◇SH1860◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(73)―企業グループのコンプライアンス⑥ 岩倉秀雄(2018/05/25)

未分類

コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(73)

―企業グループのコンプライアンス⑥―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、組織間コミュニケーション対境担当者について述べた。

 組織間コミュニケーションでは、組織内外の接点に位置するゲートキーパーで経営環境の情報源や時には革新のイニシエーターになる対境担当者の役割が大きい。

 親会社が子会社にコンプライアンスの浸透、定着を図る際には、対境担当者であるコンプライアンス部門の組織内での地位を高め権限を強化するとともに、経営トップや担当役員、監査役、内部監査部門、経営管理部門、経営企画部門、人事部門、総務部門等、しかるべき地位の者や複数の部署が、コンプライアンスの重要性を伝えることが効果的である。

 今回は、組織間関係の調整メカニズムについて考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス⑥:組織間関係の調整メカニズム】

 組織間関係の調整メカニズムは、組織間の協力確保のメカニズムであり、組織が自らの目標を達成するために、他組織との依存関係を処理、管理する機構である。[1]

 組織にとって、他組織は重要な経営環境であり、他組織との調整は単なるビジネス上の取引以外に合弁、提携、役員の兼任・受け入れ等の多様な協力関係がある。

 親会社と子会社の協力関係の形成にも、組織間調整メカニズムが働く。

 親子会社の関係は、組織間調整メカニズムでは、資本関係に基づき互いに自主性を保持しながら、協力を通じて組織間の相互依存に対処する「協調戦略」であり、重要なことは、

 ⑴ 他組織の情報を獲得すること、⑵ 依存している他組織に対して情報伝達経路を確保すること、⑶ 重要な他組織からの支持を獲得すること、⑷ 組織を正当化することに対する価値を賦与すること、である。

 一般に、組織間協調戦略には、以下のものがある。

(1) 規範の形成(暗黙の了解)

 共通の利益に対する期待と組織間の信頼に基づく。契約という公的メカニズムが存在しない場合でも、互いの行動の確実性を保障し他組織からの支持を獲得するのに役立つ。

(2) 契約・協定

 組織間の不確実性を減少させその円滑化・安定化に役立つ事前の法的調整ルール。強力だが環境変化に対応する柔軟性が弱い。

(3) 役員の受入れ・兼任

 他組織の代表を組織の一員として受け入れ政策決定機構に参加させることにより、依存関係の調整や他組織を支配するメカニズムである。

(4) 合弁

 2つ以上の組織が、共同事業へ出資することにより、自律性を維持しながら他組織が保有し自組織にはない資源へアクセスする場合や、他組織との競争上の不確実性を処理するときに形成されやすい。資源の相互補完性をベースとし知識創造にも役立つ。

(5) アソシエーション

 2つ以上の組織が共同目標を達成するために(同業種間、異業種間、地域レベル、全国レベル、国際レベル等様々であるが)、資源の獲得や情報の確保、影響力の行使等において組織間の協力が必要なときに、集中度が中程度の産業で形成されやすい業界団体や協同組合の連合会等。

 なお、企業グループではないが、生活協同組合や農業協同組合の連合会等では、組織連合体の中心組織と会員組合の間の(出資金や事業取引等で)経済的結びつきが強く、かつ、独立した法人組織として経済的主体性を持っている。[2]

 このような組織では、組織間の依存度と利害関係は強いものの、経営的には独立を保っており、会員と連合会の中心組織や会員組織間に資源の配分をめぐるコンフリクトが発生しやすいにもかかわらず、その調整システムが確立されていないことが多いので、コンフリクトが顕在化しやすい。

 このような組織連合体の経営では、全体の統制と部分の自主性のバランスをとる必要があり、そのためには、メンバーが納得する民主的意思決定のルールの設定、リスク負担とベネフィットの配分、中途半端でない明確な戦略の設定、個々の組織の短期的利益追求ではなく連合体全体の利益を優先することが、中長期的には自組織の利益にもつながるという確信を持たせること(相利共生のメカニズムの形成)が、重要である。

 また、組織全体の方向を決めるオーソライズされたビジョンや組織連合体全体の価値観である組織文化の果たす役割も大きい。

 したがって、組織連合体の中心組織が会員にコンプライアンスの徹底を要請する場合には、コンプライアンスの徹底が連合体の構成員である会員に、ベネフィットを与え社会の要請に応える(経営環境の不確実性を減少させる)ことにつながることを、納得させる必要がある。

 このような組織連合体は、資本による支配・所有のタイトな組織間関係にある企業グループ以上に、多段階の対境担当者による人的交流、出張や会議による対面的情報交換等、非定型的コミュニケーション手段の活用が重要になる。

 

 次回は、組織間文化と組織の組織について考察する。



[1] 山倉健嗣『組織間関係――企業間ネットワークの変革に向けて』(有斐閣、1993年)90頁

[2] 筆者は、組織間構造の違いによる組織間関係の考察を、岩倉「組織連合会の環境適合戦略」青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士論文(1994年)及び、岩倉「協同組合組織の環境適合戦略」日本中小企業学会編『中小企業21世紀への展望』(同友館、1999年)において述べている。

 

タイトルとURLをコピーしました