◇SH3418◇貿易保険の在り方に関する懇談会、制度見直し・運用改善で報告書を取りまとめる――新型コロナ影響により課題顕在化、支払対象範囲・付保対象取引の拡大を提言 (2020/12/15)

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貿易保険の在り方に関する懇談会、制度見直し・運用改善で報告書を取りまとめる

――新型コロナ影響により課題顕在化、支払対象範囲・付保対象取引の拡大を提言――

 

 経済産業省は11月19日、「貿易保険の在り方に関する懇談会」(座長・柳川範之東京大学大学院経済学研究科教授。以下「懇談会」という)での議論を踏まえて報告書「貿易保険の在り方に関する懇談会 報告書―今後の貿易保険の在り方について―」を取りまとめたとし、公表した。懇談会の最終会合となった11月11日開催「第3回 貿易保険の在り方に関する懇談会」関係のウェブサイトは12月2日に更新され、議事要旨が閲覧できるようになっている。

 懇談会は「今般の新型コロナウイルスの影響により貿易保険に関して顕在化した課題や、対外取引の在り方の変化に伴う貿易保険の利用者ニーズの変化等を整理し、今後の対応の方向性を検討する」として経産省が10月12日、翌13日からの開催を発表したもの。メンバーは損害保険会社・海外進出メーカー・商社・銀行・学識経験者など計10名で、その後、10月28日に第2回会合を開き、計3回の審議と報告書の内容に係る最終会合での座長一任により取りまとめられた。経産省貿易経済協力局通商金融課が事務局を務めたものとみられ、オブザーバーとして金融庁・財務省が参加。会議は非公開ながら、関係サイトにおいて各会合の議事次第・資料・議事要旨が公開されている。

 開催発表時のリリースからより具体的に問題意識を把握すると、次の3点となる。(ア)新型コロナの世界的な流行により、わが国企業の貿易や投資等の対外取引に影響が生じ、株式会社日本貿易保険(NEXI)においても一層の対応を求められることになった。(イ)貿易保険に関して顕在化した課題を分析するとともに、米中対立や気候変動等のリスクも生じうるなか、このような危機が起きた際にも円滑に対処できるように対応策を検討することが重要である。また(ウ)対外取引の在り方が変化するなか、貿易保険制度と取引実態に乖離が生じているとの指摘もあり、NEXIが利用者ニーズの変化に柔軟に対応することで、わが国企業の対外取引を積極的に後押しすることも重要である。

 NEXIは貿易保険法を設立根拠法とする政府100%出資の公的輸出信用機関。当初は政府が運営していた貿易保険事業は2001年、独立行政法人として設立されたNEXIに移管され、2015年の貿易保険法改正により2017年4月、政府による再保険制度・貿易再保険特別会計の廃止とともにNEXIは政府が発行済株式の総数を保有する特殊会社へと移行した。「対外取引において生ずる通常の保険によつて救済することができない危険を保険する事業を行うことを目的とする株式会社」と位置付けられる(貿易保険法3条)。

 公表された報告書では「1.はじめに」において、NEXIのあり方に端的に焦点を当てた。わが国企業の対外取引の停滞、経済全体の縮小を前に貿易保険に期待される役割は大きく、NEXIは新型コロナの影響による損失について保険金の支払い、海外日系子会社の運転資金調達への付保などを通して日本企業に対する支援を行っている一方で、(a)利用者からは一部の保険において制度上、新型コロナを事故事由として保険金が支払われないことなどについて改善を求める声があること、加えて(b)わが国企業を取り巻く中長期的なビジネス環境の変化を受け、このようなビジネスの実態に即した制度や運用の改善を行い、わが国企業の競争力強化につながるような商品の提供を求める声があることの半面、(c)保険という事業の範囲で、中長期の収支相償の原則のもと、NEXIが自律的経営を継続できるように制度設計や運用改善を行うことが大前提となることを指摘。そのうえで、次章「2.貿易保険に関する課題と対応の方向性」では「2-1.貿易保険制度の見直しを検討すべきもの」「2-2.運用を更に改善すべきもの」とに大別し、対応の方向性を示すものとしている。

