◇SH4005◇東京地裁、グローバルダイニングの国家賠償請求事件で東京都の施設使用停止命令を違法とする判断――都知事の過失、特措法・本件命令の違憲性は認めず、営業損害の一部104円の請求は棄却 (2022/05/25)

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東京地裁、グローバルダイニングの国家賠償請求事件で東京都の施設使用停止命令を違法とする判断

――都知事の過失、特措法・本件命令の違憲性は認めず、営業損害の一部104円の請求は棄却――

 

 東京地方裁判所民事第42部(松田典浩裁判長)は5月16日、レストラン経営による飲食事業を営むグローバルダイニング(本店・東京都港区、東京証券取引所スタンダード市場〔提訴時・市場第二部〕上場)が新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言期間中に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき東京都知事が発出した夜間営業に係る施設使用停止の命令(以下「本件命令」という)を巡って東京都を相手取り本件命令の違法性・違憲性を主張、営業損害の一部である104円の支払いを求めた国家賠償請求事件で、都知事の過失はなかったとして原告の請求を棄却しつつ、本件命令については違法とする判決を言い渡した。同社代表取締役社長および訴訟代理人弁護士は同日「判決結果をうけて」と題するコメントを発表し、控訴審における方針を表明している。

 本事件は新型コロナウイルス感染症のまん延防止対策としての緊急事態宣言期間中である2021年3月18日、都側の営業時間短縮の要請にグローバルダイニングが応じなかったことから都側が新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という)45条3項に基づき、本事件の対象施設となるグローバルダイニングの店舗について午後8時から翌日午前5時までの間の営業に使用することを停止する旨の本件命令を発出したため、グローバルダイニングが(a)本件要請に応じられない正当な理由があったこと、(b)本件命令の発出は特に必要があったと認められないことなどの理由で違法であること、また(c)特措法および本件命令は営業の自由、表現の自由等の基本的人権を侵害するなどの理由で違憲であることを主張するとともに、(d)本件命令に従い営業時間を短縮したために売上高が減少し、営業損害を被ったとして国家賠償法1条1項に基づき、計26店舗の本件対象施設1店舗当たり日額1円の4日分となる104円の支払いを求めたものである。争点は(1)本件命令の違法性(争点1)、(2)特措法および本件命令の違憲性(争点2)、(3)原告の損害(争点3)であった。

 争点1に絡み、グローバルダイニングはまず(ア)本件命令発出日に新型インフルエンザ等緊急事態であったかについて、新規感染者数や重症用病床使用率などを引合いに出しながら実質的に判断されるべきとし「本件命令発出日(3月18日)に新型インフルエンザ等緊急事態ではなかった」と主張。続いて(イ)本件命令に違法な目的があったかどうかについても、東京都が上記・計26店舗の本件対象施設のほかには「わずか6施設(6事業者)に対してしか、45条3項命令(編注・「本件命令」と同旨)を発出しなかった」ことなどを指摘しながら、(ウ)本件要請に応じない正当な理由があったかどうか、(エ)本件命令の発出は特に必要があったと認められるかどうか、(オ)本件命令が比例原則に違反するかどうか、(カ)特措法施行令等の定めは特措法の委任の範囲を超えているかどうか、(キ)都知事が職務上の注意義務に違反したかどうか――について大要次のように主張を展開した。「都知事は、新型インフルエンザ等緊急事態ではなかったのに本件命令を発出し、しかも同命令には違法な目的があった。また、都知事は、原告が本件要請に応じない正当な理由があったかどうかの判断に当たり、原告の経営状況等を考慮すべきであったにもかかわらず、この観点を看過した」「本件命令の発出は特に必要があったと認められるかどうかに関し、都知事は、原告の店舗で実際にクラスターが発生したか、本件記事の発信の影響を受けて夜間の営業を継続した飲食店が存在したかなどについて検証を行わなかった(編注・グローバルダイニングは1月7日以降、同社ホームページに代表者名で「当社は(緊急事態)宣言が発令されても営業は平常通り行う予定でございます」とし、その理由4点を掲げる記事を掲載していた)」「本件命令の発出に先立ち専門家に対する意見聴取が行われたものの、これは、発出の必要性の有無につき検討された痕跡が全くないなど、極めて不十分なものであった」「都知事は、本件命令の発出に当たり、特措法45条3項所定の各要件についての検討を怠った過失があり、職務上の注意義務に違反したというべきである」。

