◇SH1988◇公取委、携帯電話事業者との契約に係るアップルに対する独占禁止法違反被疑事件の審査を終了(2018/07/24)

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公取委、携帯電話事業者との契約に係る
アップルに対する独占禁止法違反被疑事件の審査を終了

――アップル側が契約の一部改定等を申出――

 

 公正取引委員会は7月11日、Apple Japanと国内携帯通信事業者との契約について、独占禁止法違反の疑いがあるとして行っていた審査を終了したことを公表した。

 公取委では、これまで、Apple Japanが、同社とNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクとの契約に基づき、

  1. ① MNO(Mobile Network Operator)3社(以下、「3社」という)がApple Japanに注文するiPhoneの数量
  2. ② 3社がiPhoneの利用者に提供する電気通信役務の料金プラン
  3. ③ 3社がiPhoneの利用者から下取りしたiPhone
  4. ④ 3社等がiPhoneを購入する利用者に提供する端末購入補助

について、3社の事業活動を制限している疑い(独占禁止法19条(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引)))があったことから、Apple Japanの最終親会社であるアップル(米国カリフォルニア州)に対し、平成28年10月以降、独占禁止法の規定に基づいて審査を行ってきた。

 公取委によると、本件審査の過程において、アップルから契約の一部を改定するとの申出がなされたため、公取委においてこれらの内容を検討したところ、上記の疑いが解消されるものと認められたこと等から、本件審査を終了したものである。

 以下、公取委の公表に基づき、本件の概要を紹介する。

 

本件の概要

1 審査事実

 Apple Japanは、3社との間で「iPhone Agreement」と称する契約を締結し、3社に対し、iPhoneを販売している。

 iPhone Agreementには、3社による、iPhoneの購入および販売、iPhoneを購入する利用者に対するiPhoneに係るサービスおよびサポート、iPhoneを購入する利用者に対する電気通信役務等に係る規定が設けられている。

 公取委は、iPhone Agreementの規定のうち、下記(1)から(4)の規定について審査を行った。

  1. ⑴ iPhoneの注文数量に係る規定
  2.   ア 事実
     3社とのiPhone Agreementには、1年ごとにApple Japanに注文するiPhoneの数量(以下「注文数量」)が、一部の年についてあらかじめ具体的に定められていた。

    1. (ア) 3社のうち1社とのiPhone Agreementでは、限られた年を除き、具体的な注文数量は定められていなかった。また、注文数量が当該1社の目標にとどまり、それが達成されなくても契約違反にならない旨が定められていた。
    2. (イ) 3社のうち1社とのiPhone Agreementでは、限られた年を除き、具体的な注文数量は定められていなかった。
    3. (ウ) 3社のうち1社とのiPhone Agreementでは、数年間について具体的な注文数量が定められていたが、定められていた注文数量は大部分の年について達成されておらず、未達成に対する不利益も課されていなかった。
  3.    また、公取委の審査開始後、Apple Japanは、注文数量が当該1社の目標にとどまり、それが達成されなくても契約違反にならない旨を定めた。

    イ 独占禁止法上の考え方
     Apple JapanがMNOに対してiPhoneの具体的な注文数量を義務付けることは、他のスマートフォンメーカーの販売機会を減少させるなどの場合には、独占禁止法上問題となり得る。
     しかしながら、iPhone Agreementでは、限られた年を除いて具体的な注文数量が定められていなかったこと、定められていた注文数量がその数量の注文を義務付けるものであったとはみられなかったこと等から、Apple JapanがMNOの事業活動を拘束していたとは認められなかった。

    ウ アップルの申出
     アップルは、公正取引委員会に対し、上記ア(イ)の1社との間で新たなiPhone Agreementを締結する際には、注文数量が当該1社の目標にとどまり、それが達成されなくても契約違反にならない旨を定めることを申し出た。
     

