◇SH2479◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(30) 相澤恵美(2019/04/15)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(30)

高度プロフェッショナル制度

TMI総合法律事務所

弁護士 相 澤 恵 美

 

XVI 高度プロフェッショナル制度

1 はじめに

 高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を、一切、適用しない制度をいう(労基法41条の2。2019年4月施行)。

 柔軟な働き方を可能とする新たな制度として期待される一方で、労基法上の労働時間規制等が適用されないため、長時間労働を助長し、過労死を増やすとの批判もあったが、国会審議過程において、対象労働者が当該制度の適用に対する同意を撤回できる旨の規定を盛り込んだ修正案が示されるなどした結果、「働き方改革」における目玉の制度の一つとして創設された。

 

2 対象業務について

 高度プロフェッショナル制度の対象業務は、省令で定めるものに限定されており、現時点における対象業務は、以下の5つとされている。

  1. ① 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  2. ② 資産運用(指図を含む)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務(いわゆる、金融商品のディーリング業務)
  3. ③ 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる、アナリストの業務)
  4. ④ 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務(いわゆる、コンサルタントの業務)
  5. ⑤ 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

 そして、この対象業務は、当該業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示を受けて行うものであってはならない。ここでいう「具体的な指示」とは、ⅰ)出勤時間の指定等始業・終業時間や深夜・休日労働等労働時間に関する業務命令や指示、ⅱ)労働者の働く時間帯の選択や時間配分に関する裁量を失わせるような成果・業務量の要求や納期・期限の設定、ⅲ)特定の日時を会議に出席することを一方的に義務付けること、ⅳ)作業工程、作業手順などの日々のスケジュールに関する指示が考えられるとされている(指針)。

 

3 対象労働者について

 高度プロフェッショナル制度の対象労働者は、書面等による合意に基づき職務の範囲が明確に定められている労働者であって、1年間に支払われると見込まれる賃金の額が、「基準年間平均給与額」の3倍を相当程度上回る水準として、省令で定める額(現時点では1075万円)以上の労働者である必要がある。

 年収要件に関しては、例えば、労働者の勤務成績等に応じて支払われる賞与や業績給等、その支給額があらかじめ確定されていないものは含まれないが、賞与や業績給でもいわゆる最低保障額が定められ、その最低保障額については支払われることが確実に見込まれる場合には、その最低保障額は含まれる。また、一定の具体的な額をもって支払うことが約束されている手当は含まれ、支給額が減少することが見込まれる手当は含まれないとされている。

 

4 必要な措置(健康管理時間の把握、選択的措置等)について

 使用者は、高度プロフェッショナル制度の適用対象労働者については、客観的な方法等により「健康管理時間」(事業場内にいた時間+事業場外で労働した時間)を把握する必要があるほか、「年間104日以上、かつ、4週4日以上」の休日を与える必要がある。

 また、労使委員会の決議で選択した次のいずれかの措置を実施する必要がある(選択的措置)。

  1. ① インターバル措置(終業時刻から始業時刻までの間に一定時間以上を確保する措置。11時間以上)及び深夜業(22時~5時)の制限(1か月4回以内)
  2. ② 1月又は3月の健康管理時間の上限措置(1週当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について、1か月当たり100時間及び3か月あたり240時間)
  3. ③ 1年に1回以上、2週間連続の休日(本人が請求した場合は、1週間連続×2回以上)
  4. ④ 厚生労働省令で定める臨時の健康診断(1週当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について、1か月当たり80時間を超えたこと、又は、本人から申し出があった場合)

 これらの措置は、実際に講じていることが制度導入の要件であり、労使委員会の決議が適正であっても、実際にこれらの措置が講じられていない場合は、労働時間規制等の適用除外の効果は生じず、原則に戻り、法定労働時間や割増賃金等に関する制度が適用される。

 その他、使用者は、健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置として、厚生労働省令で定めるものの(法定の選択的措置のうち選択していないもの、又は、代償休暇若しくは特別な休暇の付与、心とからだの相談窓口の設置、配置転換等)を実施する必要がある。

 また、労働安全衛生法上、健康管理時間が一定時間を超えた者(1週当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1か月当たり100時間を超えた労働者)については、本人の申し出によらず、一律に医師による面接指導を実施することが義務付けられている。

 

5 制度の導入手続について

 高度プロフェッショナル制度を導入するためには、導入する事業場において労使委員会を設置して、労使委員会において、対象業務・対象労働者・労働者からの同意撤回に関する手続等の法所定の事項を決議し(5分の4以上の多数による決議)、その決議を労働基準監督署に届け出る必要がある。また、対象労働者から書面で同意を得た上で、実際に対象業務に就かせる必要がある。

 なお、制度導入後は、実施状況を労働基準監督署に定期報告(6か月ごと)をする必要がある。

 

6 最後に

 高度プロフェッショナル制度は、高度な専門的知識を持ち、自律的で創造的な働き方を希望する労働者が、高い収入を確保しながら、メリハリのある働き方ができるような、自由な働き方の選択肢の一つとなることが期待されているが、その導入のために企業において検討・対応すべきことが多く、しかも、万が一、当該制度の適用が否定された場合に企業に与えるインパクトも小さくない。例えば、もし制度の適用が否定された場合には、対象労働者の年収が高いため、当該労働者について、多額の未払残業代が発生しているということになりかねない。また、参議院付帯決議において、高度プロフェッショナル制度を導入する全事業場に対して、労働基準監督署は立入調査を行い、法の趣旨に基づき、適用可否をきめ細かく確認し、必要な監督指導を行うものとされている。

 そのため、少なくとも当面は、高度プロフェッショナル制度の導入には慎重となる企業が多いことが予想され、他社や業界等の今後の動向にも注視する必要がある。

 

  1. (参考)
  2.  省令:https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/000491676.pdf
  3.  通達:https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/000491675.pdf
  4.  指針:https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/000491677.pdf
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