◇SH2319◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第7回) 齋藤憲道(2019/02/07)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

第1部 管理をめぐる経営環境の変化

3.バブル経済崩壊~「日本再興戦略」へ 1990年(平成2年)~現在

(2) 経営管理の潮流

○ 日本で1994年に製造物責任法が制定されたことから、多くの企業において顧客満足向上に向けて全社的に取り組むISO認証取得や TQM (Total Quality Management)の導入が進んだ。

 特に、ISO 等の国際規格は、世界に展開した拠点間で業務水準の高位平準化を目指す日系グローバル企業が求めている手法であり、多くの日本企業が導入した。

  1. 〔ISOマネジメントシステム規格〕
  2.   現在、ISO のマネジメントシステム規格には、品質[1]・環境・情報セキュリティ・食品安全・労働安全衛生等の認証規格と、社会的責任・リスクマネジメント等の手引(ガイダンス)規格がある。

○ 日米欧で企業の競争力強化活動が活発になった。

 日本の品質管理活動に倣って1987年に米国で創設された「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞」が成果を上げた。

 その後、米国に触発されて1992年に制定された「欧州品質賞」の取り組みが欧州企業の間で広まった。

 そして、1995年に、日本に逆輸入する形で「日本経営品質賞」が創設された。

○ 1992年に、証券取引等監視委員会が設置された[2]

  1. (注) 設置後、機能が拡充されて体制が強化され、証券業協会・証券取引所と連絡協議会を設けて不自然な取引等について迅速な情報交換を行う等、違法行為への対処が強化された。 

 1990年以降、証券会社による様々な不祥事が発覚[3]した。

 1991年に証券会社による損失補填が禁止された。(証券取引法改正)

  1. (注) 1992年に投資者保護の徹底及び銀行等の子会社による証券業業務の参入が定められた。

○ 1993年(平成5年)の商法改正で株主代表訴訟の提起が容易化(手数料低減[4])され、この後、同訴訟件数が増加する。

  1. (注) 取締役・監査役のリスク負担が大き過ぎるとして、2001年(平成13年)の商法改正において、善意・無重過失の取締役・監査役の責任を一定の条件の下で軽減することが可能になった(責任を負う範囲の上限を規定)。

○ 2005年(平成17年)に制定された会社法で、取締役会の「内部統制システム」構築義務が制度化された[5]

  1. (注) 2006年(平成18年)に、「有価証券報告書」に併せて「内部統制報告書」と「確認書[6]」を提出する制度が導入された[7]。(このとき、証券取引法が金融商品取引法に改題された。)

○ 証券取引所が、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うことを目的として、2015年に「コーポレートガバナンス・コード」を公表した。

  1. (注1) 同コードは法令ではないが「Comply or Explain[8]」を義務付けて、上場会社を拘束する。
  2. (注2) 同コードは「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」を基本原則としている。
  3. (注3)「機関投資家」側の基本原則
    一方で、2014年2月に金融庁から、機関投資家が、投資先企業と建設的な「目的を持った対話」等を行って、その企業価値向上・持続的成長を促すことにより顧客・受益者の中長期的な利益を拡大する責任を果たすのに有用な基本原則が、「日本版スチュワードシップ・コード」として公表されている。

○ 2000年代に入ると、様々な法規制が毎年のように導入され、企業はこれに対応するために、内部統制やコンプライアンス確保等を目的とする管理業務を何種類も追加した。その分だけ間接業務が肥大化し、管理間接業務の生産性が低下したと考えられる。

 企業では、遵法管理を効果的かつ効率的に行い、同時に、開発・生産・販売等において高い生産性を実現する経営管理システムを構築する必要がある。

〔遵法管理の重層化・肥大化〕 各項の( )内は、その管理を主管する主な職能

2000年 グリーン購入法制定に伴うグリーン調達指向

    環境負荷(化学物質を含む)が少ない製品・材料を優先的に調達する(技術、設計、購買)

2002年 安全保障輸出管理へのキャッチオール規制導入(技術、輸出・輸入、営業、購買)       

2003年 個人情報保護法制定(人事、営業、購買、システム、他全職能)

2003年 営業秘密侵害への刑事罰導入に伴う情報セキュリティ管理強化

    (経営幹部、技術、生産技術、品質管理、営業、購買、人事、経理、システム等)

2004年 公益通報者保護法制定に伴う内部通報制度導入(通報窓口: 法務、総務、人事)

2005年 インサイダー取引への課徴金制度導入(会社の株価に重要な変動を与える重要事実を知る者)

2005年 独占禁止法リニエンシー制度(課徴金減免制度)導入(営業)

2005~2006年頃 偽装請負問題(人事)

2006年 会社法・金融商品取引法改正に伴う内部統制システム構築(経営企画、経理、人事、法務)

2007年 犯罪収益移転防止法制定(経理、入出金・送金取扱部門)

2009年3月期決算から内部統制報告書の作成・提出(有価証券報告書作成部門、財務、IR)

2004~2011年 各都道府県の暴力団排除条例施行(営業、購買、工場・総務等の産業廃棄物処理部門)

2011年 英国・贈収賄防止法施行(営業、購買、工場)

2012年 米国・紛争鉱物規制(購買、設計、営業)

2013年 フロン排出抑制法制定(輸入、工場、設計、フロン回収部門)

    消費者裁判手続特例法制定(営業、法務)

2014年 景品表示法違反に課徴金制度導入(設計、営業)

2015年 個人情報保護法違反に刑事罰導入(人事、営業、購買、情報システム、他全職能)

    営業秘密侵害罪の範囲拡大及び重罰化
    (技術、生産技術、品質管理、営業、購買、人事、情報システム、経営幹部)

2016年 日本版司法取引制度導入への対応(法務、人事)

2017年 民法(債権法)改正[9](経理、購買、営業、設計、法務)

2018年 EU一般データ保護規則への対応(情報システム、法務)

 



[1] 普遍的な規定であるISO9001を基礎にして、業界固有の追加要求事項を定めて実践的に構成したセクター規格(自動車IATF16949、医療機器・体外診断用医薬品ISO13485、航空宇宙JIS Q9100)が設けられている。

[2] 「証券取引等の公正を確保するための証券取引法等の一部を改正する法律」1992年4月制定、「国家行政組織法8条」、「大蔵省設置法7条(現、金融監督庁設置法7条)」

[3] 1990~1992年に、証券会社による損失補填問題、飛ばし問題、暴力団との取引、巨額の無担保債務保証、総会屋への利益供与等の企業不祥事が明らかになった。

[4] 平成5年改正商法267条4項。平成5年当時は一律8,200円、平成15年改正により一律13,000円。

[5] 会社法362条4項6号、416条1項1号ロ、ホ。会社法施行規則100条、112条。委員会設置会社・監査役設置会社に共通する制度である。

[6] 経営者(代表者、最高財務責任者)が「有価証券報告書」「四半期報告書」「半期報告書」に記載された内容が適正であることを確認する。米国2002年企業改革法302条を参考にして導入された。金融商品取引法24条の4の2第1項

[7] 金融商品取引法24条の4の4第1項、193条の2第2項。内部統制府令3条、4条1項、1条2項

[8] 「証券取引所が示した原則を実施するか、又は、実施しないときはその理由を説明する」ことを求める。

[9] 2020年4月1日施行。〔主な変更〕保証人の保護、約款(定型約款)を用いた取引、法定利率、消滅時効、意思能力ルール、賃貸借ルール

 

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