◇SH0815◇東芝、新日本有限責任監査法人への不提訴を公表 伊藤広樹(2016/09/27)

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東芝、新日本有限責任監査法人への不提訴を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 伊 藤 広 樹

 

 本年9月16日、株式会社東芝(以下「東芝」という。)は、同社のいわゆる会計処理問題に関して、同社の会計監査人である新日本有限責任監査法人(以下「新日本」という。)に対して責任追及等の訴えを提起しないことを公表した。以下、その概要について解説する。

 

 会社法上、原則として6ヶ月前から引き続き株式を有する株主は、会社に対して、役員等の任務懈怠等を理由として、当該役員等に対して責任追及等の訴えを提起するよう請求することができる(会社法847条1項)。かかる請求を受けた会社は、当該役員等に対して責任追及等の訴えを提起するか否かを判断する必要があるが、請求の日から60日以内に当該訴えを提起しない場合、①会社は、株主に対して、その理由を書面等により通知する必要があり(同条4項)、また、②株主は、会社のために、直接、当該役員等に対して責任追及等の訴えを提起することができる(同条3項)。ここで株主から提起される責任追及等の訴え(上記②)が、講学上「株主代表訴訟」と呼ばれるものである。

 本件では、東芝の会計監査人である新日本について、同社の株主が同社に対して、本年7月20日付で提訴請求を行っているところ、同社は、社内での調査の結果、本年9月16日付で、新日本に対して責任追及等の訴えを提起しない旨を決定し、その旨を株主に通知している。そして、各種報道によれば、かかる東芝の決定を受けて、株主は、新日本に対して、株主代表訴訟を提起したとのことである(平成28年9月21日付日本経済新聞朝刊38面)。

 

 正確な統計資料は見当たらないが、会計監査人に対する株主代表訴訟は珍しく、実務上はあまり例を見ない。この点に関して、会社法が施行される前の旧商法及び旧商法特例法では、会計監査人の行為に基づく責任は株主代表訴訟の対象外とされていたところ、会社法の施行に伴い、株主代表訴訟の対象とされることとなった。なお、株主代表訴訟が提起された場合、被告になるのは、会社との間で監査契約を締結している監査法人であり、業務執行社員ではないとされている。

 また、会社法上、会計監査人は会社との間で責任限定契約を締結することができ(会社法427条1項)、その結果、責任額は報酬の2年分に限定される(同法425条1項1号ハ)。この点に関して、会計監査人が責任限定契約を締結する事例も増えつつあるとの指摘もなされているが、未だ多数であるとは言えず、実際に東芝においても、新日本との間で責任限定契約は締結されていないようである。

会計監査人に対する株主代表訴訟
  1. ・ 会社法の施行により新たに導入された。
  2. ・ 会計監査人に対する株主代表訴訟は珍しく、実務上はあまり例を見ない。
  3. ・ 会計監査人は会社との間で責任限定契約を締結することができるが、実際に締結している例は未だ多数とは言えない。

 なお、提訴請求を受けた会社が役員等に対して責任追及等の訴えを提起すべきであるか否かの判断基準について、会社法上の定めは存在しないものの、学説上、会社が第三者の責任を追及するために訴えを提起すべきであるか否かが問題となった三越事件判決(東京地判平成16年7月28日判例タイムズ1228号269頁)が示した基準が妥当するとの指摘がある(弥永真生『コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則』〔第2版〕1056頁)。具体的には、(a)勝訴の高度の蓋然性、(b)債権回収の確実性、(c)回収期待利益と諸費用等の比較を基準に、訴えを提起すべきであるかを判断すべきとするものであるが、本件においても、プレスリリースの内容を見る限り、これらの基準を意識した検討がなされているように見受けられる。

 本件は、会計監査人に対して株主代表訴訟が提起された珍しい事例であり、同種事例の参考になり、今後の動向が注視される。

以 上

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