経団連、新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた
定時株主総会の臨時的な招集通知モデルを公表
岩田合同法律事務所
弁護士 森 駿 介
1.定時株主総会の臨時的な招集通知モデルの作成経緯
今年に入り新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し、我が国においても2020年4月7日には東京都を含む7都府県に、同月16日には残る全ての道府県について、それぞれ新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令された。こうした社会情勢下において、例年どおり株主総会を開催すれば更なる感染拡大を招きかねないとの懸念を背景として、経団連は、同月28日、株主に事前の議決権行使を促しつつ定時株主総会に来場する株主の数を一定程度限定することを想定した招集通知モデル(モデルA)、及び、感染拡大防止の観点を更に強め、原則として会場への来場を遠慮してもらうことを想定した招集通知モデル(モデルB)を作成・公表した。
2.招集通知モデルの概要
経団連が公表した2種類の招集通知モデルは、経済産業省及び法務省が2020年4月2日に公表し、その後2度に渡り更新した「株主総会運営に係るQ&A」(同月28日最終更新。以下「総会Q&A」という。)で示された見解を踏まえた上で、実務上の工夫を盛り込んだものといえる。
以下では、モデルAとモデルBそれぞれのポイントを概観する。
⑴ モデルA(来場する株主の数を一定程度限定することを想定)
総会Q&AのQ1は、株主に来場を控えるよう呼びかけることを認めつつ、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することを推奨している。そこで、モデルAには、「極力……事前の議決権行使」を求め、総会への来場を控えることを「強くお願い申しあげます」との記載が見られる。
また、総会Q&AのQ2において、やむを得ない場合に合理的な範囲内で入場株主を制限できるとされていること等を踏まえて、モデルAには、座席間隔の確保に伴う座席数の減少や入場を断る場合のあることも明記されている。
なお、モデルAは、2020年4月28日時点において東京都において示されている緊急事態措置等の状況を前提としており、開催時期・場所によって、その時点の状況に応じた調整が必要となる旨注記されており(「記載上の注意」(1))、留意を要する。
⑵ モデルB(株主の来場を原則遠慮してもらうことを想定)
モデルBは、総会に「ご来場されないようお願い申し上げます」、「株主様のご来場をいただくことなく当社役員のみで開催させていただ(く)」と記載して株主に来場を原則遠慮するよう求めているが、これは、総会Q&AのQ2に「株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知……等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます」と記載されていることを踏まえたものと思われる。もっとも、こうした記載は相当程度踏み込んだ内容ともいえ、これが適切なものとして許容される状況であるか否かは、感染拡大状況、行政の方針、各社のおかれた状況(決議事項の種類、例年における事前の議決権行使の状況、株主提案の有無等)により相違し得るのであって(モデルB「記載上の注意」(1))、慎重な判断が求められる。
<招集通知モデルのポイントまとめ>
モデルA | モデルB | |
基本方針 |
来場する株主の数を一定程度限定する。 |
株主の来場を原則として遠慮するよう求める。 |
来場しない株主への手当て |
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株主の来場に関する注意事項等 |
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株主の来場を想定した注意事項は、来場しないことを求める内容と相反するとも受け取られ、来場抑制の効果を低下させることから記載しない。 |
3.今後の情勢推移への目配りの必要性
前述のとおり、招集通知の記載内容を決定するに当たっては、その時々の状況を踏まえた検討が必要不可欠であるところ、新型コロナウイルス感染症を巡る情勢は日々目まぐるしく変化するため、招集通知の校了直前まで社会情勢から目を離すことができない。全国を対象として発令された緊急事態宣言は5月31日まで延長されたが、その後の更なる延長可能性や社会情勢の推移も見据えて、本年は招集通知の発送を法定の発送期限ぎりぎりまで待つ会社が増える可能性もあろう。
以上