公取委、平成27年度における主要な企業結合事例
岩田合同法律事務所
弁護士 山 田 康 平
1. はじめに
公正取引委員会は、平成28年6月8日、平成27年度における主要な企業結合[1]事案の審査結果及び関連データを公表した。
公表された事例のうち、株式会社肥後銀行(以下「肥後銀行」という。)及び株式会社鹿児島銀行(以下「鹿児島銀行」という。また、肥後銀行及びその子会社と鹿児島銀行及びその子会社を併せて「当事会社」という。)による共同株式移転(以下「本件経営統合」という。)について紹介する。
2. 事例紹介
(1) 一定の取引分野
本件においては、「預金業務」[2]及び「貸出業務」[3]がそれぞれ商品範囲として画定された。また、当事会社は、いずれも地域に密着して営業活動を行っていること等から、「市町村」ごとに地理的範囲が画定された。
(2) 一定の取引分野ごとのセーフハーバー基準[4]の該当性
まず、当事会社が競合している市町村については、水平型企業結合[5]のセーフハーバー基準への該当性が問題となるところ、そのうち熊本県甲市及び鹿児島県乙市において、貸出業務がセーフハーバー基準に該当しないことから、個別審査の対象となった。
また、肥後銀行又は鹿児島銀行のうちいずれか一方のみが店舗を設置して営業活動を行っている市町村については、混合型企業結合[6]のセーフハーバー基準への該当性が問題となるところ、その多くがセーフハーバー基準に該当しないこと等から、個別審査の対象となった(以下、個別審査の対象となった市町村を「72市町」という。)。
(3) 判断要素の検討
ア 競争者の状況
まず、熊本県甲市及び鹿児島県乙市のいずれについても、下表のとおり、一定程度のシェアを持つ第二地方銀行及びその他の地方銀行、都市銀行等が活発な営業活動を行っている。また、経営統合によるシェアの変動は僅少である。
また、72市町のうち、50市町においては、第二地方銀行等が店舗を設置して営業活動を行っている。
以上のとおり、従来から当事会社以外に複数の銀行における競争が行われており、また、特に水平型企業結合となる熊本県甲市及び鹿児島県乙市ではシェアの変動は僅少であり有力な競争事業者の存在も認められることから、本件経営統合後も他の銀行からの競争圧力が一定程度働くものと認められた。
イ その他の判断要素
銀行が望めば支店等を開設することができ、近年では熊本県や鹿児島県の市町村に新規参入した例もあることから、参入圧力が一定程度働いているものと認められた。
また、混合型企業結合に関して、72市町の中には、当事会社のほかに有力な金融機関が存在しない地域もあったが、「交通の便が良い」、「通勤・通学先に近い」等の理由により、隣接する他の市町村等に設置されている店舗が利用されることもあり、市町村を超えた営業活動が行われることもあることから、地理的隣接市場からの競争圧力が一定程度働いているものと認められた。また、過去10年において、肥後銀行による鹿児島県への新規出店及び鹿児島銀行の熊本県への新規出店はなく、また具体的な計画もなかったため、当事会社相互間における潜在的競争者としての競争圧力はないものと認められた。
(4) 結論
上記(3)の事情等を勘案し、本件経営統合は、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断された。
3. まとめ
企業結合を計画する会社は、企業結合ガイドラインとともに、各年度における主要な企業結合事案の審査結果も参照することが期待されている。
近年、地銀の経営統合が多く見られることに加え、本件経営統合における考え方は、一般の地域密着型の企業同士の企業結合にも応用できると考えられ、実務上参考になると思われるため、特に紹介した次第である。
以 上
[1] 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第4章は、会社の株式の取得若しくは所有、役員兼任、会社以外の者の株式の保有又は会社の合併、共同新設分割若しくは吸収分割、共同株式移転若しくは事業譲受け等(以下これらを総称して、「企業結合」という。)が、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による企業結合が行われる場合に、これを禁止している。
[2] 預金者から金銭を受け入れ、これを管理・保管する業務をいう。
[3] 企業や個人に資金を貸し出す業務をいう。
[4] 競争を実質的に制限することとなるとは通常考えられない範囲を示したものであり、これに該当する場合、通常、個別審査の対象とならない。
[5] 同一の一定の取引分野において競争関係にある会社間の企業結合をいう。一方、垂直型企業結合とは、メーカーとその商品の販売業者との間の合併など取引段階を異にする会社間の企業結合をいう(企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針(以下「企業結合ガイドライン」という。)15頁)。
[6] 異業種に属する会社間の合併、一定の取引分野の地理的範囲を異にする会社間の株式保有など水平型企業結合又は垂直型企業結合のいずれにも該当しない企業結合をいう(企業結合ガイドライン15頁)。