◇SH0492◇法のかたち-所有と不法行為 第五話-2「古代ローマにおける物の帰属関係」 平井 進(2015/12/01)

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法のかたち-所有と不法行為

第五話 古代ローマにおける物の帰属関係

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

2  物が人に帰属するあり方

 一般には、ローマ法のactio in personamは義務をもつ者に対してその履行を求めるもの(condictio)、actio in remは「私のものである」と主張する対象の回復(返還)を求めるもの(vindicatioo)とされている。[1]

 ただし、実際には、actio in remの対象は物質的なものだけではなく[2]、その本質は、ものごとがいかなる状態であるかということの確認(事実とその評価)であったと見られる。そうであったとすると、actio in remは、「確認のアクティオ」とする方が適切であるのではないか(ここではそのように訳しておく)。その確認について、主要なものとして物の帰属関係がある。

 それが確認のアクティオである限り、それによって特定の者にいかなる義務を課すか、またその義務の履行をいかに強制するかということは、そのアクティオとは別の問題となる。[3] このような特色によって、このアクティオは、「人と物の関係」に関わるようにとらえられていたと考えられる。

 このことと関連して、確認のアクティオにおいては、方式書の形式になっても、(対人アクティオの場合と異り)その請求趣旨に被告として人の名を記載せず、物の帰属関係を確認する訴訟の場合、請求原因に現在の占有者やその占有に至る経緯などの事情を記載しない(それ故、その事情に関して占有者は応訴する義務がない)。[4]

 この故に、その訴訟においては、現在の占有者の占有が善意か無過失かというような主観的な事情と無関係に、対象物を回復する効果をもたせていた。そこでは、確認された帰属関係からそれをいかにして回復するかということは、「現在の占有に至る経緯」という事実を考慮しないことによって、「現在の占有者の責任の如何によらない」という法的評価がなされていたといえる。

 この訴訟では、ある時期から、暫定的判決において敗れた占有者がその対象物を返還しない場合、その者(名が示されるので、被告と見なされる)はその価額に有責であるとされるが[5]、一方、その者はそれを正当に買取ることができた。これは、古代ローマの所有の法が、所有者がその物を直接支配する(その処分を専有する)権能をもつという概念ではなかったことを示しているようである。

 その後、占有を喪失した所有物の返還を求める争い(rei vindicatioの訴訟)が発達し、確認のアクティオは、事実上、これと関連して物を支配することと結びつく概念となっていったと見られる。



[1] Gaii Institutiones, 4. 5. Digesta, 44. 7. 25.(ウルピアヌス)

[2] actio in remは、相続の地位(Digesta, 5. 3. 25, 18; 6. 1. 27. 3.)のようなものを対象とするのみならず、例えばある者が自由人であるか、嫁資はどの程度であるかを判断するような予備訴訟(方式の記載は請求趣旨のみからなる)もそのように見なされていた(Justiniani Institutiones, 4. 6. 13.)。

[3] これに関するヴィンとシャイトの議論について、次を参照。江南義之「物権・債務の概念分類について-訴権論」『ローマ法・市民法研究』(白書房, 1990)163頁。(初出は1970-1971年。)

[4] Gaii Institutiones, 4. 87. 江南・前掲, 187-188頁も参照。

[5] Gaii Institutiones, 4. 51.

 

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