◇SH2315◇公取委、消費者向けeコマースの取引実態に関する調査報告書を公表(2019/02/05)

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公取委、消費者向けeコマースの取引実態に関する調査報告書を公表

――オンラインモール運営業者の取引慣行等の実態と公取委の対応方針を示す――

 

 公正取引委員会は1月29日、消費者向けeコマースの取引実態に関する調査報告書を公表した。

 近年のeコマースの発展は、「小売市場における競争を促進し、消費者利益の増大をもたらしていると考えられる一方で、事業者が競争事業者や取引先事業者の行動を把握しやすくなることにより、競争制限的な行為が行われやすくなることも懸念される」とされている。

 そこで公取委では、メーカーと流通業者との間の取引条件、メーカーや流通業者のウェブサイトでの販売方法、オンラインモールでの取引状況といった消費者向けeコマースに関する取引慣行全般について、実店舗での販売に関する取引慣行とも比較しつつ、メーカー、小売業者及びオンラインモール運営業者のそれぞれの行為について、競争促進効果・競争阻害効果の双方の観点から幅広く調査を実施したものである。

 調査は、消費者が事業者からインターネットを介して購入する商品に関する取引を対象として、平成30年1月から同年11月にかけて、次の方法により実施された。

  1. ① 事業者向けアンケート調査(平成30年1月~2月) 4,339名の事業者に対しアンケート調査票を送付し、1,208名(小売業者848名、メーカー360名)から回答(回答率27.8%)
  2. ② ヒアリング調査(随時) のべ117社(小売業者、メーカー、オンラインモール運営業者、価格調査会社・価格自動更新ツール提供業者・価格比較サイト運営業者)に対して実施
  3. ③ 消費者向けアンケート調査(平成30年9月) オンラインモールで月1回以上商品を購入している一般消費者2,000名に対して、インターネット上で実施(委託調査)

 以下、調査報告書の概要のうち、オンラインモールに関する部分を紹介する。

 

1 消費者向けeコマース市場の特徴(オンラインモールの市場における地位)

 調査結果によると、3つの主要なオンラインモールへ出店者及び消費者が集中していることがうかがわれる。

 オンラインモールには「間接ネットワーク効果」(=プラットフォーム事業者を介して取引を行う二つの利用者グループ間において、一方の利用者グループに属する利用者が増加するほど、他方の利用者グループに属する利用者にとって当該プラットフォーム事業者を介して取引を行うことの便益・効用が向上するような効果)が双方向に働いていることがうかがわれる。また、取引依存度等の観点から、出店しているオンラインモールでの販売を取りやめることができない場合がある。

 出店者及び消費者が集中しているオンラインモールの運営業者は、オンラインモール運営分野において有力な地位を占めており、また、自己の取引上の地位が取引の相手方に対し優越した地位にある場合があると考えられる。このため、競争関係にある他のオンラインモールを排除したり、出店者に対し取引条件を一方的に不当に変更したりすれば、独占禁止法上問題となる可能性が高いものと考えられる。

 オンラインモールは、特に中小規模の小売業者にとって重要な販売ツールとなっており、オンラインモールでの販売において公正な取引条件が確保されなければ、オンラインモールへの依存度が高い事業者の事業機会が不当に制限されたりする状況を招くなどし、ひいては、消費者向けeコマース市場全体の公正な競争環境が損なわれることにつながりかねない。

 公取委としては、オンラインモール運営業者の市場における地位を踏まえ、後記のとおり、オンラインモール運営業者は公正な競争環境を確保する観点から出店者との間の取引条件の透明化に取り組むべきことや、オンラインモール運営業者の行為のうち独占禁止法上問題となる行為についての考え方を明らかにするとともに、オンラインモールにおける取引の状況について情報収集に努め、独占禁止法に違反する行為に対しては厳正に対処することとする。

 

2 オンラインモール運営業者による行為

(1) オンラインモールの利用料・決済方法

 調査結果によると、オンラインモールの利用料の一方的値上げや決済方法を指定されることに不満を持つ出店者がみられた。

 自己の取引上の地位が出店者に優越しているオンラインモール運営業者が、正常な商慣習に照らして不当に、利用料や決済方法を変更して不利益を与えるなどの場合には、独占禁止法上問題が生じるおそれがある(優越的地位の濫用)。

 公取委としては、オンラインモール運営業者が、オンラインモールの利用料や決済方法を不当に変更することのないよう、オンラインモール運営業者と出店者との取引の状況について情報収集に努めるとともに、独占禁止法に違反する行為に対しては厳正に対処することとする。

(2) オンラインモールへの出店・出品の審査

 調査結果によると、出店者がオンラインモールに出店・出品した際の審査に当たって、「審査基準の開示が行われなかった」とする出店者がみられた。

 オンラインモール運営業者は、オンラインモールへの出店・出品の審査基準について予見可能性が確保されるよう、引き続き、可能な限り取引条件の透明化に取り組むことが公正な競争環境を確保する観点から望ましい。

 オンラインモール運営業者が、独占禁止法上違法な行為の実効性を確保するための手段として、出店者の出店・出品の申込みを拒否し、又は、出店者を退店させる場合や、自らも小売事業を営み、小売市場における有力な事業者であるオンラインモール運営業者が、小売市場における競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として、出店者の出店・出品の申込みを拒否し、又は、出店者を退店させる場合には、独占禁止法上問題が生じるおそれがある(単独の直接取引拒絶等)。