 上記2-1「貿易保険制度の見直しを検討すべきもの」を具体的にみると、まず挙げられたのは(1)保険金支払いの対象範囲についてである。報告書では「保険金支払の対象となる事故事由や費用が限定的となっているため、 新型コロナの影響により生じた損失について保険金支払を受けられなかった」とされる2事例を踏まえ、対応の方向性とし、①「当事者の責めに帰さない非常リスクが発生した際、当該企業が追加的に負担することとなった費用を一定程度塡補するため、追加的な費用を塡補する保険の事故事由を、感染症を含む、戦争・革命・内乱以外の非常リスクにも拡大することが適当である」こと、②「塡補対象とする費用に国内での貨物保管料を含めるなど、現実に発生する追加的費用に対応できるよう保険の塡補範囲についても拡充することが適当である」こと、③「こうした手当てを行うにあたっては、今回の指摘に対応するのみならず、今後同様のニーズが利用者から寄せられた際にも速やかに対応できるようにすることが適当である」ことなどを指摘した。

 次いで(2)付保対象とする取引の範囲につき、①サプライチェーンの複層化への対応を挙げ、「現在の海外投資保険は、我が国企業が行う直接投資における損失のみを塡補対象としているところ、企業が行う直接投資のみならず、再投資先以降の間接投資についても保険の対象とし、我が国企業のレジリエンス強化を支援できるようにすることが適当である」とした。これは、わが国企業を取り巻くビジネス環境において貿易立国から投資立国への転換、ビジネスのグローバル化、サプライチェーンの複層化が進むなか、たとえば、今般の新型コロナの流行により、非常リスクが低いと判断された国の案件についてもリスクにさらされる可能性があることから、企業の行う事業に伴うリスクをより広範に引き受ける必要性が生じているといった事情を踏まえるものである。

 付保対象取引の範囲を巡っては、②仲介貿易への対応も取り上げられており、現状、仲介貿易における前払金については前払取引に関する保険(前払輸入保険)の対象となっていない。一方、仲介貿易の利点を考慮すると「仲介貿易については、前払取引に関する保険の対象とすることが適当である」としており、後払いの仲介貿易の取引についても、現在は本邦および仕向国での非常リスクの発生のみが保険の対象とされているところ、「船積国・サプライヤーのリスク審査方法、適切な保険料設定等に留意しつつ、こうした指摘への対応を慎重に検討することが適当である」とした。

 ほか、制度の見直しを検討すべきものとして(3)NEXIが国際金融機関や海外の輸出信用機関との連携を一層強化すること、(4)新興国等の取引先企業・現地金融機関の信用リスクや金利変動リスク等を適切に評価し付保できるようにするなど、さらなる支援を検討すること、(5)一定の輸出不能に関し、取引相手方の債務の履行遅滞も事故事由とすること、(6)運転資金の資金繰りへの支援を求める企業等への融資に対する保険の提供についてはより迅速に対応できるようにすること――が適当とされている。

 また、上記2-2「運用を更に改善すべきもの」には(1)SDGs 等の取組支援、(2)中堅中小企業の支援拡大・情報提供、(3)企業の運転資金確保・銀行の融資余力拡大、(4)民間損保会社との連携強化を挙げたほか、(5)その他とし、ここでは「海外投資保険の運用改善」など計6項目を具体的に掲げた。さらに、最終項を「2-3.その他の課題」に充て、現在の貿易保険制度の根幹に関わる課題に触れつつ「更に検討」としている。報告書は本文全11頁建ての比較的コンパクトな資料ともなっており、対外取引の関係者におかれては今後の制度見直し事項・運用改善点に関する最新の動向を明らかにするものとして是非参考とされたい。

 

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