◇SH3783◇ベトナム:新しい環境保護法下における拡大生産者責任(EPR)(1) 中川幹久(2021/10/11)

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ベトナム:新しい環境保護法下における拡大生産者責任(EPR)(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 川 幹 久

 

 ベトナムでは新しい環境保護法(法律第72/2020/QH14号。以下「新法」)が2020年11月17日に成立し、2022年1月1日に施行される。その施行に向けて、現在、施行細則となる政令案が公表されている。新法では、様々な点で現行の環境保護法(法律第55/2014/QH13号。以下「現行法」)から規制の見直しが行われているが、本稿では、そのうち、製造業者や輸入業者にとって実質的なコスト負担の増加につながる可能性がある、いわゆる「拡大された生産者責任」の観点からの規制に焦点を当て、その主な変更点などについて、公表されている最新の政令案の内容も交え、ご紹介したい。

現行法における拡大生産者責任の概要

 「拡大された生産者責任」(Extended Producer Responsibility: EPR)とは、「生産者が、その生産した製品が使用され、廃棄された後においても、当該製品の適正なリサイクルや処分について一定の責任を負うという考え方」などと定義されている(日本の経済産業省「3R政策」参照。)。こうした観点からの規制は、現行法及び首相決定第16/2015/QD-TTg号(以下「首相決定16号」)の下でも定められている。すなわち、生産者等は、所定の使用済み製品については、所定の方法に従ってこれを回収・処分する義務を負う。かかる義務の対象となる製品は、首相決定16号において列挙されており、バッテリー、所定の電化製品(パソコン、プリンター、カメラ、携帯電話・タブレット端末、DVD・CD等、テレビ、冷蔵庫、エアコン、洗濯機など)、潤滑油、チューブ・タイヤ、車両(2輪及び4輪)などである。こうした製品の生産者等は、使用済み製品を回収するための集積所を設け、自ら又は許認可を受けた廃棄物業者に委託して、使用済み製品を回収し、リサイクル・廃棄処分その他規制に従って処理することとされている。

新法における拡大生産者責任の概要

 新法では、リサイクルと廃棄処分について規定を分け、それぞれについて、現行法よりも規制内容を具体化・明確化させるとともに、生産者等に財政貢献(すなわち、一定の金銭の支払い)義務を課す規制を設けた。すなわち、新法は、(1)リサイクル価値がある製品・包装を製造又は輸入した者に対するリサイクル責任、及び、(2)有害物質を含有している、リサイクルが困難、又は回収・処分が容易でない製品・包装を製造又は輸入した者に対する回収・処分責任という2つの側面から拡大生産者責任を定めるとともに、一定の条件の下で、製造者・輸入者に財政貢献(すなわち、一定の金銭の支払い)を求めている。

(1) リサイクル責任

 新法では、輸出(再輸出)される製品・包装又は研究開発目的で製造・輸入される製品・包装を除き、リサイクル価値がある製品・包装として別途政令で定めるものを製造・輸入した者は、所定のリサイクル率及び条件で当該製品・包装をリサイクルする義務を負う。かかる義務を負う者は、①(物理的に)リサイクルを行うか、②リサイクルをサポートするためベトナム環境保護基金(以下「VEPF」)に対して一定の金銭を支払う(財政貢献をする)かを選択することができる。①リサイクルを行うことを選択した者は、天然環境資源省に対して、リサイクル計画を登録するとともに、毎年、リサイクル実績について報告しなければならない。②VEPFに対する財政貢献については、製品・包装の分量・個数に応じてその料率が定められること、VEPFが受領した金銭はあくまでリサイクルのために使用され、その金額及び使途については公表され、透明性が確保されていなければならないことが規定されている。施行に当たっての詳細は政令で定めることとされている。

(2) リサイクルや回収・処分が容易でない製品・包装の回収・処分責任

 輸出(再輸出)される製品・包装又は研究開発目的で製造・輸入される製品・包装を除き、有害物質を含有する、リサイクルが困難、又は回収・処分が容易ではない製品・包装を製造・輸入した者は、こうした製品・包装の回収・処分のための活動をサポートするため、VEPFに対し財政貢献をする義務を負う。VEPFは受け取った財政貢献金を、廃棄物の回収・運搬・処分や、かかる処分にかかる技術の研究開発・発展のために使うこととされている。リサイクル責任の場合と同様、VEPFに対する財政貢献金額については、製品・包装の分量・個数に応じてその料率が定められること、VEPFが受領した財政貢献金及びその使途については公表され、透明性が確保されていなければならないことも規定されている。そして、施行に当たっての詳細は政令で定めることとされている。

(2)につづく


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(なかがわ・もとひさ)

長島・大野・常松法律事務所ホーチミンオフィス代表。1999年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2003年第一東京弁護士会登録。2009年 Stanford Law School(LL.M.)卒業。2009年~2010年Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP(ニューヨーク)勤務。2011年11月から約2年半、アレンズ法律事務所ホーチミンオフィスに出向。ベトナム赴任前は、M&Aその他の企 業間取引を中心とした企業法務全般にわたるリーガルサービスを提供し、現在は、ベトナム及びその周辺国への日本企業の進出及び事業展開に関する支援を行っ ている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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