◇SH2492◇租税における公平の実現(5) 饗庭靖之(2019/04/19)

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租税における公平の実現

第5回

首都大学東京法科大学院教授・弁護士

饗 庭 靖 之

 

第2 配当所得や利子所得と他の所得との課税の公平

(3) 法人課税は株主の負担となっているか

 それでも、法人の利益の発生と、法人の利益の個人への移転というのは、別の事象であるとして、「1つの収益行為について、担税力が2つあると評価し、2回の課税を行っていること」にならないか。すなわち、活動する事業実態が一つしかないのに、法人が関与することによって、担税力を見出す主体が法人と株主という二つになると、法人と株主の双方の利益に課税をすることは、実質的に二重に課税することにならないか。

 法人と個人が活動する実体が異なっているのであれば、一つの事業実態しかないということはできないであろう。法人は組織として活動しているのであり、組織として事業により収益をあげているのであれば、事業による組織の所得には担税力がある。その法人の株式を取得して株主となった者は、法人の事業活動とは別に、自己の事業として株式の取得行為をしているのであり、法人の事業活動と個人の株式取得行為は別個の活動であって、法人と株主へのそれぞれの課税が、一つの法人事業活動への重複した課税とは言えないであろう。

 しかし、個人が事業を行う手段として法人形式を使用しようとして法人を設立した場合などには、法人の事業活動と個人の株式取得行為は別個の活動として捉えるのは実態に適合せず、活動する事業の実態は一つというべきであり、法人が関与することによって、担税力を見出す主体が二つあるとして、それぞれの利益に課税をしていくと、法人と個人の活動が両方への課税によって制約され、法人と個人の行動が課税によって行動を阻害させるおそれがある。その結果、法人による事業活動を回避して、事業家個人で事業活動をするような行動を引き起こすおそれがある。

 このような事態を避けるためには、法人への課税と、個人への配当所得を調整する必要がある。法人税は、法人が納税義務を負うものである以上、法人税を支払う法人財産が株主に帰属する財産でない以上、形式的には、「法人税の相当部分は株主の負担となっている」ということはできないが、「配当利益に課税しないときに比べて、配当利益に課税するときは、法人税を法人が支払うことによって、課税された分の配当可能利益が減少し、その結果として、出資者の配当所得は、課税額分の減少をしている」ことにより、実質的には、法人税の相当部分は株主の負担となっている」である。

(4) 法人課税により配当可能利益が減少することの合理性

 この場合に、法人に対する課税により、出資者の配当所得が課税額分の減少をしていることには合理性もある。それは、出資者への配当可能利益が法人課税額分の減少をしていることについては、株式制度という有限責任制度を利用するメリットの対価として評価される部分があるからである。

 株主が例えば一人で事業を起こすために株式会社を設立した場合のように、支配株主が会社事業に深く関わっている場合であっても、株主は株式会社制度の有限責任制により、会社の負う負債から遮断されているので、会社倒産時には、会社の負う負債は公共団体をはじめ他者が負担することになる。

 株主が負わない倒産による損害は、会社と取引関係にある多数の者が負うのであり、これらの者が負う損害の救済やあるいは支援を公共団体は行う義務があり、また会社倒産による従業員の生存権を確保する措置等は国が負うのであり、また支払われない負債のうちには公共団体の税債権や社会保険料債権なども大きく占めるのである。このような倒産によるコストについて、公共団体は最終的な責任の担い手となっているのであり、したがって、このような責任の担い手となっている公共団体は、法人が債務超過になって倒産して公共団体が費用を徴収できなくなる前に法人税の形で費用を前払いしてもらうことが必要である。

 株主は、有限責任で会社倒産の危険から遮断されているのであり、公共団体が費用の前払いを受けるために株主の出資行為に対するリターンである株主の配当所得が制限されることは必要であり、株主が受け入れなくてはならないことである。

 この場合、法人に対する課税により出資への配当可能利益が課税額分の減少をしている額と、株式制度という有限責任制度を利用するメリットの対価として評価される額が、等しい額なのかどうか問題は残る。

 法人が債務超過になって倒産して公共団体が費用を徴収できなくなる前に法人税の形で費用を前払いしてもらうことが必要な額は、一義的に定まるものではなく、それは社会として決定していくことが必要であり、立法によって決定されるべき事項であろう。

 すなわち、法人に対する課税額が、法人が債務超過になって倒産して公共団体が費用を徴収できなくなる前に法人税の形で費用を前払いしてもらうことが必要な額と引き合っているのか、それより小さい金額として決定されるべきかは、立法によって決定されるべき事項である点で、立法裁量に委ねられる。

 そして、小さい額として定められたときは、法人に対する課税により出資者の配当所得が減少している額と、法人が債務超過になって倒産して公共団体が費用を徴収できなくなる前に法人税の形で費用を前払いしてもらうことが必要な額との差額は、出資者の配当所得に対する課税の前取りにあたり、その金額を、配当所得への所得税から控除することが、配当所得への公平な課税のために必要となる。

 ちなみにシャウプ勧告は、配当所得を他の所得と合算して総合的に所得税を計算する場合に、配当所得の一定割合(25%)を税額から控除することを勧告している。

 

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