日本経済再生本部、ODR活性化検討会(第3回)
岩田合同法律事務所
弁護士 大久保 直 輝
1 ODR[1]活性化検討会とは
ODR活性化検討会(以下「検討会」という。)とは、紛争の多様化に対応した我が国のビジネス環境整備として、オンラインでの紛争解決など、IT・AIを活用した裁判外紛争解決手続等の民事紛争解決の利用拡充・機能強化に関する検討を行うものである。委員には大学教授、弁護士のほか、民間企業に所属する者も含まれる。検討会は非公開であるものの、検討会の終了後、議事要旨及び配布資料が公表されている[2]。
本稿では、公表された配布資料等に基づき、検討会開催に至る経緯や検討の状況を紹介する。
2 検討の背景
- ⑴ 成長戦略フォローアップ
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検討会は、「成長戦略フォローアップ」を受けて開催されたものである。「成長戦略フォローアップ」は、令和元年6月21日に閣議決定された我が国の成長戦略の具体策を示したものであり、民事訴訟に関する裁判手続等の全面IT化の実現と共に、裁判外紛争解決手続などの民事紛争解決の利用拡充・機能強化についても、検討を行い、基本方針について2019年度中に結論を得ることとしている。
- ⑵ 裁判外紛争解決手続のIT化・利用促進
- 近年、我が国においては顕在化する紛争解決申立事件(民事訴訟等)の件数は全体として減少傾向にあるとされているものの、それは法的トラブルの減少を意味するものではなく、妥当な手続を試みていない潜在的紛争が多数存在することが指摘されている(第2回ODR活性化検討会事務局資料[3])。
- 検討会においては、紛争解決に至る検討・交渉・相談・ADRの各段階における情報不足、電話・対面・書面による手続の負担感など司法アクセスへの阻害要因が指摘され、IT・AIの活用によりかかる阻害要因を取り除くことが総論的課題とされている。
- 検討の対象となる「ODR」の範囲は、裁判外紛争解決手続の実施段階のみならず、その前段階をも含むものであり、これらの各フェーズにおける司法アクセスや紛争解決機能の向上を図るため、IT・AIの活用可能性を検討することとされている。
3 検討の状況
第1回検討会の議論を踏まえ、下図[4]のとおりODRの進行フェーズのイメージ(案)が示されている。また、公開された資料を見る限り、検討会においては、行政機関の取組みも紹介されているものの、海外民間事業者の事例紹介、損保ジャパン日本興亜株式会社の「LINE」を利用した保険請求やAI(音声認識システム)の活用事例の紹介、ヤフー株式会社の「ヤフオク!」におけるODRに向けた取組みの紹介、ミドルマン株式会社による提供可能なODRサービスの紹介など、民間企業者の取組事例やサービスの紹介が目を引き、令和2年1月中には、ODR実装を検討している事業者に対するヒアリング(実証実験のニーズの探求)も予定されている[5]。これらの検討を踏まえ、検討会は令和2年2月下旬の最終取りまとめを予定している。
4 最後に(裁判手続のIT化と比較して)
上記表のとおり、ODRの進行フェーズは、手続におけるメール・SNSツールの活用に始まり、最終的にはAIによる情報提供や合意解決支援をも視野に入れている。裁判手続のIT化については、現在迅速な取組みが行われているものの、AIの活用にまでは至っておらず、主張・証拠の提出、事件管理、ウェブ会議システムの利用など、手続面でのIT化が検討されているところであるから、これに比べてODRの検討は一歩踏み込んだ内容といえる。
現状においては裁判手続のIT化が先んじて検討され、東京地方裁判所等一部の庁においては、ウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の新しい運用が、令和2年2月頃から開始される予定である[6]。もっとも、裁判を受ける権利を保障する観点から、ITに習熟しない者への配慮が求められるなど、検討課題は多い。他方、裁判外の紛争解決手段については、特定分野における先行実施、民間事業者の知見・技術の活用など、裁判手続よりも柔軟かつ早期にIT化の実現が可能であるようにも思われる。
裁判外の紛争解決手続へのアクセスが容易になり、紛争の早い段階から専門的知見・多数の集積事例を活かした問題点(争点)の明確化・判断の提示が行われるようになれば、民事裁判に至った場合にも、迅速かつ充実した審理の実現に資することとなる。
IT・AIを活用し、民事紛争の適切な解決が図られるよう、今後の議論の深化を待ちたい。
以上