◇SH3890◇総務省、平成26年改正法附則に基づく「行政不服審査法の改善に向けた検討会 最終報告」を公表――迅速化・活用促進・公正性向上のためエビデンスに基づく提言、マニュアルも今後大幅改訂へ (2022/01/26)

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総務省、平成26年改正法附則に基づく「行政不服審査法の改善に向けた検討会 最終報告」を公表

――迅速化・活用促進・公正性向上のためエビデンスに基づく提言、マニュアルも今後大幅改訂へ――

 

 総務省は1月14日、「行政不服審査法の改善に向けた検討会 最終報告」を公表した。併せて同日、2021年10月26日から11月24日にかけて任意の意見募集に付した「行政不服審査法の改善に向けた検討会 中間取りまとめ」に対する意見募集結果を発表した。

 行政不服審査法の改善に向けた検討会(座長・髙橋滋法政大学法学部法律学科教授)は2021年5月28日に初会合を開催。旧法を全部改正するかたちで2014年に制定された行政不服審査法(平成26年6月13日法律第68号)が2016年4月1日に施行されているところ、同法附則6条には「政府は、この法律の施行後5年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」との検討条項が置かれており、2021年4月には施行から5年が経過した。同法の施行状況、その課題・改善の方向性などに係る検討のために組織されたのが「行政不服審査法の改善に向けた検討会」である。

 座長を始めとする大学教授・大学院教授ら計7名を構成員とし、「最終報告(案)」の検討に至る12月21日までに6回の会合を開いた。検討会の庶務は総務省行政管理局管理官(行政通則法担当)において処理するものとされ、オブザーバー参加として「警察庁、総務省、財務省、厚生労働省、法務省、行政不服審査会などの国の行政機関や地方3団体の事務局」(第6回会合議事録による)といった機関の傍聴があった。

 検討会における論点の検討に当たっては、座長ら検討会の複数の構成員が取りまとめた報告書「行政不服審査制度の見直しに向けた論点整理に関する調査研究」(2021年3月・行政管理研究センター)を踏まえて論点を分類・整理(検討手法の詳細などについて、最終報告・第1「2 検討会における検討の進め方」参照)。士業団体・行政庁等へのヒアリングなども経て、10月25日に上記「中間取りまとめ」が公表された。翌26日から開始された意見募集には27の個人・団体などから意見が寄せられ、これらに対しては次の「考え方」が表明されている。(a)マニュアルや研修等の最終報告を踏まえた改善方策の検討に反映(19件)、(b)改善方策の効果把握のための調査の設計や運用状況の把握に反映(11件)、(c)中間取りまとめ後の加筆箇所等を教示(12件)、(d)最終報告に沿って鋭意対応(19件)など。

 検討会では12月2日の第5回会合において、意見募集での指摘や国の行政機関・地方公共団体(都道府県・政令市・市区町村等)へのアンケート結果を踏まえ「最終報告(素案)」に関する審議を行った。同月21日の第6回会合では「最終報告(案)」の検討に臨み、一部文言の調整などについては座長一任のうえ、1月14日の公表に至ったものである。

 今般確定・公表された「最終報告」(本体)によると、「はじめに」「第1 総論」「第2 平成26年法改正のねらいと評価等」「おわりに」で構成されており、第1に「3 本最終報告の骨子」を織り込んだ。第2では、まず「1 前提」として、改正のねらいが「迅速な救済」「制度の活用促進」「公正性の向上」と整理されることを述べたうえで「2 迅速な救済」「3 制度の活用促進」「4 公正性の向上」「5 平成26年法改正時に主要論点とされていなかった課題」「6 平成26年法改正の評価等を踏まえた総括」と構成。表紙から巻末の参考資料まで、全体で69頁建てのものとしている。

 ここで上記・第2「6 平成26年法改正の評価等を踏まえた総括」から、本項で改めて整理・補足される「今後、積極的な改善を図るべき五つの事項」をみると、次の5点が挙げられている。①審理手続の担い手の確保・育成、②不服申立てに関わる各主体の体制の整備、③運用マニュアルに沿った手続の徹底、④国民に対する情報提供及び審査庁・処分庁間の連携の推進、⑤行政不服審査会等の答申における付言の活用。

 適切な制度運用の実施のため、まずは適切な担い手の確保とともにその育成が重要であるとして、審理員については「定期的・継続的に、行審法や関係法制の制度概要に加え、争点の整理の方法等に係る具体的かつ実践的な研修を設けることが必要」と指摘(第2・6の上記①参照、以下同様)。これに加え、法改正のねらいや目標、制度趣旨に沿った運用の徹底などのため「処分庁、審査庁、審理員、行政不服審査会等といった不服申立てに関わる各主体の体制を整備することも必要」としている(上記②参照)。

 体制整備について具体的には、審査庁が(i)一定の体制が確保されているとされる国の機関の場合であっても「審理手続の事務の進め方や制度の趣旨徹底といったそれらのガバナンス体制に課題が見られる」ことから、審査庁の事務の遂行に幹部職員が責任をもって当たる体制の整備を提言。また(ii)審理員や行政不服審査会等の委員の確保など単独で十分な体制を整えることが困難な地方公共団体の場合には、審査会事務などを複数の地方公共団体で共同処理する方策を挙げながら「現に県や他市町村への事務の委託等の具体例・工夫例があることから、このような事例を総務省において紹介し、普及させることが考えられる」とした。さらに、特に小規模な市町村については「審理員等をサポートする人材を国があっせん・派遣する仕組みを設けるなどの支援を行うことが考えられる」としている。

 行政不服審査制度が行政訴訟制度と並んで国民に対し実効的な権利救済を保障するための基盤的な制度であることから「行審法で規定する手続を形式的に実施するだけでは足りず、趣旨を踏まえた適切な運用を確保する必要がある」とも指摘しており(上記③参照)、このため(a)行政不服審査法の趣旨を運用において徹底するうえで運用の具体的な指針を示すこと、(b)そこから逸脱する対応がなされることがないよう当該指針の遵守を促していくことが肝要であるとされる。

 このような観点から「本検討会における各課題・改善方策の検討を踏まえて改訂されることとなる総務省によるマニュアル」について、(i)国の機関には「制度運用において遵守すべき重要な運用規律を示したものであり、各府省等は当該マニュアルに従って行審法を厳正に運用すべきものであり、総務省は、今後、その運用を更に徹底すべきである」と要請するとともに、(ii)地方公共団体に対しては、総務省において「当該マニュアルに即した行審法の厳正な運用が確保されることが望まれることを明確にした上で、積極的な情報の提供と助言等を行う必要がある」と述べている。

 

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