◇SH2615◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第40回) 齋藤憲道(2019/06/20)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

1. 商品企画・開発・設計

(4) 社内の他部門と連携して行う重要な業務(上記以外)

 事業の上流(前工程)の業務を担当する開発・設計等の部門が、次工程以降(製造・販売等)の下流(後工程。市場を含む)において生じる様々な製品に係るトラブルを予測し、その発生可能性を最小に(又は回避)することができれば、その分だけ企業全体の生産性が高くなる。

 このため、前工程と後工程は、日頃から、業務上の情報交換・協議を活発に行うことが望まれる。

  1. ① 製造部門(工場)や品質管理部門と連携
  2. ・ 製造部門と、容易かつ安価に製造(組立、加工、検査)できる構造・部品配置等を検討し、最終設計に反映する。
    例 組み立て難い部分の設計を組み立て易く変更する。複数の部品の組み合わせが必要な個所を1個のモジュール部品にする。付加価値を生まない検査作業を省き、組立工程の作業の中で品質を作り込める設計にする。
  3. ・ 工場における部品・原材料等の受入検査基準を設定し、その経緯を記録する。
  4. ⅰ) 検査項目の決定   例 製品規格・仕様書・設計図の重要チェック項目
  5. ⅱ) 全数検査・抜取検査・無検査の選択   例 全数検査、抜取検査[1]、n=1の検査[2]、無検査[3]
  6. ⅲ)計測方法の決定   例 測定の方法[4]、計測機器、検査員に求める資質(資格等)、限度見本[5]
  7. ・ ソフトウェアのテスト方法(単体テスト、システムテスト<総合テスト>)[6]を選定し、その根拠とテスト結果を記録する。
    (注) 情報システムの多くが複数世代のシステム言語や技術を集積して構築されるため、ソフト供給者(ベンダー)と発注者の間で開発体制・各参加者の作業及び責任の範囲を明らかにし、システムリスクを最小にする。
  8. ・ 品質管理部門と協議して、完成品の工場出荷検査基準(検査項目、検査方法等)、梱包・配送基準を設定し、その経緯及び運用結果を記録する。
    (梱包条件の例)段ボール箱の大きさ・強度、パレットシュリンク選択の可否、断熱材・緩衝材等
    (搬送条件の例)温度、湿度、酸化防止の要否、所要時間(特に、経時劣化する物品の場合)、耐震動等
     
  9. ② 品質管理部門及び市場・流通部門と連携
  10. ・ 商品の保管基準を設定する。
    保管条件(温度、湿度、気体雰囲気等)、使用期限・賞味期限・消費期限、どのような場合に点検・修理するか、等の基準
  11. ・ 流通段階の搬送条件を定める。
    -輸送・流通過程で商品が損壊しないように、落下テスト・耐水テスト等を十分に行って包装・梱包形態を決める。
    -用途に適する梱包材(包装材、緩衝材[7])を選定する。(近年は、環境負荷の少ない材質が指向される。)
    -食品分野では表示に係る法令改正が多いので、商品・包装材に表示する事項に常に注意する。
    -製品搬送に関する法規制を守る。
    例 リチウムイオン電池・リチウム電池の航空機への搭載は、ICAO[8]技術指針及びIATA[9]危険物規則の包装基準により、単体又は一定量以上について禁止され、機器と同梱又は組込みの物が一定の条件[10]の下で認められている。
  12. ・ 環境のための製品リサイクル(回収・分解・再利用等)の仕組みを作る。
    単独の企業では難しいので、業界・環境団体・行政等が連携して法律・政省令を制定し、処理団体を創設する等して実施する。
    例 家電、パソコン、自動車、建設廃材、食品、容器包装
  13. ・ 自社の製品の市場不具合情報(消費者クレーム等)と、それに対する応急措置(回収、修理、部品交換、設計変更、使用者への警告等)を記録し、次期商品の企画・設計に反映する。
     
