◇SH2657◇フィリピン:労働力のみの請負の禁止に関する法改正の動向(下) 坂下 大(2019/07/10)

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フィリピン:労働力のみの請負の禁止に関する法改正の動向(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

 本稿では、本改正法案にて新たに導入された請負業者に対するライセンス制度について説明する。

 

ライセンス制度の導入

 現行法では、請負等による業務の外注は、前稿で説明した禁止対象に該当してはならないことに加えて、さらに一定の要件(以下「適法要件」という。)を満たす場合にのみ認められる。本改正法案は、請負業者が請負業務(広く「発注者に対して業務、サービスを提供する」場合が想定されている。)を行うためには、当局によるライセンスの取得が必要であるとした上で、そのライセンス付与の要件の一部に、現行法における適法要件を組み込んでいる。具体的なライセンス付与の要件は以下のとおりである。(1)(2)(5)(6)は実質的に現行法における適法要件でもカバーされているが、(3)の専門性や(4)のうち従業員の正規雇用を求める部分は新たな項目である。

 請負業者が、

  1. ⑴ 発注者の事業から分離、区別された独立した事業を行っていること
  2. ⑵ 5百万ペソ以上の払込資本金又は純資産を有すること
  3. ⑶ 請負業務について専門性を有すること(かかる専門性は、当該業務遂行のためトレーニングを受けた専門家や熟練労働者の存在、当該業務分野におけるトラックレコード等によって示される必要あり。)
  4. ⑷ 正規雇用の従業員の雇用主であり、請負業務に合理的に必要となる設備、機械、又は器具について実質的に投資を行っていること
  5. ⑸ 請負業務の遂行、完成をコントロールするものであること
  6. ⑹ 労働、社会保障法令を遵守していること(社会保障関連の費用支払、資金拠出を含む。)
  7. ⑺ ライセンス費用(10万ペソ以上で別途定められる)を支払っていること

 ライセンスは3年間有効で更新が可能とされている。上記のとおり(ライセンスを得ての)適法な請負等となるための要件が加重されていることや、かかる要件の充足は、ライセンス付与のプロセスにおいて当局の審査の対象となることから(現行法でも請負業者において当局への登録が必要であるが、登録の際に適法要件充足のスクリーニングがなされるものではない。)、適法とされる請負等の範囲はこれまでよりも厳格に解釈、運用されることが予想される。

 なお、ライセンスの取得は請負業者側で必要となるものであるが、違法な請負等に伴うリスクは下記のとおり発注者側にも存するため、発注者として請負等のアレンジを行う際には、相手方がかかるライセンスを取得していることを確認することが重要になろう。また、上記のとおり、ライセンス取得が必要となる請負等の範囲はかなり広範な規定ぶりになっているため、フィリピンにおいて受託業務を行っているような場合には、自らが請負業者としてライセンスを取得することが必要となり得る点にも注意を要する。ライセンス付与手続については、さらに下位法令で詳細を定めることが想定されている。

 

違反の効果

 現行法と同様、本改正法案においても、違法な請負が行われた場合には、発注者が当該請負業務に係る従業員の雇用者であるとみなされ、賃金支払や社会保障関連の手当を含む雇用者としての責任を負う。さらに、本改正法案では、労働雇用大臣は請負業者に対して5百万ペソ以下の罰金を科し、また事業の停止を命じることができる旨の規定が追加され、請負業者に対する規制を強化している。

 

おわりに

 請負、業務委託等の取引は、フィリピン進出企業の多くが何らかの形で関与していると思われるところ、本改正法案が成立した際には、これを踏まえた請負等の適法性の確認や、自己又は相手方のライセンス取得の要否の検討も必要になることが見込まれる。本改正法案の成立時期やこれを踏まえた下位法令の制定の状況について、引き続き注視が必要である。

 

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