◇SH1542◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(33)―組織のあるべき姿の討議 岩倉秀雄(2017/12/12)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(33)

―組織のあるべき姿の討議―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、第1ステップの討議を推進した運動推進事務局員が、この運動をどのようにとらえたのかについて述べた。全社的なプロジェクトを推進する場合には、中核推進事務局は、現場の動きを把握し問題に直ちに対応できなければならない。

 運動の第1ステップの討議では、当初は「事件は乳業部門の一部の工場が発生させた事件で、我々は被害者ではないか」と受け止めていた他部門(購買・生産・指導部門等)も、運動の重要性を認識し、組織全体の在り方を改めて考えるようになり、組織一丸となった再生のエネルギーが生まれた。

 今回は、運動の第2ステップである「『新生・○○』を考える」を取り上げる。

 

【組織のあるべき姿の討議】

 第2ステップでは、「『新生・○○』を考える」と題して、事件を深く反省した組織が今後どのような組織になるべきかについて、職場で討議し問題意識を共有しようとした。

 サブテーマとして、①組織の社会的存在意義は何か、②事業は社会のニーズに応えているか、③生産者や生活者からみて組織は魅力ある存在になっているか、④総合的に見て一番望まれる組織の姿とは何か、を設定した。

 抽象性が高いテーマであったことから、日常業務に追われる現場で取り上げるには盛り上がりにくく、現場の推進事務局は苦労した。

 しかし、組織の今後を方向付ける重要テーマであることから、筆者は事務局長としてまとめを作成する際に、現場での討議内容に加えて筆者が学会報告や大学院で作成した研究論文[1]の内容を一部盛り込み、単なる意見の集約ではなく組織戦略として実践に役立つ方向を目指した。

 第2ステップの討議内容は、下表のとおりである。

 

表.運動の第2ステップ「組織のあるべき姿」の議論
(チャレンジ「新生・○○」運動NEWNO.2を基に、筆者がまとめた)

テーマ

討議結果

第1ステップの統一テーマ:「新生・○○」を考える

サブテーマ

職場討議の要約

組織の社会的存在意義とは何か

  1. ① 日本酪農の振興を推進する組織。(今回の事件によってこれまで果たしてきた役割がなくなったわけではない、国際化が進み国内酪農の未来が厳しくなることが予想されるGATTウルグアイラウンド時代にこそ、設立以来の酪農専門全国連合会の役割が重要になる)
  2. ② 生活者に安心・安全な乳食品を届ける役割。(①の他に、生活者に安心安全な乳食品を適正な価格で届ける役割がある。そのために、法令順守・生活者との交流・情報公開・エンゲージメントが重要になる)
  3. ③ 酪農生産者と消費生活者とのかけ橋になる役割。
  4. ④ 専門農協として専門的な情報を提供するスペシャリストの役割。
  5. ⑤ 雇用を確保し地域社会の発展に貢献する役割。

事業は社会のニーズに応えているか

  1. ① 生産者のニーズ:飼料の安定供給、生乳共同販売事業、指導事業等は、生産者のニーズに一定程度応えているが、今後重要性が高まると思われる研究開発・技術開発については十分ではない。国際化による、価格競争・付加価値競争が進み益々酪農経営が厳しくなることから、これまでの事業に加えて経営効率化、環境破壊の少ない飼養管理技術の開発、個々の生産者の実態に合わせた営農システムの開発が必要になる。
  2. ② 生活者・流通のニーズ:ニーズに応える商品開発で、売上向上を実現してきたが、今回の事件により根底から信用を失った。もう一度、酪農の原点に返って「まじめで正直なものつくり」を行い信頼回復に努めなければならない。
  3. ③ 地域社会のニーズ:これまで地域の雇用の確保、工場見学の受け入れ、酪農祭り等により地域のニーズに応えてきたが、事件発生により地域に迷惑をかけた。この事件をきっかけに、乳業工場を分離独立させることになっており、今後は、地域に開かれた工場としての施策を企画・実行していかなければならない。

生産者・生活者から見て魅力のある存在か

  1. ① 生産者から見て:これまで、支所に担当者を配置して生産者に近づく努力をしてきたが、協同組合なのでコスト上ペイしない生産者も含めてホローしており、大規模農家はコスト面に不満を持つかもしれない。研究開発力や技術力を高め高度な営農ノウハウを提供することにより、組織は魅力ある存在になれるのではないか。なお、生乳の全国流通は、近年大幅に拡大しており、全国連機能としてますます強化が必要である。
  2. ② 生活者から見て:これまで、自然・本物・安心の商品開発と生活者団体との取引を通じて品質保証面の強化を実現してきたが、事件により信頼を失った。改めて、酪農生産者団体として創業の精神に帰り、正直で品質の優れた商品を適正な価格で提供しければならない。
  3. ③ その他の意見:組織は生産者・生活者だけでなく、働く者から見ても魅力ある組織にならなければならない。

 

 本稿(ステップ2)は、次回に続く。



[1] 筆者は、青山学院大学大学院の修士論文「組織連合体の環境適合戦略」及び、日本中小企業学会第18回全国大会(1998年10月 神奈川大学)での報告「協同組合組織の環境適合戦略」、日本協同組合学会第19回大会(1999年10月 九州大学)での報告「協同組合組織の環境適合戦略と組織革新」、日本農業市場学会2000年度秋季研究例会(2000年10月 東北大学)での報告「酪農全国連の経営課題と環境適合」で組織の課題と今後の方向を考察し報告している。

 

 

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