◇SH2529◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(32) 海野圭一朗(2019/05/13)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(32)

テレワーク(1)

TMI総合法律事務所

弁護士 海 野 圭一朗

 

XVIII テレワーク

1 はじめに

 テレワークとは、情報通信技術を活用し、労働時間の全部又は一部について、自宅など通常の勤務場所(会社のオフィス等)から離れた場所において勤務する方法をいい、その頻度に応じて常時テレワーク/随時テレワーク、勤務場所に応じて在宅勤務/モバイルワーク/施設利用型勤務などの分類がある。

 政府の進める「働き方改革」との関係でも、勤務場所の柔軟性という意味で注目を集めており、政府もその普及を図ろうとしているところである。

 他方で、テレワークであっても、労働者である限り、通常のオフィス勤務労働者と同様に、労働基準法、労働契約法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法その他の労働関係法令が適用されることは言うまでもない(※自営型のように個人事業主については、そもそも労働者ではないと言える。なお、在宅勤務者の労働者性の判断については、[1]参照)。

 

2 テレワークのメリット・デメリット(導入に向けて)

 テレワークを導入する労働者側のメリットとしては、一般に、通勤負担の軽減、育児・介護等との両立、ワークライフバランスの向上/勤労意欲の増進といったものが挙げられる。企業側にも、仕事の生産性向上/社内連携強化、従業員の自己管理能力の向上、震災等によるリスクの分散、ファシリティコストの分散といったメリットがあるほか、労働者側のメリットに伴って生じ得るメリットとして、企業イメージの向上、優秀な人材確保/離職率の低下も挙げることができる。

 他方で、デメリット(課題)として、労働者側においては、仕事とプライベートの切り分けが難しい、長時間労働になりやすい、同僚とのコミュニケーションが難しい/孤独感といったものが挙げられ、企業側においては、労働時間管理を始めとする労働関係法令の遵守に向けた制度構築・運用の手間、人事評価の困難性、健康管理の困難性、情報漏洩・セキュリティ上のリスク・コスト(さらに、場合によっては、社内の不公平感)等が挙げられる。

 上記のようなメリットのうちいずれがどの程度実現・達成できるか、上記のようなデメリット・リスク(課題)のうちいずれがどの程度顕在化してしまうかは、業種・業態、業界・企業文化、労働者側個々人の生活習慣・性格等によるところが少なくない。

 この点、テレワークでは物理的な離隔が生じることとの関係で対象業種を限定せざるを得ない場合が少なくなく、また、後述のとおり、法的なものも含め、諸課題(リスク・コスト)がある程度明確に挙げることができる一方で、上記のようなメリットは具体的・客観的に認識・確認しづらい性質のものが多い。その結果として、デメリットばかりに目が行ってしまいがちであり、テレワークを導入する企業は未だ多くないのが現状である。

 そこで、テレワークの導入にあたっては、導入することそれ自体を目的化せず、①事前のニーズ調査等を踏まえて、「(我が社における)テレワーク導入の目的」を明確化し(※一つに絞る必要はない。)、②当該目的に沿って制度内容を検討・構築し、③研修・説明会等で制度趣旨・内容等の共有を図った上で試験的に導入を開始することとし、④その後も運用状況・課題を定期的にモニタリングしつつ、「いかなる対象者に対して、いかなる条件・手続で導入・運用していくべきか」につき、随時検討・見直し(拡大)を図っていく(段階的導入)、といった進め方が有用と言えよう。

(2)につづく

 


[1] 厚生労働省「在宅勤務についての労働者性の判断について」http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/zaitaku-kinmu/

 

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