実学・企業法務(第171回)
法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引
7. 事故・事件とその対応
(2) 東洋ゴム工業 免震材料不正[1]
東洋ゴム工業(株)(以下、「親会社」という。)は、免震材料について次の不正を行った。
① 大臣認定不正取得:不正な申請書を提出し、建築基準法に基づく性能評価・大臣認定を受けていた。
- 「大臣認定不正取得」とは、免震材料の性能評価・大臣認定の取得にあたって、大臣認定に適合しない製品を大臣認定に適合する製品であるとして出荷した製品のデータ及び試験結果を提出し、新たな性能評価・大臣認定を受けていたことである。
② 大臣認定不適合:大臣認定の内容に適合しない製品を製造・出荷していた。
- 「大臣認定不適合」とは、免震材料の製造・出荷にあたって、大臣認定を受けた免震材料に関し、製品検査における性能値が大臣認定の際に定められた基準値に適合しない製品について、基準値に適合するように性能値を改ざんし、地震の揺れを押さえる能力が大臣認定品より低い製品を製造・出荷していたことである。
なお、本件免震材料の設計・製造を行ったのは、親会社の子会社である東洋ゴム加工品㈱(以下、「子会社」という。)である。
1) 経 緯[2]
2013年夏頃 子会社の免震積層ゴムの性能検査の業務を2013年1月に引き継いだ後任者の1名(以下、「後任者」という。)が、上司(子会社の開発技術部長)に、出荷時性能検査において技術的根拠が不明な補正が行われている旨を報告。
2014年2月26日 後任者らが、子会社の社長に対し、「技術的根拠が不明な補正が行われている。」「大臣認定の基準を充足していない免震積層ゴムが製造・販売されている可能性がある。」旨を報告。
2014年5月12日 親会社の取締役事業本部長が、後任者から、出荷時性能検査において補正を名目として恣意的数値を用い、検査結果を認定基準に適合させた旨の説明を受けた。
2014年5月27日 親会社の社長が、定例近況報告において、子会社の社長から「免震積層ゴムの性能にばらつきがあり調査中。」との報告を受けた。
2014年7月17日 親会社の当時の社長らは「出荷時性能検査及び大臣認定申請で、技術的根拠のない補正が行われていた。」「大臣認定申請の黒本中に記載された数値の中に、実測に基づかないものが含まれる。」旨の報告を受けた。
2014年8月13日 親会社の当時の専務は、初めて本件詳細報告を受け、「建物への影響は限定的。」「東日本大震災を経験しても具体的な問題は生じていない。」旨を報告された。
2014年8月下旬 親会社の事業本部及び子会社が、問題品番の新規受注をしない方針を決定。
2014年9月1日頃までに 複数の者が、問題品番以外の免震積層ゴムは問題ないのかとの疑問を指摘。
2014年9月16日午前 親会社の当時の社長・当時の専務らが出席する会議で、「出荷停止の準備をすること」「国土交通省への本件疑いの一報を行うこと」を確認。
2014年9月16日午後 会議(専務は不在)で「補正方法を変えると、大臣認定の基準に適合可能」 の旨が報告され、午前の方針を撤回、問題品番を予定通り出荷することとした。
2014年10月23日 親会社の当時の社長・当時の専務らが出席する会議で、「補正方法を変えても 26物件が 認定基準に不適合」と報告されたが、事業本部及び子会社の総意として、「社内特例としてリコール不要」との見解が示された。
2014年12月頃 本店と関係なく行われた親会社の監査役ヒアリングという定例の事前質問票で、事業所長は「諸法令違反、或は、その懸念事項」「業務上の不正事例、不祥事」「コンプラ上の気になる事項」のいずれにも「無」と回答。
2015年1月30日 親会社の社長を含む会議出席者全員が「再計算の方法の前提が誤り」「出荷済みの問題品番の性能は、第1物件を除き、大臣認定の基準に不適合」であることを認識し た。
2015年2月2日 親会社が法律事務所に相談し「今後は全ての立会検査及び出荷を停止すべきである。」との回答を得る。
2015年2月3日、4日 親会社が問題品番の製品を出荷した。
2015年2月5日 親会社の社外取締役と監査役に本件の事実を報告。
2015年2月6日 親会社は、会長・社長らが出席する会議で「問題品番の新規出荷を停止し、国土 交通省へ本件疑いの一報を行うこと」を決定し、社外調査チームに「免震積層ゴムの認定不適合」の調査を依頼。
2015年2月9日 親会社が、国土交通省へ本件疑いについて一報を行った。
2015年3月13日 国土交通省が親会社の大臣認定3件を取り消し。55棟に問題製品が納入されていることを公表。(4月21日に、99棟増え、合計154棟と訂正)
- 〔親会社に対する国土交通省の指示〕
- ① 認定不適合が判明した免震材料が設置された建築物の所有者にその旨を早急に説明し、構造安全性を 検証して、その結果を国土交通省等に報告すること。
- ② 免震材料の交換・回収その他必要な対策を速やかに実施し、その結果を国土交通省等に報告すること。
- ③ 原因究明を行い、再発防止策を検討し、国土交通省に報告すること。
- ④ 他の大臣認定について、改めて法適合性を確認すること。
2015年4月23日 調査チームが「中間調査報告書」を親会社に報告。翌24日、親会社がこの概要を公表。
2015年6月19日 調査チームが「調査報告書」を親会社に報告。3日後の22日、親会社が人名の記号化等を行った「調査報告書(公表版)」を公表。
2015年9月23日 親会社が、会長・社長を含む5取締役[3]が引責辞任する旨を発表。
[1] 東洋ゴム工業(株)による免震材料の不正事件を受けて、国土交通省が2015年(平成27年)3月31日に設置した学識経験者からなる第三者委員会が、国土交通省に対して行った「免震材料に関する第三者委員会 報告書(平成27年7月29日)」を基本とし、筆者が若干の他の情報を加えて作成した。
[2] 「免震材料に関する第三者委員会 報告書」において引用された「東洋ゴム工業㈱による調査」の内容に、「国土交通省Press Release」を追加して筆者が作成した。
[3] 取締役全7名のうち、生え抜きの取締役5名全員が辞任する。