◇SH2116◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(106)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する⑯岩倉秀雄(2018/10/02)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(106)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する⑯―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、事件拡大の原因になった情報開示の遅れに続き、報道対応のまずさについて述べた。

 情報開示の遅れだけではなく報道対応のまずさが、雪印乳業(株)の企業体質への不信感を拡大し事故を事件化した。

 例えば、6月29日の記者会見では、幹部が不遜な態度で消費者軽視の言い訳を行い、消費者の不信感を拡大し保健所との関係を悪化させた。

 7月1日の社長の記者会見では、大阪工場長が突然、バルブの内部から10円玉大の乳固形分が見つかっていたと発言、それを聞いた社長が「君、それは本当か」と顔色をなくし、最も重要な事実を社長が知らないという社内連絡体制の悪さを露呈した。

 大阪工場の営業禁止処分を受けて行った7月2日の記者会見では、バルブの洗浄頻度の質問に正確に回答できず、答えを二転三転させた。(バルブは週1回分解洗浄して中性洗剤で手洗いする規定になっていたが、実際は3週間洗浄されていなかったことが後に明らかにされた。)

 また、7月4日の大阪工場製品の回収命令と自主回収について説明する記者会見では、幹部の「黄色人種と黒人の20%は乳糖不耐症……」という発言が人種差別発言として批判され、社長が記者会見を切り上げる際に、「被害者をどう思っているか」と報道陣から詰め寄られ、思わず「私は寝てないんだ」と口走り、これが繰り返し放送され雪印乳業(株)のイメージの失墜に拍車をかけた。 

 今回は、食中毒事件後の雪印乳業(株)の対応の経緯を考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する⑯:食中毒事件拡大の経緯④】

1. 石川社長の引責辞任

 大阪工場全製品の回収を発表した7月6日夜、石川社長は都内で緊急会見し、一連の事件の責任を取って9月末に辞任(実際には、石川社長の入院により7月に早まった)する考えを表明した。

 専務取締役生産技術本部長、同第二事業本部長、取締役市乳生産部長も併せて辞任することとなった。

 後任社長には常務取締役東日本支社長の西紘平が昇格、大阪工場については閉鎖する意向を明らかにした。

 

2. 全国市乳20工場を操業停止し安全確認

 関係機関及び雪印乳業(株)による原因究明活動が続けられていたが、汚染源、汚染経路等の特定には至らず、大阪工場の不衛生な状態などが断片的に取り上げられるとともに、雪印乳業(株)の対応の不手際も加わって、テレビや新聞などの報道が度重なり、問題は大阪工場だけにとどまらず、雪印製品全てへの不信に拡大し、店頭での雪印製品の撤去が全国に広がった。

 7月11日、雪印乳業(株)は全国の市乳工場20工場の操業を自主的に一旦停止し、安全性の確認を行なうことを発表、12日より営業禁止中の大阪工場を含む21工場の操業を停止した。

 7月18日、札幌・東京・名古屋統括・神戸・福岡の各工場に対し、第三者機関による安全点検を実施し、日本食品分析センターなどの専門家チームが入り、製造工程の点検を実施したほか、厚生省により、雪印乳業(株)が同省に提出したHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)が遵守されているかの査察を受けた。なお、23日までに青森・野田・厚木・京都・広島も実施した。

 

3. 市乳工場操業再開

 厚生省の専門評価会議は、7月25日「食品衛生上の重大な問題はなかった」とする事実上の安全宣言を発表した。

 これを受けて、27日の名古屋統括工場を皮切りに順次操業を再開した。

 雪印乳業(株)が契約している牛乳販売店のうち、570店(7月22日時点)が休廃業に追い込まれていたため、宅配用製品から供給を開始し、次いで、量販店向けの製品の生産も再開した。

 先の10工場に続き残る10工場(仙台・日野・愛知・都城・倉敷・花巻・新潟・静岡・高松・北陸)についても、7月27日から31日にかけて厚生省及び外部機関による査察、点検が実施された。

 厚生省専門評価会議は、残る10工場でも食品衛生上の重大な問題はなかったと結論付け、厚生大臣津島雄二は8月2日の記者会見で事実上の安全宣言を行なった。

 これを受けて、8月6日朝刊に社告「安全確認の終了及び品質管理の徹底そしてお客様へのお約束」を掲載し、お客様への約束として、①お客様ケアセンターの設置、②フリーダイヤル年中無休体制の確立、③商品安全監査室の設置、④再利用の禁止、⑤工場記号から工場名表記へ変更、の5項目の実行を表明し、これを機に売場復活活動を再開した。

 操業再開に当たり再発防止策として、黄色ブドウ球菌毒素エンテロトキシンの毒素を短時間で検出できる高性能の病原性微生物検出機器を全国の市乳20工場に導入した。

 また、専門評価会議から指摘された手洗浄の手順書の不備や、品質保持期限の切れた原料を利用するなどHACCP承認上の問題点について、改善に向けた確約書を提出した。

 

4. 西常務の社長就任と新執行体制

 雪印乳業(株)は7月28日、石川社長ら8人の役員が退任し、西絋平常務が新社長に就任する新体制を発足した。

 また、厳しく批判された食中毒への対応の遅れを反省し、経営の意思決定を早めるため、役員数を24名から16名に削減した。

 8月4日、西社長が東京本社で社長就任会見を実施、消費者の「雪印離れ」や市乳の全工場の操業停止などにより、7月の市乳の売上高が前年より8割減少、チーズなどの他の製品も店頭から撤去されており、9月中間期の最終損益が赤字になることを説明した。

 また、「情報が一元的にスピーディに上がり、意思決定する体制の欠如」を認め、①第三者の視点を経営に生かす経営諮問委員会の設置、②社内の風通しの悪さの改善、③広報体制の充実に取り組む考えを示した。

 再発防止策では、①食中毒菌の検査体制の強化、②社長直轄の商品安全監査室の設置などを表明、被害者の補償問題では、長期ケアが必要な被害者のためのお客様ケアセンター設置を明らかにした。

 次回は、食中毒事件の根本原因となった大樹工場の事故について考察する。

 

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