◇SH2284◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(132)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス④ 岩倉秀雄(2019/01/18)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(132)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス④―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、市乳統合会社設立準備委員会の体制と統合のスキームについて述べた。

 市乳統合に係る基本合意書に基づき、必要事項を審議決定し統合を円滑に進めるために、設立準備委員会、幹事会、部長・事務局責任者合同会議、事務局会議、部会ごとの会議等が、多段階に設けられた。

 各組織の実務の取りまとめ責任者として、事務局長・事務局次長(各組織より、全酪連は筆者)が、12の部会には各業務に精通した者が任命された。

 統合のスキームは、平成15(2003)年1月1日を分割日とする共同新設分割により設立することとし、雪印乳業(株)とジャパンミルクネット(株)は分社型、全国農協直販(株)は分割型(全部分割)で、資本金150億円(全農40%、雪印乳業(株)30%、全酪連20%、農林中央金庫10%)とした。

 社名は日本ミルクコミュニティ株式会社で、企業理念は「自然からお客様までのミルクコミュニティを育み明るく健やかなくらしに貢献します。」、コーポレートブランドは、MEGMILKメグミルクとした。

 新会社の黒字化と持続的発展のためには、社会的信頼の獲得とコストダウンを基本戦略とし、理念と行動規範・行動指針の整備、社外取締役の導入、社外有識者によるミルクコミュニティ委員会の設置等の他、工場統廃合、営業拠点・要員の再配置、管理部門の一本化と要員削減、物流拠点・配送ルートの見直し、原材料・資材購入費用の削減、マーケティング費用割合の低減、雪印乳業(株)の研究機関の活用等を行うこととした。

 今回は、事業戦略について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ㈱のコンプライアンス④:事業戦略の検討①】

 今回は、設立準備段階で検討された具体的な事業戦略について考察する。(『日本ミルクコミュニティ史』131頁~139頁)

 

1. 営業戦略

 3社がこれまで確保していた売場が1社に集約されるので、新会社の営業部門は以下の非常に厳しい課題に直面していた。

 ①縮小された売場効率の向上、②(各社商品には長年のファンがついていることから)各社の類似商品のアイテムカットと売れ筋商品への絞りこみ、③新会社のメイン商品である牛乳の新ブランドの育成と既存牛乳ブランドの位置付け、④物量は多いが利益率の低いプライベートブランドや契約の縛りが強い海外企業との提携の取扱い、⑤直取引と販売店や卸への対応の区分け、⑥各社が主に展開してきたチャネル(全農直販とジャパンミルクネットは量販店・生協中心、雪印は販売店と系列の卸会社中心)と異なるチャネルに対する営業戦略の設定と役割分担、⑦新たに取り扱う他社商品の商品知識等に関する営業マン教育等。

 特に、統合会社につきもののアイテム整理と売場の確保問題は重要で、これに対する判断の迷いが後に経営上の危機を招くことにつながった。(後述する)

 これまで3社が販売してきた商品のアイテム数は、合計3,000を越えていたことから、アイテムカットは必須のテーマであり、ロジスティクス部門は大幅削減を主張したが、営業部門は各社のこれまでの顧客の要望に応えようとして足並みが揃わなかった。

 アイテムカットの判断基準は、売上と利益が基本だが、地域での売り上げのウエイトの高い商品や各社の組織特性を体現した差別化商品があり、単純な判断基準を適用できない事情があった。

 

2. 生産体制

 生産体制については、6月28日開催の第2回設立準備幹事会において、基本的に日本ミルクコミュニティ(株)の直営工場は15工場(雪印乳業は10工場、全国農協直販は3工場、ジャパンミルクネットは2工場)とし、雪印乳業の倉敷工場、ジャパンミルクネットの神戸工場、全国農協直販の神奈川中酪工場の3工場については、老朽化が激しく大型投資が必要であることと近隣に補完工場が存在することから閉鎖することとした。

 

3. ロジスティクス

 ロジスティクスの再編・合理化は、新会社の黒字化の目玉の1つであり合理化への期待は大きかった。

 3社がこれまで使用していた拠点を大幅に見直し納得できる体制に集約するために、準備委員会事務局ロジスティクス部会メンバーは、現行各社が使用している全国の物流拠点を全て見て回り実情を確認した上で、ロジスティクス戦略を作成した。

 その基本方針は、「物流コストの最小化、流通品質確保、顧客サービス維持・向上を基本とし、新会社として保有・管理する出荷拠点の最適化を図る。」とし、現行3社の物流拠点64拠点を31拠点に絞ること、自社出荷拠点の機能に不足が生じる場合には「配送委託」方式を採り、配送委託に当たっては、通過物量に応じて料金を支払うことで賃借料・施設費用等の固定費は発生させないことを、6月28日の第2回設立準備幹事会において了承した。

 その後、8月6日の第18回部長・事務局責任者合同会議において、現状約3,000アイテムを維持したままのデポの統合では、保管面積、受払い管理等で実務上の障害が発生する可能性があることからアイテムカットの要望が出され、了承された。

 8月30日の第2回経営協議会までにアイテムは1,914まで削減されたが、ロジスティクス部会は、このままでは、拠点統合により保管面積、受払管理等で実務上の障害が出て誤出荷・遅配等得意先への影響が懸念されることから更なるアテムカットの必要性があることを訴えたが、引き続き関係部会と検討することとなった。

 その後検討を重ね、10月18日の第9回経営協議会において、これ以上のアイテムカットは統合に対してネガティブなイメージを与えること、包材手配・生産体制整備・取引先へのアナウンス等のスケジュールから営業開始時の販売アイテムを早めに確定する必要があること、新会社立ち上げの1月であれば、ロジスティックス部門の対応が可能であり新商品導入期の3月を目途に大幅なアイテム削減を進めることとされ、1,914アイテムで営業を開始することが決まった。

 次回は、上記以外の事業戦略について考察する。

 

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