◇SH3402◇最三小判 令和2年4月7日 不法行為による損害賠償請求事件(宮崎裕子裁判長)

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 強制執行の申立てをした債権者が債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することの許否

 強制執行の申立てをした債権者が、当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において、当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されない。
 (補足意見がある。)

 民事執行法42条、民事訴訟費用等に関する法律2条、民法709条

 平成31年(受)第606号 最高裁令和2年4月7日第三小法廷判決 不法行為による損害賠償請求事件 一部破棄自判、一部上告棄却 民集登載

 第2審 平成29年(ネ)第5580号 東京高裁平成30年9月27日判決
 第1審 平成26年(ワ)第1359号、平成26年(ワ)第1693号 さいたま地裁平成29年11月15日判決

1 事案の概要

 X(被上告人)は、Yら(上告人ら)に対し、Xの所有する建物の一部(以下「本件建物部分」という。)の明渡しを命ずる仮執行の宣言を付した判決を取得し、同判決に基づく強制執行を実施したが、その際民事執行法42条1項に規定する強制執行の費用で必要なものに当たる費用(以下「本件執行費用」という。)を支出した。本件は、被上告人が、本件執行費用はYらによる本件建物部分の占有に係る共同不法行為による損害であるとして、上告人らに対し、不法行為に基づき、本件執行費用及びその弁護士費用相当額並びに遅延損害金(以下「本件執行費用等」という。)の連帯支払等の請求をした事案である。

 民事執行法42条1項の「費用」の範囲は、民事訴訟費用等に関する法律(以下「費用法」という。)2条各号に列挙されたものに限定されるところ、強制執行の申立てをした債権者が、当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において、上記の費用に該当する本件執行費用を損害として主張することができるか否かが争われた。

2 1審及び原審の判断の概要

 1審、原審共に、Xの請求のうち、本件執行費用等を不法行為に基づく損害として請求した部分については全額認容すべきものとした。

3 本判決

 これに対し、Yらが上告受理申立てをしたところ、最高裁第三小法廷は、本件を上告審として受理し、判決要旨のとおり、強制執行の申立てをした債権者が、当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において、当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されないとして、原審が本件執行費用等の請求を認容した部分を破棄し、同部分に係るXの請求を棄却し、その余の上告を棄却した(一部破棄自判、一部上告棄却)。

4 説明

 (1) 民事執行法は、強制執行の費用で必要なもの(以下「執行費用」という。)を債務者の負担とする旨を定め(42条1項)、このうち同条2項の規定により執行手続において同時に取り立てられたもの以外の費用については、その額を定める執行裁判所の裁判所書記官の処分(以下「費用額確定処分」という。)を経て、強制執行により取り立て得ることとしている(同条4項ないし8項、22条4号の2)。執行費用は私権の実現のためのものであるから当事者が負担すべきところ、民事執行法は、執行費用の負担者を一律債務者と定め、強制執行をせざるを得なかった責任の所在が任意に履行しなかった債務者にあるか否か等の事情にかかわらず、強制執行が行われ、その執行に必要であった以上常に債務者の負担とすることを明言したものとされる(香川保一監修『注釈民事執行法 第2巻』(金融財政事情研究会、1985)645頁[大橋寛明])。

 もっとも、強制執行の申立人である債権者は、強制執行をするに当たり、先に執行費用を予納しなければならないから(同法14条参照)、債権者は、予納した執行費用を、債務者から事後的に費用償還請求として取り立てる必要がある。民事執行法は、このような債権者の費用償還請求権の行使について、①金銭執行の場合はその手続内での同時取立ての方法により(42条2項)、②非金銭執行の執行費用や金銭執行で①の方法で取り立てられたもの以外のもの及び非金銭執行の執行費用については、執行裁判所の裁判所書記官による執行費用額確定処分を申し立てる方法(同条4項~9項)によるべきことを規定し、執行費用額確定処分はそれ自体が債務名義になることとしている(22条4号の2)。このように、債権者は、費用額確定処分を得ることにより、執行費用を訴訟によらずに取り立てることが可能であるが、費用額確定手続をとらず、あるいはその手続に重ねて、別訴で不法行為に基づく損害賠償としてこれを請求することができるか否かについては明らかでなかった(なお、本件事案では、Xは費用額確定処分も取得していた。)。

