◇SH1994◇実学・企業法務(第157回)法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産 齋藤憲道(2018/07/26)

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実学・企業法務(第157回)

法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引

2. 建設・不動産取引には多くの規制がある

(1) 建築・都市計画の基本法である「建築基準法」(1950年制定)

 建築規制法体系における一般法(基本法)であり、かつ、都市計画に関する基本法(都市計画法と並ぶ)として位置づけられる。

  1.    建築基準法は、「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準」を定めて、国民の生命、健康、及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする(1条)。
  2. (参考)都市計画法9条(第1種低層住居専用地域・商業地域等の定義)と建築基準法48条(第1種低層住居専用地域・商業地域等に建てる建物の規制)は相互に関係している。

1) 建築基準法の構成要素

 建築基準法には、総則規定・単体規定・集団規定の3要素が含まれる。

  1. 1 総則規定

    1. ・ 建築確認制度(設計段階)、検査制度[1](施工終了時の完了検査)
      (注) 建築主事が行ってきた確認・検査業務を、民間の指定確認検査機関に開放(1998年)
    2. ・ 構造計算適合性判定(構造計算偽装事件への対応。2006年改正)
    3. ・ 違反建築物に対して特定行政庁が行う措置(施工停止、建築物の除却・移転・使用制限等)
  2. 2 単体規定

    1. ・ 個々の建物に着目して構造等に制限を課し、倒壊(積雪・風圧・地震等)、火災(延焼、火災倒壊、伝播、発生、避難、消防等)、衛生環境(採光換気、シックハウス対策、防湿、遮音、便所、給排水等)、安全(階段、エレベーター、避雷等)等の安全性を確保。
    2. ・ 各地の気候風土等を反映して、地方公共団体が条例で制限を付加する。
  3. 3 集団規定

    1. ・ 都市計画区域内における、市街地に集団的に立地する建築物の用途、接道、容積、高さ、日影、耐火等を制限。
    2. ・ 地方公共団体が都市計画で用途地域を設定し、各地域の容積率・建蔽率等を建築基準法の規定に従って定める(個別特例許可、規制強化)旨を規定。

2) 建築基準法の概要

 建築基準法は、個々の建築物に関する最低基準を定めるとともに、都市環境を維持するための建築制限について定める法律で、国民の日常生活に密接に関係しているが、その内容を知る者は極めて少ない。

 そこで、まず、建築や街づくりの基本法に位置付けられる建築基準法を概観することとし、そのうえで建設に関するさまざまな法制度を観察する。

 

〔建築基準法 2017年11月時点〕

  1. 第1章 総則
    目的、定義[2]、建築主事、建築基準適合判定資格者、構造計算適合判定資格者、建築物の設計・工事監理、建築等に関する申請・確認、構造計算適合性判定、中間検査・完了検査、報告・検査
  2.   〔建築確認手続きの主な流れ〕
    ① 建築士が「建築計画[3]」を作成し、建築主が、建築主事[4]又は指定確認検査機関(以下、「建築主事等」)に確認申請する。(5条の6、6条1項、6条の2)
    ② 上記①の「確認済証」(法令に適合)を取得後、建築着工する。(6条8項)
    ③ 建築主が工事を行い、建築士が「工事監理」を行う。(5条の6第4項)

    1. 〔都道府県・市町村が指定した特定工程[5]を含む場合〕
      特定工程の工事を終えた段階で、建築物が基準に適合していることを建築主事等に「中間検査申請」し、中間検査して「中間検査合格証」を取得する。(7条の3、7条の4)
  3.   ④ 工事完了後、建築主事等に「完了検査申請」して「検査済証」を取得する。(7条、7条の2)
    ⑤ 建築物が完成して使用開始し、所有者・管理者・占有者が維持保全する。(8条)
  4. 第2章 建築物の敷地、構造、建築設備
    敷地の衛生・安全、構造耐力(自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧・水圧・地震他の震動・衝撃)、大規模の建築物の主要構造部等、屋根、外壁、木造建築物等である特殊建築物の外壁等、防火壁、耐火建築物等にすべき特殊建築物、居室の採光・換気、石綿等の飛散等に対する衛生措置、地階の居室、共同住宅等の各戸の界壁、便所、電気設備、避雷設備、昇降機、特殊建築物等の避難・消火の技術基準、特殊建築物等の内装(防火)、無窓の居室等の主要構造部(耐火、不燃)、必要な技術的基準、建築材料の品質、特殊の構造方法・建築材料、災害危険区域、地方公共団体の条例による制限の附加、市町村の条例による制限の緩和

    1. (注) 消防法(1948年7月制定)が、消火設備(消火栓、スプリンクラー等)及び防火管理(火気管理、設備等の維持管理、訓練等)を義務付けている。排煙[6]については、建築基準法と消防法の双方で規定される。
  5. 第3章 都市計画区域等における建築物の敷地、構造、建築設備、用途
    総則、建築物・その敷地と道路・壁面線との関係等、建築物の用途[7]、建築物の敷地・構造(容積率、建蔽率、高さ制限、日影規制)、都市再生特別地区・特定用途誘導地区、防火地域、特定防災街区整備地区、景観地区、地区計画等の区域、都市計画区域・準都市計画区域以外の区域内の建築物の敷地・構造
     