  4. ⑵ iPhoneプランに係る規定
  5.   ア 事実
     3社とのiPhone Agreementには、iPhoneの利用者に提供する電気通信役務の特定の料金プラン(以下「iPhoneプラン」)として、基本料金、通話料金、データ通信料金等の額が定められていた。

    1. (ア) 3社のうち1社とのiPhone Agreementでは、iPhoneプラン以外の料金プランの提供も可能であるとされていた。また、定められていたiPhoneプランは、遅くとも平成26年9月以降、提供されていなかった。
      また、公取委の審査開始後、Apple Japanは、iPhoneプランに係る規定を廃止した。
    2. (イ) 3社のうち2社とのiPhone Agreementでは、iPhoneプラン以外の料金プランの提供も可能であるとされていた。また、定められていたiPhoneプランは、遅くとも平成27年9月以降、提供されていなかった。
  6.   イ 独占禁止法上の考え方
     Apple JapanがMNOに対してiPhoneプランのみの提供を義務付けることは、MNO間の料金プランに係る競争を減殺するなどの場合には、独占禁止法上問題となり得る。
     しかしながら、iPhone Agreementでは、iPhoneプラン以外の料金プランの提供も可能であるとされていたこと、定められていたiPhoneプランが提供されていなかったこと等から、Apple JapanがMNOの事業活動を拘束していたとは認められなかった。

    ウ アップルの申出
     アップルは、公取委に対し、上記ア(イ)の2社とのiPhone Agreementを改定し、iPhoneプランに係る規定を廃止することを申し出た。
     

  7. ⑶ 下取りiPhoneに係る規定
  8.   ア 事実
     3社のうち1社とのiPhone Agreementには、iPhoneの利用者から下取りしたiPhone(以下「下取りiPhone」)の用途が定められていた。

    1. (ア) 3社のうち1社とのiPhone Agreementでは、国内において、下取りiPhoneは、当該1社が利用者に提供する端末補償サービスにのみ用いられる旨が定められていた。
      また、公取委の審査開始後、Apple Japanは、下取りiPhoneに係る規定を廃止した。
      なお、公取委「携帯電話市場における競争政策上の課題について」(平成28年8月)の公表後、Apple Japanは、3社に対し、iPhone Agreementが下取りiPhoneの国内での販売を制限するものではない旨を通知していた。
    2. (イ) 3社のうち2社とのiPhone Agreementでは、下取りiPhoneに係る規定は設けられていなかった。
  9.   イ 独占禁止法上の考え方
     Apple JapanがMNOに対して下取りiPhoneの国内での販売を制限することは、Apple JapanによるiPhoneの販売を促進することにより、スマートフォン市場におけるApple Japanの地位を維持・強化し、iPhoneの販売価格を維持するなどの場合には、独占禁止法上問題となり得る。また、中古端末の利用者に電気通信役務を提供し、または中古端末を販売するMVNO(Mobile Virtual Network Operator)とMNOの競争を阻害することも懸念される。
     しかしながら、下取りiPhoneに係る規定は3社のうち1社による下取りiPhoneの国内での用途を定めるにとどまるものであったこと等から、Apple Japanが下取りiPhoneの国内での流通を制限していたとは認められなかった。
     
  10. ⑷ 補助金に係る規定
  11.   ア 事実
     3社とのiPhone Agreementでは、MNOまたはMNOがiPhoneを販売する販売代理店等(以下「販売先事業者」)がiPhoneを購入する利用者に対して「補助金」を提供する旨が定められていた。

