◇SH1915◇積水ハウス、株主からの提訴請求への対応 臼井幸治(2018/06/19)

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積水ハウス、株主からの提訴請求への対応

岩田合同法律事務所

弁護士 臼 井 幸 治

 

 積水ハウス株式会社は、本年6月11日、同社監査役会が、株主よりなされた提訴を受けて対応方針を協議したところ、同社の全監査役として、代表取締役に対して損害賠償請求訴訟を提起しないことを決定したことを、同社ホームページに公表した。これは、同社が被害を受けた分譲マンション用地取引での巨額詐欺事件における損害について代表取締役の善管注意義務違反・忠実義務違反を主張して代表取締役に対する損害賠償請求訴訟を提起することを求められていたのに対し、当該訴訟を提起しないことを決定したものである。

 6ヵ月前から引き続き株式を有する株主は、株式会社に対し、書面等により、役員等の責任追及等の訴えを提起するよう請求することができ(会社法847条1項)、株式会社が当該請求の日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる(同条3項)。

 このように、提訴請求を受けてから、株式会社が対応を検討し判断を行うまでには60日という短い期間しか存しないため、各企業においては、提訴請求を受けてから行うべき対応内容を事前に認識しておく重要性が高い。

 そのため、以下、株式会社が提訴請求を受けてから行うべき事項を簡潔に説明する。

 

 まず、上場企業においては、提訴請求がなされた事実を開示すべきか検討を行う必要がある。単に提訴請求がなされただけでは、上場規則上の適時開示事由に該当しないものと考えられるが、任意に開示している事例は多い。提訴請求が会社に与える影響等を勘案の上、開示の要否及び内容について検討する必要がある。

 次に、提訴するか否かの判断を行うため、監査役間で役割分担を決め、監査役の補助者も活用する等して、事実関係を調査する必要がある。監査役は、報告請求権及び業務調査権(会社法381条2項)を行使して調査を行わなければならない。

 さらに、調査の結果明らかとなった事実関係をもとに、責任追及等の訴えを行使する前提となる取締役の任務懈怠責任が認められる可能性の有無及び高低について、法的検討を行う必要がある。法的検討を進めるにあたっては、高い専門性が求められることから、必要に応じ弁護士と協議する必要があるが、業務執行部門との独立性の観点から、顧問弁護士に相談するか否かについては、利害関係の有無について慎重に検討する必要がある。

 そして、これら事実関係の調査及び法的検討の結果、監査役は、役員等の責任追及等の訴えを提起するか否かの判断を行わなければならない。

 監査役が役員等の責任追及等の訴えを提起しないことを決定した場合、当該決定を開示すべきかについては検討の必要がある。上場規則上の適時開示事由に直ちには該当しないものと考えられるが、提訴請求がなされた事実について任意に開示した場合には、訴えを提起しないことを決定した事実も開示することが自然であろう。

 また、監査役は、提訴請求から60日内に責任追及等の訴えを提起しない場合、当該請求をした株主から請求を受けたときは、当該請求をした者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を、書面等により通知する必要がある(会社法847条4項)。

 この不提訴理由通知書に記載する内容は、会社法施行規則第218条1号ないし3号に定められているが、どの程度記載すべきかについては、必要に応じて弁護士とも協議の上記載することになると思われる。

 冒頭の積水ハウス株式会社の開示は、訴えを提起しないことを決定した事実を公表したものであり、同社は、提訴請求を行った株主より請求を受けたときは、不提訴理由を通知する必要があり、また、今後、同社取締役は、当該株主より責任追及の訴えが提起される可能性がある状況に置かれていることとなる。

 各企業におかれても、本稿を契機として、平時より、提訴請求を受けてから行うべき事項について今一度整理しておくことが望ましい。

 

<提訴請求後の対応内容>

工程の目安 対応する内容
直ちに 任意開示の要否及び内容の検討
5日 監査役間の役割分担やスケジュールの策定
30日~40日 事実関係の調査
15日 法的検討
60日以内 提訴するか否かの判断、開示の要否の検討

以上

 

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