◇SH2150◇フィリピン:フィリピンにおける仲裁 青木 大/Patricia O. Ko(2018/10/19)

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フィリピン:フィリピンにおける仲裁

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

弁護士(フィリピン) Patricia O. Ko

 

 フィリピンの裁判所は膨大な案件数を抱えており、その処理に悩まされている。フィリピン裁判所の年次報告書によると、フィリピンの第1審裁判所は2016年末時点で計173,336件の案件数を抱えていたが、2017年を通じて210,976件の事案を処理したものの、相当数の新たな申立を受け、2017年末における係属案件数は167,161件と、結局前年度末とさほど変わらない案件数を抱えることになっている。

 膨大な案件数に加え、フィリピンにおける裁判においては裁判所の都合や一方当事者の突然の欠席などにより期日が延期を繰り返し、手続が長期間遅延することもままある。場合によっては第1審だけで判決までに5年の年月を要するというケースもある。

 このような状況の中で、効率的かつ早期の紛争解決を図るため、仲裁手続の活用が近年フィリピンでも増えている。

 

仲裁に関連する法令

 フィリピンの仲裁に関する法律は①1953年に制定された仲裁法(Republic Act .No. 876、以下「1953年仲裁法」)、及び②2004年に制定されたADR法(Republic Act. No. 9285、以下「2004年ADR法」)の2法が存在する。2004年ADR法のもとにおいて、国際仲裁については1985年UNCITRALモデル法が原則として適用される。他方で、国内仲裁については原則として1953年仲裁法が適用されることとなる。1953年仲裁法はモデル法に準拠するものではなく、特殊な手続規定もみられ、また仲裁判断の執行のためには、仲裁判断が下された後1ヶ月以内に裁判所の確認を求める必要があるなどの制約もある。どのような仲裁が「国際仲裁」に当たるかはモデル法の定義に従うが、フィリピン当事者同士の契約などにおいては、(親会社が外国企業であっても)当該契約に関する仲裁は国内仲裁とみなされる可能性もあるから、仲裁地を外国としておくことが考慮に値する。

 また、2004年ADR法に関連して、裁判所がSpecial Rules of Court on Alternative Dispute Resolutionという規則を2009年に定めている(以下「2009年ADR規則」)。2009年ADR規則には、フィリピンが国家として積極的に仲裁等のADRの利用を振興するという大原則が掲げられ、仲裁合意がある場合に裁判所の介入は最小限とすべきことや、裁判所で利用可能な保全措置などについても詳細に規定されている。

 

フィリピンの仲裁機関

 フィリピンにおける代表的な仲裁機関として、Philippine Dispute Resolution Center, Inc. (PDRCI)が挙げられる。ただ、他の世界的に著名な仲裁機関に比べると、その仲裁規則の内容の不十分さは否めず、場合によっては仲裁手続がスムーズに進まない可能性も懸念される。費用が比較的低廉である点は魅力的ではあるが、重要な契約についてはICCやSIAC等を仲裁機関として定めておくのが望ましいと思われる。なお、フィリピンにおける建設紛争に関する仲裁は、建設業界仲裁法(Executive Order No. 1008)に基づき、Construction Industry Arbitration Commission (CIAC)という機関が専属的に管轄を有することになる。

 

仲裁判断の執行

 仲裁判断の執行については、フィリピンはニューヨーク条約加盟国であり、承認執行手続自体は比較的スムーズに行われることが多いといわれる(ただし上述の通りの裁判所の状況で、手続に遅滞が生じる可能性は否定できない。)。しかし実際に強制執行により回収を図るに当たっては、相手方の属性によっては資産隠しが図られる等により困難が生じることもある(フィリピンには強制執行免脱罪のような刑罰が存在しない。)。2004年ADR法及び2009年ADR規則によれば、仲裁手続開始前においても相手方資産の仮差押が可能とされており、(保全措置の必要性の立証等に一定のハードルはあるものの)実際に資金の回収を実現するに当たっては有力なツールとなり得る。

 

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