実学・企業法務(第169回)
法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引
7. 事故・事件とその対応
(1) 横浜で販売されたマンションの傾斜問題
1) 問題の概要
- ⑴ 三井不動産レジデンシャル(株)(以下、「売主」という。)が横浜で販売したマンションに傾きが生じたことが2014年11月に発覚した。
-
⑵ このマンションの元請は三井住友建設(株)(以下、「M」という。)、1次下請は(株)日立ハイテクノロジーズ(以下、「H」という。)、2次下請は旭化成建材(株)(以下、「A」という。)である。
Aの管理者が、他の杭の工事データを転用して改竄した経緯は次の通りである。- ① Mが杭打ちの場所(一部掘削調査)・長さ・太さを決めて杭を手配した。
- ② 1次下請はHだが、実際には2次下請のAが残りの全てを掘削し、ドリルで地面に穴を開けた。
- (注) 掘削時の土の抵抗値変化から、支持層に届いたか否かを判別でき、この抵抗値は波形データで記録する。
- ③ Aは、本来必要な長い杭を手配せず、データを改竄して工事していた。
- ④ 杭先端と地盤を固定するセメントを注入するが、Aはセメント量も改竄した。
-
⑶ 2016年1月13日 国土交通省(関東地方整備局長)が次の通り3社を行政処分した。
〔M〕元請
-
⑴ 指示処分(建設業法28条1項)
- ① 違反内容・処分内容について役職員に速やかに周知徹底すること。
- ② 建設業法・関係法令を遵守する研修・教育の計画を作成し、役職員に継続的に実施すること。
- ③ 社内の業務運営方法を調査点検し、社内の業務管理体制の整備・強化を図ること。
- ①②③(これ以外の自主措置があれば含む)について講じた措置を速やかに文書で報告すること。
- 【処分理由】発注者から直接請け負ったマンション建築のくい施工工事において、1次下請(H)及び2次下請(A)の両社が工事現場に専任の主任技術者を設置せず、又、HがMから請け負ったくい施工工事をAに一括して請け負わせていたことを認識しながら、法律違反をしないように下請人らを指導することに努めず、1次と2次の下請に対し是正を求めるように努めず、又、許可行政庁等にも通報せず、建設業法24条の6(下請負人に対する特定建設業者の指導等)に違反し、28条1項本文に該当する。
-
⑵ 指名停止1ヵ月間(「工事請負契約に係る指名停止等の措置要領」別表第2第13号に該当)
〔H〕1次下請
-
⑴ 指示処分(建設業法28条1項)
- ① 違反内容・処分内容について、役職員に速やかに周知徹底すること。
- ② 建設業法・関係法令を遵守する研修・教育の計画を作成し、役職員に継続的に実施すること。
- ③ 社内の業務運営方法を調査点検し、社内の業務管理体制の整備・強化を図ること。
- ①②③(これ以外の自主措置があれば含む)について講じた措置を速やかに文書で報告すること。
-
⑵ 営業停止命令(建設業法28条3項)
- ① 期間 2016年1月28日から同年2月11日までの15日間
- ② 停止を命ずる営業の範囲 神奈川県他8都県の区域内におけるとび・土工工事業に関する営業のうち、民間工事に係わるもの。
-
【処分理由】マンション建築のくい施工工事において、主任技術者に他の工事を兼務させ、工事現場に専任の主任技術者を設置せず、建設業法26条3項(専任の主任技術者の設置)に違反し、28条1項2号に該当する。HがMから請け負った工事の主たる部分を2次下請(A)に請け負わせ、かつ施工に実質的に関与したと認められない状況にあったのは、建設業法22条1項(一括下請負の禁止)に違反し、28条1項4号に該当する。
〔A〕2次下請
-
⑴ 指示処分(建設業法28条1項)
- ① 違反内容・処分内容について、役職員に速やかに周知徹底すること。
- ② 建設業法・関係法令を遵守する研修・教育の計画を作成し、役職員に継続的に実施すること。
- ③ 社内の業務運営方法を調査点検し、社内の業務管理体制の整備・強化を図ること。
- ①②③(これ以外の自主措置があれば含む)について講じた措置を速やかに文書で報告すること。
-
⑵ 営業停止命令(建設業法28条3項)
- ① 期間 2016年1月28日から同年2月11日までの15日間
- ② 停止を命ずる営業の範囲 神奈川県他8都県の区域内におけるとび・土工工事業に関する営業のうち、民間工事に係わるもの。
-
⑶ 勧告(建設業法41条1項)
再発防止の徹底等、社内体制の整備に全力を傾注すると共に、具体的に講じる措置(これまでに講じた措置を含む)について速やかに報告すること。 -
【処分等理由】マンション建築のくい施工工事において、主任技術者に他の工事を兼務させ、工事現場に専任の主任技術者を設置しなかったのは、建設業法26条3項(専任の主任技術者の設置)に違反し、28条1項2号に該当する。
Aが、この工事でHが請け負った建設工事を一括して請け負ったのは、建設業法22条2項(一括下請負の禁止)に違反し、28条1項4号に該当する。
Aがマンション建築のくい施工工事を始めとする下請負人として行った基礎ぐい工事において、元請人に提出する施工データの作成にあたりデータ流用等を行ったのは、建設業者として不誠実な行為であり、建設業法41条1項[1]に該当する。