 松田裁判長は判決で上記(ア)について、特措法の文言解釈とも齟齬するなどとして原告の主張を斥けつつ、2021年3月中旬ころ、感染再拡大の懸念はあったものの新規感染者数が大幅に減少し、医療提供体制のひっ迫の状況も緩和しており、これらの指標の総合的な判断により「政府対策本部長は、本件命令の発出日の前日(同月17日)に、ステージの数字が解除の方向に入っているなどと述べて、同月21日に本件緊急事態宣言を解除する旨の方針を示した」ことなどに触れ、このような事情は「本件命令発出日に新型インフルエンザ等緊急事態であったかどうかの判断を左右するとはいえないものの、同命令の発出は特に必要があったと認められるかどうかの判断において、考慮要素になり得る」とした。(イ)については「同命令は緊急事態措置に対し明示的に反対意見を表明していない飲食店にも発出され、又は発出される蓋然性が高かった」などとして違法な目的があったとは認められないとしている。一方で「2000余りの店舗が夜間の営業を継続する中で、45条3項命令の対象になった施設の大多数が原告の店舗であったことは、原告の指摘するとおりである。この点は、……本件命令の発出は特に必要があったと認められるかどうかの判断において、考慮要素にするのが相当である」とした。続いて(ウ)につき「原告において同要請に応じない正当な理由があったとは認められない」と認定。

 そのうえで上記(エ)本件命令の発出は特に必要があったと認められるかどうかに関しては、まず(i)45条3項命令が「特に必要があると認めるとき」に限定して発出し得ること、命令に違反した場合に当該違反行為をした施設管理者が過料に処せられることから、制裁規定の前提になるものとしてその運用が慎重なものでなければならないと指摘し、原告の「都知事が命令を行うに当たっては、当該施設管理者に対する必要最小限の措置であり、過料の制裁の前提にある不利益処分を課してもやむを得ないというに足りる高度の必要性があることが求められる」とする主張について、そのまま採用しがたいとしながらも「施設管理者が45条2項要請に応じないことに加え、当該施設管理者に不利益処分を課してもやむを得ないといえる程度の個別の事情があることを要するという限度で、首肯し得る」と述べた。当該「個別の事情」の有無の判断に当たっては、内閣官房が都知事ほかに対し、本件命令発出日に先立ち、または本件命令発出日の後に示した見解・指摘が参考になるものとする。これを踏まえ、(ii)個別の事情の有無について、原告の本件対象施設において「相当の感染防止対策が実施されていたのであるから、クラスターが発生するリスクが高いものとして実際に確認できる場合にあったと認めることはできない」とした。

 また、都側が主張するように(iii)本件命令発出の必要性の有無の判断について、これが都知事の裁量に委ねられているとしても「特措法は、都知事が45条3項命令を発出し得る場合を、施設管理者が45条2項要請に応じないことに加え、特に必要があると認めるときに限定しているのであるから、その裁量の幅が被告の主張のように広範なものとはいえない」としたうえで、都側の主張する事情を検討。①「同命令発出日の頃の都内での新規感染者数の推移や医療提供体制のひっ迫の状況に基づけば、緊急事態措置として飲食店の営業時間短縮の徹底を図るべきであったこと」、②「飲食店ごとの感染防止対策にまかせるのみでは、営業時間短縮措置の代替策として十分ではなかったこと」を挙げて本件命令の発出は特に必要があったと認められるとの主張に対し、まず①に関しては、この事情が45条2項要請を行う前提条件であるところ「同要請を受けた施設管理者がこれに応じないとき、更に①の事情があれば45条3項命令発出は特に必要があると認められるとすると、対象となる施設の個別の事情とは関わりなく、常に『特に必要があると認めるとき』との要件が満たされることになり、制裁規定の前提となる不利益処分を課すのは慎重でなければならないという観点から、都知事が同命令を発出し得る場合を限定した法の趣旨が損なわれ、不合理といわざるを得ない。①の主張は、失当というべきである」と述べた。②の主張についても「感染防止対策を講じていることが上記要件の考慮要素になり得る旨の内閣官房の見解と齟齬するし、営業時間短縮措置の代替策として十分でなかったというのは、同措置の徹底を図るべきであった旨、上記①の主張を繰り返すものにすぎず、もとより失当である」とした。