    1. (ア) 3社とのiPhone Agreementでは、iPhoneを購入する利用者が、一定の契約期間が定められた電気通信役務契約(以下「定期契約」)に加入する場合には、3社または販売先事業者が、当該利用者に補助金を提供する必要があるとされていた。また、補助金の額は、Apple Japanから3社に対するiPhoneの卸売価格と、利用者がiPhoneを購入するための負担額の差額とされており、3社ごとに具体的な最低額が合意されていた。
    2. (イ) 3社は、従来から、携帯電話端末を購入する利用者に対し、電気通信役務料金を一定期間割り引く(「月々サポート」、「毎月割」、「月月割」)などの端末購入補助を提供していた。アップルおよび3社は、iPhoneを購入する利用者に提供する端末購入補助がiPhone Agreementの補助金に該当すると認識していた。
    3. (ウ) 3社のうちKDDIは、平成29年7月、iPhone以外のスマートフォンを購入する利用者に対し、電気通信役務料金を一定期間割り引く端末購入補助を伴わないものの従来よりも電気通信役務料金を引き下げた料金プランの提供を開始した。当該料金プランは、定期契約であるため、iPhone Agreementの補助金に係る規定を充足していなかった。KDDIは、平成29年9月までの間、Apple Japanの同意を得られなかったため、iPhoneを購入する利用者に対しては、当該料金プランを提供していなかった。
  12.   イ 独占禁止法上の考え方
     スマートフォンを購入する利用者に提供される端末購入補助は、スマートフォンの購入に伴う利用者の実質的な負担額を軽減し、スマートフォンの普及を促してきたとも考えられる。
     しかしながら、Apple JapanがMNOに対して一定額の端末購入補助の提供を義務付けることは、MNOによって多くの利用者に対してスマートフォンと電気通信役務が一体的に販売されているという現状において、電気通信役務料金の引下げやスマートフォン価格と電気通信役務料金の組合せを制限することにより、移動体通信サービスを提供する電気通信事業者間の低廉で多様な料金プランの円滑な提供を通じた競争を減殺するなどの場合には、独占禁止法上問題となり得る。

    ウ アップルの申出
     公取委がアップルに対して上記イの問題を指摘したところ、同社は、iPhoneを購入する利用者が加入する電気通信役務契約が定期契約であっても、3社が、端末購入補助を伴う料金プラン(以下「従来プラン」)と端末購入補助を伴わない料金プラン(以下「新プラン」)の双方を十分な情報とともに明確かつ公平に当該利用者に提示すること等を条件として、当該利用者に対して新プランも提供することができるよう、3社とのiPhone Agreementを改定することとし、当該改定について、3社との間で合意した上で、当委員会に対して申し出た。

    エ 申出に対する評価
     上記ウの契約改定がなされた後も、iPhoneを購入する利用者に対する3社の補助金の提供義務は一部残ることとなる。しかしながら、当該利用者に対する補助金の提供義務のない新プランの提供もiPhone Agreement上の疑義なく可能となる。
     また、上記ウの契約改定がなされた後は、3社がiPhoneを購入する利用者に新プランを提供するに際しては、iPhone Agreement上、従来プランと新プランの双方を公平に提示すること等が求められることとなる。しかしながら、3社による新プランの販売促進活動を阻害しない範囲でそのような提示を行うことは、多様な料金プランの中からそれぞれの利用者にとって最適な料金プランを選択できることにつながり、利用者による合理的な選択を通じた移動体通信サービスを提供する電気通信事業者間の競争を促すことにつながると考えられる。
     これらの点を踏まえると、上記ウの契約改定は、独占禁止法違反の疑いを解消するものと認められる。

 

2 本件の処理

 公取委は、iPhone Agreementにおける①iPhoneの注文数量、②iPhoneプランおよび③下取りiPhoneに係る規定については、MNOの事業活動を拘束するもの等ではないと判断し、また、④補助金に係る規定については、上記1(4)ウの契約改定が独占禁止法違反の疑いを解消するものと判断し、本件審査を終了した。

 

 

  1. 公取委、携帯電話事業者との契約に係るアップル・インクに対する独占禁止法違反被疑事件の処理について(7月11日)
    https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/jul/180711_01.html
  2. ◯ 携帯電話事業者との契約に係るアップル・インクに対する独占禁止法違反被疑事件の処理について
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/180711_01.pdf
  3. ◯ 別紙(本件の概要)
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/180711_02.pdf
  4. ◯ 参考(携帯電話市場における競争政策上の課題について)
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/180711_03.pdf

 

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