◇SH2227◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(122)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する㉜岩倉秀雄(2018/12/04)

未分類

コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(122)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉜―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、新再建計画の進捗結果について述べた。

 市乳事業では、6月5日に雪印乳業(株)、全農、全酪連、全国農協直販(株)、ジャパンミルクネット(株)(全酪連の乳業子会社)が、基本合意書を締結、市乳統合会社設立準備委員会を設立し、8月22日、市乳統合会社を設立する共同会社分割計画書に調印した。

 社名は、日本ミルクコミュニティ(株)とし、資本金150億円(全農40%、雪印30%、全酪連20%、農林中金10%)、従業員2,110名(予定)、初年度売り上げ目標2,450億円とし、社長は全農常務の杉谷信一が就任することになった。

 冷凍食品事業は、伊藤忠商事(株)と合弁会社を設立する予定であったが、牛肉偽装事件により頓挫した。

 そのため、(株)アグリフーズを設立しブランドイメージの回復を図ったが軌道に乗らず、その後、ニチロ(現マルハニチロ(株))に株式を全て売却した。

 医薬品事業は、順調だった経腸栄養事業が牛肉偽装事件後に見通しが立たなくなったので、パートナーの大塚製薬(株)と新会社イーエヌ大塚製薬(株)を設立し、事業を移管するとともに、負担の大きい治療用医薬品事業は、第一製薬(株)に営業譲渡した。

 アイスクリーム事業は、食中毒事件前から赤字が続き2つの事件により事業の自立が難しくなったことから、(株)ロッテとロッテスノー(株)を設立して事業を移管、2008年には全持ち株を(株)ロッテに売却した。

 今回は、育児品事業と金融支援について考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉜:牛肉偽装事件後の経営再建③】(『雪印乳業史 第7巻』449頁~450頁及び452頁~461頁)

1. 育児品事業

 雪印乳業(株)の育児品事業は、新生児の出生数が減少するなかでも3割近いシェアーを維持し業界トップを競っていたが、2つの事件によりシェアーは12%近くまで落ち込み、売上げの早期回復は困難になった。

 当初、雪印乳業(株)は、ネスレジャパンホールディング(株)との合弁会社の設立を目指していたが合意に至らず、2002年8月、100%子会社のビーンスターク・スノウ(株)を設立して同社に事業を移管した後、大塚製薬(株)と事業提携(事業分割後に増資し、資本金5億円、雪印80%、大塚製薬20%)を行った。

 ビーンスタークブランドは、もともと大塚製薬(株)のブランドであり、同社のブランド力と品質管理技術に雪印乳業(株)の研究開発力とマーケティング力を加えた相乗効果を狙うものであった。

 

2. 金融支援と財務体質の強化

 雪印乳業(株)は、牛肉偽装事件後の事業再編に伴う損失や大規模な雇用調整費用などを計上するため、2002年度には債務超過に陥ることが見込まれていた。

 そこで、財務体質の強化策を実施するとともに、ステークホルダーによる金融支援を受けた。

(1) 財務体質の強化

  1. ① 資本準備金の取り崩しと減資
  2.    2002年6月の第52回定時株主総会で資本準備金の取崩しと減資について承認を得、資本準備金189億円を取崩して欠損金に充当した。
     また、資本金278億円を5億円に無償減資し、その差益を欠損金に充当した。
     
  3. ② 株式併合
  4.    前述の第52回定時株主総会で株式併合の承認を得たが、これは、その後予定していた第三者割当増資に備えて発行株式数の適正化を目的として2株を1株に併合するもので、これにより株主の持ち株数は半減した。(株主の権利に変動がこないように、1単元の株式数は1,000株から500株に変更した)
     
  5. ③ 金融支援
  6.    2002年9月、雪印乳業(株)の主力金融機関の農林中金、UFJ銀行、みずほコーポレート銀行との間で債務免除デット・エクイティス・ワップ(債務の株式化)による優先株式の引き受け、また、全ての関係金融機関より、借入金の残高維持などについて同意を得た。
     その結果、2003年6月農林中金より300億円の債務免除を受け、同年3月、主要3行に対する総額200億円の債務の株式化による優先株式の発行を実施した。
     
  7. ④ 第3者割当増資
  8.    2003年3月、全農、伊藤忠(株)等、取引先、資材業者等38社に対して第三者割当による普通株式109億円の増資を実施した。
     その結果、2003年3月期の決算において、資本金159億円、資本準備金154億円となり、事業構造改革に伴う一時的な債務超過は解消された。(『雪印乳業史 第7巻』452頁~453頁)

(2) 新再建計画完了後の財務・資本施策

 新再建計画に掲げた3つの目標(2003年度に黒字化に転換し、2005年度は未処理損失を一掃、2006年度から復配を目指す)は、2003年度黒字化を達成し、2004年度には1年前倒しで未処理損失を一掃、2006年度決算で復配を実現した。

 新再建計画の完了と同時に金融支援も終了することから、それに対応して以下の財務施策を新たに実施した。

 雪印乳業(株)が2003年にデット・エクイティ・スワップにより主力3行に割り当てた200億円のA種、B種、C種優先株式は、普通株式に優先して配当が支払われると同時に、普通株式への転換予約権が付与されていた。

 そこで、普通株式の価値の希薄化を軽減するため、D種優先株式を発行して調達される資金を充当して発行済優先株式の消却を実施することとした。

 2005年12月開催の臨時株主総会及び種類株主総会で、優先株式の強制有償消却が承認・可決されたことを受けて、D種優先株式発行により調達した資金150億円のうち148億円をA種、B種優先株主へ払戻すことにより減資を実行し、2006年1月、手続きを完了した。(優先株式の消却は、2007年8月、2008年6月に、C種優先株式にも実施し、すべての優先株式の消却が完了した)

 2005年9月末、金融支援を解消、短期借入金の一部を長期借入金へシフトするとともに、シンジケートローンを含めたリファイナンスを実施した。

 それらの取り組みが評価され、主要格付け機関R&Iによる発行格付けが「BB+」から「BBB」へ2段階引き上げられ、雪印乳業㈱は社債を発行して資金調達することが可能になった。(『雪印乳業史 第7巻』453頁)

 次回は、グループ経営の再編について考察する。

 

タイトルとURLをコピーしました