 この問題に関し、学説や裁判例では、費用法2条各号に限定列挙された訴訟費用について不法行為等に基づく損害賠償請求が許されるかという問題として主に論じられており、費用償還請求権は必ず費用額確定手続によって行使しなければならず、不法行為等の実体法上の理由に基づく場合であっても別訴によることは許されないとする否定説(菊井維大ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ』(日本評論社、2002)15頁、三宅省三ほか編代『注解民事訴訟法Ⅱ』(青林書院、2000)25頁[山本和彦]等)、双方の請求が可能であるとする肯定説が対立している。もっとも、肯定説のほとんどは、別訴により得る場合を、費用負担の裁判を受けるまで(鈴木忠一「訴訟費用の裁判」民事訴訟法学会編『民事訴訟法講座 第3巻』(有斐閣、1955)937頁)あるいは費用額確定処分までなど、一定の場合に限定している。否定説は、法が費用額確定手続という簡易な取立手続を特に設けている以上これによるべきであること、訴訟による請求を認めると費用額確定手続の確定性に反することなどを理由とし、(制限的)肯定説は、訴訟法上生ずる費用償還請求権と民法上の賠償請求権とでは発生原因が異なり、訴訟物も異なることを根拠とするほか、費用額確定処分は必ずしも簡便とはいえない、費用額確定処分を受けることができるとしても、別途これが不法行為による損害として認められれば当該債権は相殺不許となるからその利益は無視できない、訴訟費用等の発生が不法行為による損害となるような場合にまで費用額確定処分でしか請求できないこととするのは権利者に酷である等と述べるものもある。

 確かに、民事執行法や民訴法は、費用額確定手続を設けているものの、別訴での請求を禁止する趣旨の定めはないことや、費用額確定手続における費用償還請求と実体法上の根拠を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求とでは訴訟物が異なるから当然に訴えの利益が否定されるものでもないことからすると、肯定説がいうように、たとえ費用額確定手続が簡易迅速であるとしても、簡易迅速性は権利者側の便益のためのものであるから、権利者自身があえて訴訟による請求を選択することを禁止する理由にはならないと思われる(例えば、債権者が支払督促(民訴法382条)や少額訴訟(同法368条)の手続をとらずに通常訴訟の手続を選択することも任意である。)。しかし、費用額確定処分は、費用法2条所定の「費用」についての額の確定や取立てを認めた制度であるところ、同条では、上記「費用」を、訴訟等において一般に必要とされ、かつ当事者にとって公平な費用に限定する趣旨で、その「範囲」を同条各号において費目を掲げ、その「額」も、同条各号において定めているものと解され、これを強行規定としたものである。費用法が民事訴訟等の費用を費目や額をもって限定しているのは、民事訴訟等の費用が、権利者のみならず、義務者の側にとっても予測可能で適正な額のものに限られ、ひいては、訴訟における原告と被告、あるいは強制執行における債権者と債務者等の当事者双方にとってこれらの民事訴訟等の手続が利用しやすく公平なものとなることをその目的としていると考えられる。

 (2) このような議論状況の下、本判決は、費用法2条の趣旨を、「当該手続の当事者等に予測できない負担が生ずること等を防ぐとともに、当該費用の額を容易に確定することを可能とし、民事執行法等が費用額確定処分等により当該費用を簡易迅速に取り立て得るものとしていることとあいまって、適正な司法制度の維持と公平かつ円滑なその利用という公益目的を達成する趣旨に出たものと解される。」とし、強制執行に要した費用のうち、費用法2条各号に掲げられた費目のものを不法行為に基づく損害として主張し得るとすることによって、上記の趣旨が損なわれることがあってはならないことから、判示事項のとおり判断して否定説に立つことを明らかにしたものと思われる。

 (3) なお、本判決は、執行費用について述べるものではあるが、上記のとおり、これが費用法の趣旨から導かれるものである以上、費用法所定の民事訴訟費用等についても同様のことが当てはまると思われる。他方、本判決は、強制執行の申立てをした債権者と債務者との間の規律を述べているものであるから、当事者以外の者に負担を求める場合にまで射程が及ぶものではないし、また、実体法上の原因に基づく請求であっても、不法行為以外の、例えば債務不履行や合意に基づく請求の場合について同様に考えられるかどうかは議論があり得、今後の問題と思われる。

 このように、本判決は、従来学説上の対立がある問題について最高裁の判断を初めて示したものとして、実務上も理論上も重要な意義を有するものと考えられる。
 なお、宇賀裁判官による補足意見が付されているが、これは、登録免許税法31条2項の過誤納金の還付制度を例に挙げ、法が特別な手続を定められている場合でも、それが専ら権利者の便宜のためのものであれば債権者の任意の手続選択が認められるが、公益性が認められる場合には手続の排他性が認められ得る旨を敷衍して述べるものである

 

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