  14. ③ 営業部門と連携
  15. ・ 市場で顧客が選択する商品(機能、デザイン、値ごろ感等)を設計する。
  16. ・ 必要に応じて、製品・取扱説明書に危険・警告・注意の表示を行う。
  17. ⅰ) 製品の仕様書・設計図を作成する段階で、表示すべき事項を洗い出す。
  18. ⅱ) 取扱説明書に記載すべき事項は、消費者・使用者・営業部門から意見を聴取して、反映する。
    (参考)消費生活用製品の取扱説明書に関する指針(JIS S 0137:2000[11]
    消費生活用製品の製品設計者、製造に携わる者、技術文書の作成者、取扱説明書の立案者・作成者や消費生活用製品の規格を作成する委員会が、取扱説明書を構成・作成するのに推奨する事項を挙げている。
  19. 〔指針の内容〕
    一般原則[12]、記載事項(機能・操作方法、安全な使用、移動・組立・据付の方法、清掃・保守・異状の発見・修理の方法等)、記載方法、記載箇所、取扱説明書の作成・構成に対する推奨事項(製品毎に様式を区別する等)、読みやすさ・色・言語・イラスト・シンボルマーク・表・目次・索引・警告表示・説明書の耐久性(製品の耐用年数内は有効で見やすい)等
  20. ・ 商品に表示する内容や、広告宣伝の内容の是非を確認する。
    商品の特性をどこまで訴求できるか
    「世界一」「業界初」と宣伝するときに、それを証明できるか
    飲料の「アルコール分」表示で酒税法上の問題が生じないか
  21. ・ 商品が役務(サービス)の場合は、その提供基準(作業マニュアルを作成する例が多い)を定める。

 


[1] サンプリングの方法には、ランダムサンプリング、層別サンプリング、系統サンプリング、集落サンプリング、2段(多段)サンプリング、等がある。

[2] 対象ロットから1個のサンプルをランダムに抜き取って試験を行い、その結果に基づいてロットの合否を判定する。製品の品質実績が良好で安定している場合に用いられる方法。

[3] 他からの品質情報を元に個々の製品・ロットの合否を判定し、製品試験を行わない。品質が長期間安定して問題が無い場合に採用される方法。

[4]〔VOC(揮発性有機化合物)濃度の測定方法の例〕①労働安全衛生法(作業環境測定基準)では、VOCの個々の成分毎に濃度を測定する。②環境省が定める VOC濃度の測定法(公定法)は、個別の物質毎ではなく、炭素数として包括的に測定し、直接測定又は希釈測定による。

[5] 色合い、傷の具合等の計量的測定が困難な検査項目について、合否判断の境界を「見本」で示す。官能検査では必須。

[6] 「システム管理基準(経済産業省 平成30年(2018年)4月20日)」の「Ⅲ. 開発フェーズ」参照

[7] (梱包材の例)エアキャップ、エアークッション、新聞紙、紙パッキン、クッションペーパー、段ボール、ミラーマット、発泡スチロール(各種形状)、ストレッチフィルム

[8] International Civil Aviation Organization(国際民間航空機関)

[9] International Air Transport Association(国際航空運送協会)

[10] リチウムイオン電池組み込みの場合は、容器・梱包等の包装条件を満たしたうえで、電池マーク(マークに国連番号「UN3481」等を記載)を貼付し、所定の電池輸送添付書類を付けて、航空貨物運送状に“Lithium ion batteries in compliance with SectionⅡ of PI967”と記載する。(日本郵便の「国際宅配便」引受説明書より。2018年3月)

[11] “ISO/IEC Guide37(Instructions for use of products of consumer interest)”を日本語に翻訳してJISにしている。個別の具体的な状況に対応する情報が完全に網羅された総括的な規格ではない(序文より)。

[12] 〔一般原則の例〕製品の損壊リスク、誤使用の回避、製品の識別・使用者の能力、警告表示、望ましい情報の提示

 

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