コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(89)
―スポーツ組織のコンプライアンス⑦―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、スポーツ組織のガバナンス改革の方向について述べた。
スポーツ組織は、社会的影響力が大きく公的性格も強いが、不正のトライアングルに遭遇しやすく、マイナスの組織文化も発生しやすいので、①独立理事選任の義務付け、②役員・監督・コーチ・代表選手の選考基準の明確化と厳正な運用、③競技団体にコンプライアンス担当部署と担当理事の設置を義務付ける、④教育・研修を徹底する、⑤成功例から学ぶ、⑥相談窓口を設定し公正に運営する等、ガバナンス強化の取組みが必要である。
今回は、前回に続いてガバナンス強化の取組みを考察する。
【スポーツ組織のコンプライアンス⑦:改善の方向5:前回の続き】
(6) スポーツ組織のガバナンス改革の方向
- ⑦ 経理システムを明確に設定し、厳格に運用する
- 一般に、競技者は競技に関心が集中しておりコンプライアンスや経理に関心の深い競技者や、その競技経験者の集団である競技団体も、多くはないと思われる。
- 一方、人気の高い競技には、会員の会費、大会開催・運営料、スポンサー料、放映権料等の高額の資金が集まる。
- 大規模な大会運営では代理店や大会関係者が多岐にわたる上に、大会を主催・運営する部署の担当者は、短期間に同時に多くのことを実施しなければならず非常に多忙なので、競技運営に注意が集中しやすく、経理面に注意が向きにくい。
- そのため、経理処理ルールが不明確な場合、経理に明るいベテラン一人だけに金銭管理を任せきりにして、複数の担当者によるチェックが働いていないケースが発生しやすく、その場合には金銭管理上の不正が発生しやすい。(スポーツ組織では、派閥のボスの一声に逆らえず多額の金銭が動く場合もある。)
- したがって、スポーツ組織が信用を維持するためには、日頃から、金銭面の不正の発生を防ぐために、法に基づく経理処理ルールを明確に定め、組織内に周知徹底し、厳格に運用する必要がある。
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競技団体の規模によっては、一般のビジネス組織と同様に、公認会計士や監査法人等専門家による監査・報告を義務付けるべきである。
- ⑧ 情報開示を徹底する
- 今日、競技団体に限らず全ての組織は、情報開示を積極的に行い組織活動に対する社会の理解と信頼を得る必要がある。
- 積極的な情報開示は競技団体の活動に対する理解者・支持者・スポンサーを得る有効な手段にもなる。
- 開示内容については、一般には、組織の使命・理念、ビジョン、設立目的、行動規範・行動指針、組織運営規程や規則類、役員体制・事務局体制・プロジェクト体制等、競技と組織の歴史、事業計画と事業報告、指導・研修スケジュール、大会成績、競技と組織にかかわる内外のニュース等、組織により様々である。
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理事・監督・コーチ等、競技団体の役員・指導者の選出方法(選考基準と選出過程)、日本代表選手の選考基準と選考過程、大会ごとの予算と実施結果等も、公正なガバナンスに関連するので、積極的に開示するべきである。
- ⑨ 監査、内部監査を充実させる
- 既述したように スポーツ組織は、一般のビジネス組織以上に、派閥を形成しやすく、人事・経理が不透明で、ガバナンスが機能しにくいことを踏まえると、コンプライアンスを組織内(地方組織も含めた組織連合体全体)に浸透・定着させるためには、単にコンプライアンス体制を設定するだけではなく、それが公正に機能しているかをチェックする仕組みの設定と十分な機能発揮が重要である。
- コンプライアンスに明るい独立した外部理事とコンプライアンス担当部門がコンプライアンスを推進し、それが組織内に浸透し機能しているかを内部監査部門と監査役が連携して確認・検証すれば、例え、組織内に派閥があっても、ボスに対する牽制が働き、ガバナンスも機能しやすい。
- 筆者は、一般のビジネス組織で不祥事が発生している組織では、経営トップの知人が監査役に推薦(選出)され、実質的に牽制機能を働かせることができなかったことを踏まえ、監査役は執行部と利害関係のない組織外の専門家が就任することが望ましいと考える。
- そのためには、監督官庁が、管轄下のスポーツ組織に指針を出して指導し、派閥のボスによる実質的な支配が発生しないようにするべきであると考える。
次回は、スポーツ組織のコンプライアンスに関する考察の最終回として、これまでの考察のまとめを述べる。