 公取委としては、オンラインモール運営業者が、オンラインモールへの出店・出品を不当に拒否したり、出店者を不当に退店させたりすることのないよう、オンラインモール運営業者と出店者との取引の状況について情報収集に努めるとともに、独占禁止法に違反する行為に対しては厳正に対処することとする。

(3) 他のオンラインモールへの出店制限

 調査結果によると、出店者に対して、他のオンラインモールへの出店制限を課す行為は、本調査においては確認できなかった。

 市場における有力な事業者が行う場合には、既存の事業者の事業活動を阻害したり、参入障壁を高めたりするような状況をもたらす可能性があり、市場閉鎖効果(=非価格制限行為により、新規参入者や既存の競争者にとって、代替的な取引先を容易に確保することができなくなり、事業活動に要する費用が引き上げられる、新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合)が生じる場合には、独占禁止法上問題が生じるおそれがある(自己の競争者との取引等の制限)。

 公取委としては、オンラインモール運営業者が、出店者が他のオンラインモールへ出店することを制限していないか、また、制限している場合には当該行為が市場にどのような影響を与えるのかといった観点から、オンラインモール運営業者と出店者との取引の状況について情報収集に努めるとともに、独占禁止法に違反する行為に対しては厳正に対処することとする。

(4) MFN条項(=オンラインモール運営業者・出店者間の取引条件のうち、出店者に対して、自社サイトや他のオンラインモールで販売する際の価格と同等又は安い価格で販売することや、同等以上の品揃えで販売することを要請する内容のもの)

 調査結果によると、出店者に対して、自社サイトや他のオンラインモールで販売を行う際の価格と同等又は安い価格で販売することや、同等以上の品揃えで販売することを要請する行為は、本調査においては確認できなかった。

 市場における有力な事業者が行う場合には、オンラインモール間や出店者間の価格や品揃え等の競争の減少がもたらされるおそれや、他のオンラインモール運営業者のイノベーション意欲や、他の事業者の新規参入の阻害をもたらすおそれがあり、こうしたおそれが生じる場合には、独占禁止法上問題が生じる(拘束条件付取引等)。

 複数のオンラインモール運営業者が行う場合には、独占禁止法上の問題が生じる可能性が大きくなると考えられる。

 公取委としては、オンラインモール運営業者が、MFN条項を出店者との契約において設けていないか、また、設けている場合には当該MFN条項が市場にどのような影響を与えるのかといった観点から、オンラインモール運営業者と出店者との取引の状況について情報収集に努めるとともに、独占禁止法に違反する行為に対しては厳正に対処することとする。

(5) オンラインモールにおける顧客情報の利用制限について

 調査結果によると、「商品の発送以外には顧客情報を利用できない」、「オンラインモールからの退店後には顧客情報を利用できない」とする出店者がみられた。

 オンラインモール運営業者は、出店者が、入手可能な顧客情報やその利用条件を一方的に変更されるといった予期しない不利益を受けることのないように、顧客情報の利用条件について予見可能性が確保されるよう、引き続き、可能な限り取引条件の透明化に取り組むことが公正な競争環境を確保する観点から望ましい。

 自ら小売事業も営むオンラインモール運営業者が、出店者による販売によって入手した顧客情報を、当該オンラインモールにおける自らの小売事業を有利に行うために利用し出店者には利用させないことにより、出店者の小売事業を不当に妨害する場合には、独占禁止法上問題となるおそれがある(競争者に対する取引妨害等)。

 公取委としては、オンラインモール運営業者が、出店者による顧客情報の利用条件を明確にしているか、また、出店者による顧客情報の利用を不当に制限していないかといった観点から、オンラインモール運営業者と出店者との取引の状況やオンラインモール運営業者による顧客情報の活用状況について情報収集に努めるとともに、独占禁止法に違反する行為に対しては厳正に対処することとする。

 

3 調査結果のまとめと独占禁止法・競争政策上の評価

 eコマースには競争促進効果が認められ、消費者と事業者の双方にとって大きなメリットをもたらしていると考えられるところ、競争制限的な行為は、消費者向けeコマース市場の発展を阻害することとなるため、公正取引委員会としては、消費者向けeコマース市場において、独占禁止法上問題となる行為が行われることなく、小売市場全体における競争が更に促進され、消費者が、良質で安価な商品をより簡単に入手できるようになることを期待している。

 公取委は、オンラインモールが我が国の消費者向けeコマース市場において重要な役割を果たしており、また、間接ネットワーク効果の存在などにより特定のオンラインモールが市場において優位な立場に立ちやすいことから、オンラインモール運営業者によって公正かつ自由な競争を阻害する行為が行われると消費者向けeコマース市場全体の公正な競争環境が損なわれることにつながりかねないと考えている。

 公取委としては、消費者向けeコマース取引の動向について、特にオンラインモール運営業者による行為を中心に、情報収集に努めるとともに、独占禁止法に違反する行為に対しては厳正に対処していく。

 

 

  1. 公取委、消費者向けeコマースの取引実態に関する調査について(1月29日)
    https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jan/190129.html
  2. ○ 消費者向けeコマースの取引実態に関する調査について(報道発表文)
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/02/190129_1houdouhappyou.pdf
  3. ○ 消費者向けeコマースの取引実態に関する調査について(報道発表文別紙)
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/02/190129_2houdouhappyoubessi.pdf
  4. ○ 概略図
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/02/190129_3gairyakuzu.pdf
  5. ○ 調査報告書本体
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/02/190129_4houkokusyo.pdf

 

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