  6. 第3章の2 型式適合認定等
    標準仕様書に基づいて同一構造物を複数建築するプレハブ住宅や、同一設計で量産するエレベーター等の建築設備について国土交通大臣が型式適合認定を行うことにより、個々の建築確認・検査等の手続きを簡略化し、申請者・建築主事等の負担を軽減する制度を定める。(68条の10~68条の26)
     
  7. 第4章 建築協定
    建築協定は、住宅地環境や商店街利便を高度に維持増進すること等を目的として、土地所有者等[8]の全員が、建物の敷地・位置・構造・用途・形態・意匠・建築設備に関して「建築基準法による最低基準を超えた高度な基準」に関する協定を結ぶときに、公告・公開意見聴取等の手続きを経て、市町村長(一定の場合は都道府県知事)がこれを認可し、協定が第三者を拘束してその安定性・永続性を保証する制度である。(69条~73条)
     
  8. 第4章の2 指定建築基準適合判定資格者検定機関等
    指定建築基準適合判定資格者検定機関、指定構造計算適合判定資格者検定機関、指定確認検査機関、指定構造計算適合性判定機関、指定認定機関等、指定性能評価機関等
     
  9. 第4章の3 建築基準適合判定資格者等の登録
    建築基準適合判定資格者の登録、構造計算適合判定資格者の登録
     
  10. 第5章 建築審査会[9]
    審査請求に対する裁決についての議決を行う。(94条1項、78条)
    特定行政庁(市町村等)の諮問を受けて建築基準法の施行に関する重要事項を調査審議する。(78条)

     
  11. 第6章 雑則
    被災市街地における建築制限、簡易構造建築物に対する制限の緩和、仮設建築物に対する制限の緩和、景観重要建造物である建築物に対する制限の緩和、既存の建築物に対する制限の緩和、他
     
  12. 第7章 罰則
    懲役、罰金

 

(参考) 建築確認手続きの主な流れ

  1. 1 建築主・設計者: 確認申請
  2. 2 建築主事(又は指定確認検査機関[10]):
    受理時形式審査、申請書類の実質審査、保健所通知、消防同意[11]

    1. ※「構造計算適合性判定対象建築物」の場合、指定構造計算適合性判定機関又は知事の判定を得て、最終審査
    2. ※ 防火地域・準防火地域以外の区域内の小規模住宅等については、消防長等に通知するが、「消防同意」は不要
  3. 3 建築主・設計者: 確認済証受取り、建築主事経由知事あてに建築工事届、工事開始
  4. 4 建築主事(又は指定確認検査機関): 中間検査、完了検査
  5. 5 建築主・設計者: 建築主事(又は指定確認検査機関)から検査済証受取、使用開始


[1] 都道府県(又は市町村)が指定した特定工程があれば、その工程終了時に中間検査を行い「中間検査合格証」を発行する。年間約50数万件の確認件数の約3/4を指定確認検査機関が行っている。

[2] 建築物、建築設備、居室、主要構造部、耐火構造、不燃材料、工事監理者、設計図書、建築、その他を定義。

[3] 「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)平成28年版」は、次の項目を挙げて、それぞれの要求事項等を具体的に示している。一般共通事項(工事関係図書、工事現場管理、材料、施工、工事検査及び技術検査、完成図等)、仮設工事、土工事、地業工事、鉄筋工事、コンクリート工事、鉄骨工事、コンクリートブロック・ALC パネル・押出成形セメント板工事、防水工事、石工事、タイル工事、木工事、屋根及びとい工事、金属工事、左官工事、建具工事、カーテンウォール工事、塗装工事、内装工事、ユニット及びその他の工事、排水工事、舗装工事、植栽及び屋上緑化工事。

[4] 政令で指定する人口25万人以上の市は、市長の指揮監督のもとに建築主事を置かなければならない。(4条1項)

[5] ①3階以上の共同住宅の床・はりに鉄筋を配置する工事の工程のうち政令で定める工程。②市町村等がその地方の状況等の事情を勘案して指定する工程。(7条の3)

[6] 排煙設備に関しては、建築物の用途、面積等によって、建築基準法と消防法の適用対象が若干異なる。

[7] 建築基準法48条は、市街地を基本的に、①住宅地(第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域)、②商業業務地(近隣商業地域、商業地域)、③工業地(準工業地域、工業地域、工業専用地域)の3種類(12地域)に分けて規制している。ただし、特定行政庁(市町村長又は都道府県知事。同法2条35号)は公開の意見聴取を経て、建築審査会の同意を得たうえで例外の許可を行うことができる(同法48条14項)。

[8] 土地の所有者、建築物の所有を目的とする地上権者及び賃借権者

[9] 建築主事を置く市町村長(又は都道府県知事)が任命する5人以上の委員で組織する。(建築基準法79条)

[10] 地方公共団体は「指定確認検査機関」が行った判断について責任を負う。平成16(行フ)7「訴えの変更許可決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件」2005年(平成17年)6月24日最高裁第二小法廷(民集第217号277頁)

[11] 消防機関が防火の専門家として、消防法その他の防火に関する規定について審査する。消防同意にあたっては、建築物の用途・規模・構造等の要素、及び、建築工法・建築材料等の技術動向等が総合的に審査される。

 

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