コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(167)
―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㊴―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、日本ミルクコミュニティ(株)の危機管理体制の概要について述べた。
日本ミルクコミュニティ(株)は、「企業が社会的存在であることを踏まえ、公正、透明、誠実を旨として対応し、社会と企業の損失を最小限に留めること」を危機管理方針とするとともに、優先順位を、1.生命の尊重と健康の確保、2.社会の被害を最小限に留める、3.企業の損失を最小限にするとし、企業が社会的存在であり利益に優先することを明確にした。
危機が発生した場合には、危機管理規程に基づき代表取締役社長(連絡が不可能な時には代表取締役専務、専務に連絡がつかない場合には取締役会の決定による次順位者)の判断に基づき、危機対策本部(本社と現地)とその事務局を設置し、事務局長は原則として総務・人事部長(当時)が就任、本部長の判断により他の者を指名できるとした。
また、事務局は、事務局長・次長の他に、経営企画部、コンプライアンス部、コミュニケーション部、総務人事部、事象に関わる事業を管掌する部署長、及び事務局長が指名する者で構成した。
今回は、日本ミルクコミュニティ㈱の危機対応行動基準と関連規定類について考察する。
【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㊴:組織の危機管理⑪】(『日本ミルクコミュニティ史』431頁~434頁)
1. 緊急品質委員会規則
日本ミルクコミュニティ(株)は、危機管理関連規定の一つとして、「万一商品事故が発生した場合には、誠実、公正、透明を堅持し、お客様の健康被害を最小限に留めることを旨」に、緊急品質委員会規則を定めた。
(1) 商品事故の重大化区分判定
- ① 第1次重大化判断(形式判断)
- 品質事故の重大化区分の判定の第1次重大化判断(形式判断)は、お客様からの苦情が「商品事故重大化予測苦情判断基準」(以下重大化判断基準)に定める事項に抵触するとき、コミュニケーション部長が、品質保証部長並びに生産技術部長へその苦情内容を速やかに連絡する。
- ② 第2次重大化判断(内容判断)
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第2次重大化判断(内容判断)は、第1次重大化判断を行った苦情について、品質保証部長並びに生産技術部長が、重大性、拡大性、傾向等を考慮して「内容判断」を行う。
この時、品質保証部長並びに生産技術部長は、「お客様への健康被害や事故拡大の可能性がある」と判断した場合には、本社(全国商品)又は各地域(地域商品)において、「緊急品質委員会」を速やかに開催しなければならない。
(2) 危機対策本部の設置
緊急品質委員会は、商品事故に対する対応を速やかに判断することを目的に代表取締役社長が開催するが、緊急品質委員会において「事故内容の告知と商品回収が必要」と判断した場合には、危機対策本部と現地危機対策本部に移行して、緊急事態への対応を進める。
(3) 緊急地域品質委員会
緊急地域品質委員会は、地域内流通商品の商品事故に対する対応を速やかに判断することを目的に、地域事業部長(緊急地域品質委員会委員長)が招集・開催し、その内容を品質保証部長、生産技術部長に報告する。
他地域にも重大な影響を及ぼす可能性がある場合には、品質保証部長は他の地域の事業部長にも、緊急地域品質委員会の招集・開催を指示する。
また、苦情や影響の広域化の状況により「本社での対応が望ましい」と判断した場合には、地域事業部長は、品質保証部長に速やかに緊急本社品質委員会の開催を要請しなければならない。
(4) 緊急本社品質委員会
緊急本社品質委員会は、緊急地域品質委員会委員長から要請があった場合、または品質保証部長が必要と判断した場合に、対応を速やかに判断することを目的に社長(代表取締役)が開催する。
その構成は、委員長(社長)、副委員長(委員長が指名した者)、その他の取締役、経営企画部長、コンプライアンス部長、コミュニケーション部長、総務・人事部長、生産技術部長、品質保証部長、その他委員長が指名する者による。
事務局は、品質保証部長が事務局長、生産技術部長が事務局次長、その他関係部の経営職がメンバーになる他、原因究明チームを組織する。
(5) 原因究明チーム
原因究明チームは、品質保証部長が緊急本社品質委員会の下部組織として、原因究明のために組織し、構成は、リーダー(品質保証部長が指名する者)、本社生産技術部又は酪農資材部、品質保証部からの派遣者、地域事業部生産課からの派遣者、発生場所所属長よりなり、事故発生部署ですべての業務に優先して原因究明に取り組む。
2. 情報開示規則
既述したが、危機対策本部を設置する事態が発生した場合には、情報開示の基本的考え方を規定しておくことが必要である。
日本ミルクコミュニティ(株)の判断基準は、①健康被害拡大可能性、②法令違反、③社会的信用失墜の可能性、④経済的損失拡大の可能性とし、開示の留意点は、①事実に関する情報は、原則として自ら開示する、②疑惑を生む曖昧な情報は開示しない、③情報開示により顧客等関係者に損失を与えない、④適時・適切に可能な限り速やかに情報を開示する、⑤情報は危機対策本部が一元的に管理する、⑥メディアへの情報開示窓口はコミュニケーション部に一元化し、行政等への連絡はそれぞれの所管部署が分担実施する、⑦開示内容は弁護士等専門家の助言を受ける、⑧開示内容は必ず関係部署に連絡し共有化する、⑨危機対応で知り得た情報は危機対策本部の許可なく他に口外してはならない、⑩開示内容は記録・保管する、とした。
開示方法は、(1)社外には、①記者会見、②プレスリリース、③新聞による社告、④ホームページ、⑤被害者等関係者に対する文書、(2)社内には、①イントラネット、②電子メール、③文書とし、開示内容の判定は、危機対策本部が「情報開示判定シート」により点数化して判定し、その判定結果をもとに最終的な判断は危機対策本部長が行うとした。
また、開示先への情報提供についても具体的に分担を定め[1]、連携して迅速に行うとした。
[1]具体的には、①消費者・メディアにはコミュニケーション部、②被害者・地域住民には危機対策本部長が指名した者、③行政・監督官庁には生産技術部、総務人事部、酪農資材部、地域事業部、④取引先には営業企画部、広域営業部、地域事業部、⑤社内・労働組合にはコミュニケーション部、総務・人事部、⑥株主・金融機関には経営企画部、総務・人事部、財務部、⑦業界には生産技術部、酪農資材部、総務・人事部、⑧その他関係先には危機対策本部長が指名した者、とした。