コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(139)
―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑪―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、新会社の中期経営計画のうち、①お客様との新たな信頼関係の構築に関する具体的な施策を述べた。
新会社の利益計画は、初年度・2年度の累積赤字を、3年度目に単年度黒字化し4年度目の2005年度に一掃することを目指した。
そのための中期経営計画を「ミルクコミュニティ2005」(略称MC05)と命名、2005年度の企業像を、「ミルクコミュニティに参加する全ての人々と新しい信頼関係を築き、21世紀にふさわしい市乳会社として成長の基盤を確立します。」と謳い、4つの目標(①お客様との新たな信頼関係の構築、②事業基盤の確立、③求心力の構築、④経営基盤の確立)を設定した。
①お客様との新たな信頼関係の構築の基本方針を、「良質で安心・安全な商品・サービスの提供と情報開示を行う。そのために、お客様の声を聴き、ニーズを把握し、品質保証マネジメントシステムの構築等に反映させる。お客様視点の活動により新たな信頼関係の構築を目指す」とした。
また、具体的施策には、MCQS(HACCPを基本とした独自の品質保証システム)の構築、お客様センター・ミルクコミュニティ委員会・コミュニケーション部の設置、牛乳トレーサビリティの段階的実施、品質監査の充実(内部・外部機関の活用)、ミルクコミュニティクラブの構築、お客様モニター制度の導入と活用、お客様満足度調査を踏まえたCS向上策の策定とCSレポートの経営への反映等、を設定した。
今回は、前回の続きとして、②事業基盤の確立について考察する。
【日本ミルクコミュニィティ㈱のコンプライアンス⑪:中期経営計画②】(『日本ミルクコミュニティ史』159頁~161頁)
既述したように、MC05では、2005年度に達成すべき企業像を実現するために、4つの中期経営目標を設定したが、統合に参加した3社とも厳しい経営実態[1]にあったことと、市乳事業は、ボリュームが大きいものの利益の出ない事業と言われていたこと等から、市乳事業を専門とする新会社の経営は、社会的信頼の再構築は当然の前提条件として、事業・経営基盤を確立し、(昨日までライバル同士だった企業を一つにした)合併会社として求心力を構築することが、組織の持続的発展にとって極めて重要なテーマであった。
そこで、中期経営計画(MC05)では、表の取組みにより事業基盤の確立を目指すこととした。
表. MC05基本方針と体制及び施策
② 事業基盤の確立
基 本 方 針 |
統合3社の強みを活かし、牛乳を中心とした自然の恵みを全国に届ける。そのために、合理的・効率的な生産・販売・物流体制、お客様のニーズをとらえた商品開発体制を実現する。また、事業特性に合わせた組織機構を導入する。これにより、お客様にとって価値の高い商品をお届けし、市場における地位の確立を図る。 | ||
体 制 |
新ブランドの育成 | 日本ミルクコミュニティ(株)のコーポレートブランドである「MEGMILK(メグミルク)」の育成を図る。メグミルク=自然の恵み+ミルク | |
生産体制 | 直営15工場を中心に、関連会社や協力工場と連携を図り、効率的な生産体制を構築していく。 | ||
販売体制 | 統合3社の57営業拠点を集約・統合し、25拠点とする。併せて、情報システムを活用した販売支援システムを導入することにより、効率的な販売活動を行う。 | ||
ロジスティクスセンター | 受注・生産見込み・在庫管理・配車機能を全国6か所のロジスティクスセンターに集約し、効率的な管理体制を構築する。また、統合3社の物流拠点64か所を31か所に集約し、合理化を図る。 | ||
研究・商品開発 | 統合3社の強みを活かし、カテゴリー別商品開発体制によりお客様に支持される商品を迅速・継続的に開発する。また、長期的視点に立った基礎研究は、雪印乳業(株)技術研究所と共同して取組む。 | ||
地域事業部制 | 市乳という事業特性を考慮し、きめ細かいエリア対応や迅速な意思決定を行うことを目的に地域事業部制を導入する。 | ||
施 策 展開 |
新ブランド商品の開発と育成 | 「メグミルク牛乳」の市場における地位の確立 | 広告宣伝によるブランド認知拡大、消費者キャンペーンの展開、遮光性容器・牛乳トレーサビリティ・製造日付表示の3つの特徴を打ち出した商品の導入により牛乳マーケットのリーダーを目指す。 |
「メグミルク」(ブランド商品)のラインナップ強化充実 | 「メグミルク」ブランド商品の開発。 既存ブランド商品については、原則として新ブランドへの置換えを実施する。 | ||
各チャネル(流通経路)との新しい関係作り | 牛乳販売店の活性化 | 加工食品等への宅配事業領域の拡大を内容とした拠点育成プログラムの作成と推進を図る。 | |
合理的取引形態への移行 | 合理的機能分担を進め、卸経由から直接取引のウエイトを拡大する。卸店・販売店に対して公平で透明性の高い取引制度を導入する。 | ||
重点取引先との関係強化 | CVSとはチームマーチャンダイジングを積極的に取組む。大手量販店に対しては、個別組織戦略の策定を行う。生協チャネルとの共同開発による関係強化を図る。 | ||
車両発着確認システムの導入 | 配送車の運行状況を把握できるシステムを作り、お取引先からの問い合わせに瞬時に対応する。 | ||
重点商品の競争力強化 | 重点商品の絞込み | 経営資源を集中すべき商品を明確にし、市場トップ商品を維持・育成する。 | |
重点商品の競争力強化 | 新たな付加価値の創造。特定保健用食品の認証取得、新機能性素材・次世代容器の探索。 |
※『日本ミルクコミュニティ史』160頁~161頁の表を筆者がまとめた。
次回は、統合会社の求心力の構築と経営基盤の確立について考察する。
[1] 統合に参加した3社の統合前年(2002年)度の経営状況は次の通りだった。(『日本ミルクコミュニティ史』79頁)
雪印乳業(株) | 全国農協直販(株) | ジャパンミルクネット(株) | |
売上 | 246,336 | 49,255 | 39,809 |
当期利益 | ▲17,923 | ▲37 | 468 |
(単位:百万円)