公取委・中企庁、新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&Aを公表
岩田合同法律事務所
弁護士 石 川 哲 平
1 本Q&Aの概要
公正取引委員会及び中小企業庁は、「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A」(以下「本Q&A」という。)を公表した。以下では、これまで勧告措置が多く採られている下請代金の減額、本Q&Aで数多く言及されている買いたたき及び不当な経済上の利益の提供要請について説明する。
[本Q&Aのうち特に注目すべきものの概要]
2 解説
(1)下請代金の減額(問9)
親事業者が、下請事業者に責任がないのに、発注時に定めた下請代金の額を減ずることは禁止される(下請代金減額の禁止、下請法第4条第1項第3号)。
問9のように新型コロナウイルス感染症対策などの名目を付して親事業者の損失の補填のために下請代金から差し引く場合は、下請代金の減額として、下請法上問題となる。
(2)買いたたき(問9、問12)
親事業者が、下請代金の額を定める際に通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることは、禁止される(買いたたきの禁止、下請法第4条第1項第5号)。買いたたきの禁止に当たるかどうかは、代金の水準、代金決定に至る交渉経緯等で判断される(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成15年12月11日公正取引委員会事務総長通達第18号、改正 平成28年12月14日公正取引委員会事務総長通達第15号)第4の5(1))。
問9における下請代金の額の引下げの要請は親事業者の事情によるものであり、これが一律かつ一方的に行われているような場合は、交渉経緯としては問題があり、代金の水準等によっては、買いたたきとして、下請法上問題となるおそれがある。
問12においては、形式的には単価は引き下げられていないが、安全管理を強化する費用が増加しているにもかかわらずこれを考慮せずに単価を一方的に据え置くことは事実上単価を引き下げるものといえ、やはり実質的な代金の水準等によっては、買いたたきとして、下請法上問題となるおそれがある。
(3)不当な経済上の利益の提供要請(問9、問11)
親事業者が、下請事業者に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって下請事業者の利益を不当に害することは禁止される(不当な経済上の利益の提供要請の禁止、下請法第4条第2項第3号)。
問9における協賛金の提供は、親事業者の損失補填のためのものであり、これは下請事業者にとって利益があるとはいえず、不当な経済上の利益の提供要請として、下請法上問題となる。
問11において、顧客の安全確保に必要な作業等を無償で行わせるなどした場合には、下請事業者の利益を損なうものといえ、不当な経済上の利益の提供要請として、下請法上問題となる。
3 下請法コンプライアンスのポイント
下請代金の減額については、冒頭述べたとおり、過去に多くの勧告措置が採られているため、親事業者としては特に注意すべきである。下請事業者の同意があれば問題ないと誤解している親事業者も少なくないが、下請事業者の同意がない場合は当然として、同意がある場合も下請法上問題となる。
また、買いたたきや不当な経済上の利益の提供要請については、親事業者と下請事業者との間での十分な協議を行ったかどうかなどの手続的側面についても勘案される。そのため、親事業者としては、下請事業者との間で十分な協議を行い、協議の内容と経緯について記録を残し、協議で決まった事項を下請事業者と書面で保管することが重要である。
なお、本Q&Aは、その冒頭で本Q&Aに記載した下請法違反行為は独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題となり得るとするが、十分な協議を行うことは優越的地位の濫用を防ぐという観点からも有益である(優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(平成22年11月30日公正取引委員会、改正 平成29年6月16日)第4の3(5)ア(ア)、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(原案)に対する意見の概要とこれに対する考え方(平成22年11月30日公正取引委員会)22頁など参照)。
4 おわりに
本Q&Aは、これまでの公正取引委員会及び中小企業庁の考え方に沿ったものであり、下請法の遵守を徹底している親事業者としては特段目新しい点はないだろう。新型コロナウイルス感染症拡大のような未曾有な事態にこそ、下請法の正しい理解を社内研修等によりきちんと周知してきたかなどといった平時のコンプライアンスの重要性が問われることになる。
以上