が効果的に貢献すること、特に業務執行者が他社に関与することができる取締役会の数は制限されると考えられるためである。
なお、グラス・ルイスは、監査役を上場企業の取締役会の一員とみなしているが、監査役としての地位が業務執行者の役割を果たすものとみなされるわけではない(本方針2頁注2)。
イ 考慮要素
本方針では、次の点が加えられている(本方針8頁)。
過大な数の取締役会における取締役の貢献が十分な時間を取締役会における義務の履行に専念する上で取締役の能力を制限するか否かを決定する場合、例えば、①その取締役が取締役会に貢献する他の会社の規模や場所、②問題とされる会社におけるその取締役の役割、③その取締役が大規模な非公開会社の取締役会で役員を務めているか否か、④問題とされる取締役会におけるその取締役の在職期間や⑤全ての会社におけるその取締役の出席率、といった関連する諸要素を考慮しなければならない。
5 株式型報酬プランに関するポリシー
(1) 2016年版
オプション・プランを評価する際に10個の原則を踏まえる必要があり、例えば、会社はそれが必要な場合のみ、より多くの株式を求めるべきである等の原則があるが、次の(2)に掲げる原則は含まれていない。
(2) 本方針
ア 次の点をポリシーとして加える(本方針20頁、2頁)。
-
① 付与の規模
オプション又は株式の数が完全に開示されない場合、その提案に反対推奨をする。 -
② 権利行使価格等
ストックオプションの権利行使価格又は割引率が完全に開示されない場合、又はそのプランの管理者の裁量により決定される場合、その提案に反対推奨をする。 -
③ 権利確定期間
株式報酬プランにおける権利確定期間が2年未満である場合、その提案に反対推奨をする。ただし、その報酬が個々の取締役会における地位に応じ退職により付与される場合、権利確定期間のみに基づくことを理由として反対推奨をすることは差し控える。 -
④ 参加者
社外取締役、一つの委員会を有する一層制の取締役会の監査委員(監査等委員会設置会社の監査等委員)及び/又は監査役が業績連動型インセンティブ報酬の受領者である場合、その提案に反対推奨をする。ただし、上記参加者のために提案された株式報酬が単に時間を基礎とする場合、上記参加者であることのみを理由として反対推奨をすることは差し控える。
イ このように改定されたのは、株主が提案された株式の付与を評価するためには、包括的、適時かつ透明性のあるポリシーの開示が重要であるためである。
6 おわりに
とりわけ前記4(兼任の制限)に関し、コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11②は、「……例えば、取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきであり……」と定めている。
このような規律を踏まえ、いずれも若干緩やかな規律ではあるものの、例えば、株式会社日立製作所は、「取締役は……、当社の他に4社を超える上場会社の役員(取締役、監査役又は執行役)を兼職しないことが望ましい。」と定めている(同社コーポレートガバナンスガイドライン第6条)。コクヨ株式会社は、「取締役及び監査役は……、コクヨグループ以外に3社を超える役員の兼任をしないことが望ましい。」と定めている(同社コーポレートガバナンスガイドライン第3条第4項)。
今後、このような数値基準を定める企業が増加するか否かは不明であるが、本方針をはじめ、兼任の制限に関する何らかの規律は徐々に増加するものと思われる。