◇SH3472◇インドネシア:オムニバス法の制定(8)〜労務分野への影響④ 福井信雄 小林亜維子(2021/02/04)

未分類

インドネシア:オムニバス法の制定(8)〜労務分野への影響④

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄
弁護士 小 林 亜維子

 

 本稿では前稿に引き続き、オムニバス法の労務分野への影響について紹介する。

 

6.その他

 上記の他、オムニバス法に基づく労働法の主要な改正点は以下の通りである。

  改正前 改正後
雇用契約書
  1.  • 雇用契約書がインドネシア語及び他の言語で作成されている場合、両者に齟齬が生じた場合には、インドネシア語による規定が優先する。
  1.  • 期間の定めのある雇用契約書がインドネシア語及び他の言語で作成されている場合、両者に齟齬が生じた場合には、インドネシア語による規定が優先する(期間の定めのない雇用契約書には適用がなくなった。)。
残業時間
  1.  • 原則として最大1日3時間、週14時間とする。
  1.  • 原則として最大1日4時間、週18時間とする。
最低賃金
  1.  • 州知事が経済成長及びインフレーションを考慮した上で、当該州又は県若しくは市毎の最低賃金を定める権限を有する。 
  2.  • 事業セクター毎に最低賃金を定めるものとする。
  1.  • 経済成長及びインフレーションを考慮した上で、州知事は当該州の最低賃金を定めなければならず、県若しくは市毎での最低賃金も定めることができる。
  2.  • 事業セクター毎の最低賃金を定める規定は削除された。
  3.  • 2021年の最低賃金については、従前の労働法の施行規則に基づいて決定される。
  4.  • また、雇用主がオムニバス法制定以前に、最低賃金以上の賃金を定めた場合に、オムニバス法を理由としてかかる賃金を減額することは認められない。
長期有給休暇
  1.  • 社内規程に定められる限り6年間勤続した労働者は、2か月の長期有給休暇の権利を有する。
  1.  • 長期有給休暇の権利の規定を削除し、長期有給休暇については、雇用契約、就業規則及び労働協約において定めることができる。
時 効
  1.  • 労働者の賃金及び労働関係において発生するすべての金銭債権の時効は2年とする。
  2.  • 但し、2013年に、インドネシアの憲法裁判所は、時効の規定が憲法違反であると決定した。
  1.  • 憲法裁判所の判断を反映して、時効の規定は削除された。従って、労働者はいつでも未払い賃金等の請求を行うことができる。

 

7.終わりに

 以上の通り、オムニバス法による労働関連法の改正は、概ね雇用主に有利なものであり、外国投資家にとっても歓迎できる内容と評価できる。しかしながら、オムニバス法制定に至るまでには労働組合によるデモ活動等の反対運動も活発に行われた経緯等を踏まえると、今後制定される施行規則によって実質的に骨抜きにされる可能性も否定できず、引き続き施行規則の整備状況を注視していく必要がある。

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(ふくい・のぶお)

2001年 東京大学法学部卒業。 2003年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2009年 Duke University School of Law卒業(LL.M. )。 2009年~2010年 Haynes and Boone LLP(Dallas)勤務。
2010年~2013年10月 Widyawan & Partners(Jakarta)勤務。 2013年11月~長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務。 現在はシンガポールを拠点とし、インドネシアを中心とする東南アジア各国への日本企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

 

(こばやし・あいこ)

2007年同志社大学法学部法律学科卒業。2009年京都大学法科大学院修了。2010年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2016年Stanford Law School卒業(LL.M.)。2017年から2018年まで長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク(Soemadipradja & Taher内)勤務。現在は東京オフィスにて、日本企業によるインドネシアへの事業進出及び資本投資その他の企業活動に関する法務サポートを含む国内外の企業法務全般に従事している。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました