◇SH2020◇経産省、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」を改訂 工藤良平(2018/08/08)

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経産省、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」を改訂

岩田合同法律事務所

弁護士 工 藤 良 平

 

 経済産業省は、平成30年7月27日、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の改訂版(以下、改定後の準則を「準則改訂版」という)を策定・公表した。

 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」は、電子商取引や情報財取引等に関する法的問題点について、関連する法令がどのように適用されるのか、経済産業省として現行法令に関する法解釈についての指針を明らかにすることにより、取引当事者の予見可能性を高め、取引の円滑化に資することを目的として、平成14年3月に最初に策定された。

 平成14年3月の策定以降、電子商取引や情報財取引等の実務、関連する技術の動向、国内外のルール整備の状況等に応じて、随時の改訂が行われている。今般、産業構造審議会商務流通情報分科会情報経済小委員会IT利活用ビジネスに関するルール整備ワーキンググループにおいて得られた検討結果とパブリックコメントを踏まえ、準則改訂版の策定・公表が行われたものである。

 準則改訂版では、電子商取引の分野において、AIやブロックチェーンを初めとする最新技術を活用したサービスが登場・普及しつつあるという取引環境の変化を踏まえ、こうした新たなサービスの利活用に際しての紛争予防等を目的として、主に以下のような論点に関する解釈指針が追加されている。

  1. ① AIスピーカーを利用した商取引に関連する論点(Ⅰ-10-1、I-10-2)
  2.    AIクラウドのサービス事業者が、AI スピーカー(対話型の音声操作に対応したAI クラウドに接続することで、情報検索や音楽再生等の操作が可能なスピーカーであり、スマートスピーカーなどとも呼ばれる。)を利用して、消費者等から商品の発注を受け付け、商品の売買を行う商取引を行う場合における、音声の誤認識や発注者の言い間違いが生じた場合の契約の成立可能性・有効性や、ユーザ側に与えられる救済手段などの法律関係が整理されている。
     具体的には、発注者が実際には注文を行っていない「音声誤認識」のケース(例:AI スピーカーがテレビ音声や家庭内の会話などを拾って注文してしまったようなケース)では、法律行為としての注文の意思表示はなかったと解釈され、AI スピーカーを通じた契約は成立していないと述べられている。そして、事業者側の対策として、AI スピーカーが認識した注文内容をユーザーに通知し、ユーザーから確認が得られた場合に注文を確定するという確認措置を講じることが推奨されている。
     また、「発注者の言い間違い」(例:「タイヤ」を注文しようとして「ダイヤ」と言ってしまったようなケース)に関しては、売買目的物という契約要素に関する「表示上の錯誤」があるとして、そのような契約は、民法第95 条本文により原則無効となるとされている。但し、発注者に重過失がある場合には、民法第95 条ただし書により、発注者から錯誤を主張することはできないため、事業者としては、発注が完了する前に発注内容に誤りがないかを連動するスマートフォンのアプリ等で確認する確認措置を組み込むといった措置を講じることが推奨されている。
     
  3. ② ブロックチェーン技術を用いた価値移転にかかる契約に関連する論点(III-14)
  4.    ブロックチェーン上で管理される財産的価値(トークンや仮想通貨等)の移転を約する契約(例:ビットコインによる商品・サービスの購入など)において、財産的価値を提供する約束をした相手方が契約違反をして合意された数量のトークン等の移転を行わなかった場合には、当該財産的価値の移転を内容とする請求が可能であるとの解釈が述べられている。

 なお、AIやブロックチェーン関連取引以外に関して追加された論点としては、国境を越えた取引に関する製品安全関係法(消費生活用製品安全法、電気用品安全法、ガス事業法、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律)の海外事業者に対する適用範囲(Ⅳ-7)、特定商取引法施行規則改定に伴う自動継続条項と消費者契約法第10 条の関係(Ⅰ-2-4)、特定商取引法による通信販売に係る広告規制(Ⅱ-4-2)などがある。

 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」については、取引の実務の変化、技術の動向や国際的なルール整備の状況等に応じて、今後も必要な改訂を行う予定とされている。特にAIやブロックチェーンに関しては、更なる技術進展と商取引への活用進展に伴い、今後も取引環境に大きな変化をもたらし続けるものと考えられるため、今後さらに新たな論点の追記・改訂が行われることも予想される。

以 上

 

【図1:AIスピーカーを利用した商取引サービスの基本的構成(準則改訂版125頁から引用)】

 

【図2:準則改訂版において旧版から改訂が行われている論点一覧(http://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180727001/20180727001.htmlから引用)】

 (1) 取引環境の変化に応じた改訂を要する論点

  1. I-10 AIスピーカーを利用した電子商取引(新規)
  2. I-10-1 AIスピーカーが音声を誤認識した場合(新規)
  3. I-10-2 AIスピーカーに対して発注者が言い間違いをした場合(新規)
  4. III-14 ブロックチェーン技術を用いた価値移転(新規)
  5. IV-7 国境を越えた取引に関する製品安全関係法の適用範囲(新規)

 (2) 特定商取引法施行規則改正に伴う改訂

  1. I-2-4 自動継続条項と消費者契約法第10条等
  2. II-4-2 特定商取引法による通信販売に係る広告規制

 (3) 論点の削除

  1. I-1-3 インターネット通販における分かりやすい申込画面の設定義務(消費者庁のガイドラインを参照しているのみであるため、削除)

 (4) その他

  1. I-1-2 自動継続条項と消費者契約法第10条等(消費者庁のガイドラインへの参照を追記)
  2. I-7-1 ユーザー間取引に関するサービス運営事業者の責任(ユーザー間取引にフリマサービスを含むことを明確化)
  3. II-6 インターネット上への商品情報の掲示と商標権侵害(ユーザー間取引にフリマサービスを含むことを明確化)

 

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