 さらに、被告として感染リスク抑制のために本件命令の発出は特に必要があったと認められるとする(ix)上場企業で知名度の高い原告による本件対象施設での夜間営業継続・来店促進が市中の感染リスクを高めており、緊急事態措置に応じない旨を強く発信することで他の飲食店の夜間営業継続を誘発するおそれがあったとする主張についても、①都内飲食店のうち2千余りの店舗が営業時間短縮の協力要請に応じず夜間営業を継続するなか「いかに上場企業であるとはいえ、上記2000余りの店舗の1%強を占めるにすぎない本件対象施設において、原告が実施していた感染防止対策の実情や、クラスター発生の危険の程度等の個別の事情の有無を確認することなく、同施設での夜間の営業継続が、ただちに飲食につながる人の流れを増大させ、市中の感染リスクを高めていたと認める根拠は見出し難い」こと、②「本件命令は4日間しか効力を生じないことが確定していたにもかかわらず、被告が同命令をあえて発出したことの必要性について、……内閣官房の見解等において求められる合理的な説明はされておらず、また、同命令を行う判断の考え方や基準についても説明がない」こと、③上記・本件記事が「原告代表者の意見を表明したにとどまり、他の飲食店に夜間の営業継続を扇動したり原告との協調を呼びかけたりしたものではなかった」点、「本件記事の掲載日から本件命令発出日までの2か月余りの間に、本件記事に示された原告代表者の意見に触発されるなどして実際に夜間の営業を継続した飲食店の存在を認めるに足りる証拠はな」く、そうだとすると「これに引き続き本件命令発出日以降の4日間のうちに、本件記事の発信が他の飲食店の夜間の営業継続を誘発する具体的なおそれがあったということもできないと考えられる」点からも「本件命令は4日間しか効力を生じないことが確定していたにもかかわらず、被告が同命令をあえて発出したことの必要性について、合理的な説明はされておらず、また、同命令を行う判断の考え方や基準についても説明がない」こと、④「上記2000余りの店舗中、被告が本件対象施設のほかには、わずか6施設(6事業者)に対してしか、45条3項命令を発出しなかったことは……、制裁規定の前提となる不利益処分を課された原告にとって不公平なものであり、内閣官房の指摘する公正性の観点からの説明は困難といわざるを得ない」ことを指摘。

 もって「本件命令につき、原告が本件要請に応じないことに加え、本件対象施設につき、原告に不利益処分を課してもやむを得ないといえる程度の個別の事情があったと認めることはできない」と述べたうえで、本件命令の発出は特に必要であったと認められず、違法であるとする判断を示したものである。

 なお、上記(オ)および(カ)については判断の必要がないとし、(キ)都知事が職務上の注意義務に違反したかどうかについては、結論として「本件命令を発出するに当たり過失があるとまではいえず、職務上の注意義務に違反したとは認められないというべきである」と判示した。

 また、上記(2)特措法および本件命令の違憲性(争点2)について、「特措法45条2項及び3項所定の規制は、同法の目的に照らして不合理な手段であるとはいえないから、これら各条項が原告の営業の自由を侵害し、法令違憲であるとは認められない」とする判断を示したうえで、本件命令に関しても、結論として①原告の営業の自由が侵害されたというべき事情は認められず、②原告が主張する表現の自由に対する過度な干渉として憲法21条1項に違反すると認めることはできないとし、③法の下の平等については「争点1(本件命令の違法性)の判断において事情として考慮したとおりであり……、更に平等原則違反の有無を判断する必要性を認めない」としている。

 

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