◇SH2818◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第67回) 齋藤憲道(2019/10/10)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

3. 情報の取り扱い基準の共有

(4) 社会への情報発信 

 日本では、多くの法令において企業が情報を開示すべきことを規定している。

 世界的にも、社会に有用な経営情報を企業が適切に発信することを求める声が大きくなっており、国際機関(例えば、OECD)でもそれを促す企業向けの行動指針が制定されている。
 

 OECD 多国籍企業行動指針[1](情報関係の条項を抜粋して要約)

  1. 〔Ⅲ 情報開示〕 企業は活動・組織・財務状況・業績・所有権・企業統治に関する全ての重要事項につき、時宜を得た、正確な情報開示を行うべき。
  2.   (開示情報の例) 財務実績・業績、企業の目的、主要な株式保有と議決権、取締役会メンバー・主要役員の報酬        の方針、関係当事者との取引、予見可能なリスク要因、労働者その他の利害関係者に関する問題、企業統治  の構造と方針
  3. 〔Ⅷ 消費者利益〕 企業は、消費者との関係において、公正な事業、販売・宣伝慣行に従って行動すべき。又、提供する物品・サービスの品質・信頼性を確保するためあらゆる合理的な措置を実施すべき。
  4.   (企業がとるべき行動の例) 1) 提供する物品・サービスが、健康に関する警告・安全情報を含め、消費者の健康・安全のために合意された(又は法的に要求される)全ての基準に適合することを確保する。2) 製品・ サービスについての価格(適当な場合にはその内容、安全な使用、環境特性、維持、保管を含む)に関し、 消費者が知識を得たうえで決定するのに十分・正確・検証可能・明確な情報を提供する。

①「経営の状況」の開示

 企業は、経営の方針・計画、決算情報、各種の報告書(CSR、環境等)等を、様々な機会に社会・投資家に向けて発信してきた。

(会社法、金融商品取引法、証券取引所の上場規程等により企業が発信することを義務付けられている情報については他の項で説明しているので、本項での記述を省略する。)

 近年、経営における非財務諸表の重要性の認識が高まり[2]、従来の財務情報(有価証券報告書等)に非財務情報を加える動きが広がっている。

 例えば、国際統合報告評議会(IIRC)が2013 年に公表した「国際統合報告フレームワーク[3]」は、ガバナンス責任者が「統合報告書」を作成して社会に示すことを提唱している。

  1. (注)「ガバナンス責任者」とは、組織の戦略的方向性、組織の説明責任及びスチュワードシップの遵守状況を監督する責任を有する個人又は組織(例えば、役員会、評議会)をいう[4]
     

 統合報告書 Integrated Report(以下、本項で「IR」という。)

  1.    IRは、組織の外部環境を背景として、組織の戦略・ガバナンス・実績・見通しが、どのように短・中・長期の価値創造を導くかについての簡潔なコミュニケーションである[5]
     IRの主目的は、財務資本の提供者に対し、組織がどのように長期にわたり価値を創造するのかを説明することであり、組織の長期にわたる価値創造能力に関心を持つ全てのステークホルダー(従業員・顧客・サプライヤー・事業パートナー・地域社会・立法者・規制当局・政策立案者を含む)にも有益である[6]
     この、組織が長期にわたり創造する価値は、組織の事業活動とアウトプットによって財務資本・製造資本・知的資本・人的資本等の「6つの資本[7]」が増加・減少・変換された形で現れる[8]
     IRには、次の「8つの内容要素[9]」を含めることとし、要素毎に設けられた問いに対する答えを提供することが求められる。
    1 組織概要と外部環境 2 ガバナンス 3 ビジネスモデル(インプット、事業活動、アウトプット、資本の純増減等) 4 リスクと機会 5 戦略と資源配分 6 実績 7 見通し 8 作成と表示の基礎(組織はどのように統合報告書に含む事象を決定するか、それらの事象はどのように定量化又は評価されるか)
  2. (注) IRの記載は、第三者(公認会計士等)の監査証明が有る部分と、監査証明が無い部分が併存することになる。この点について誤解が生じないようにする必要がある。


[1] OECD 多国籍企業行動指針(Ⅲ.情報開示、Ⅷ.消費者利益) 2011年版。外務省HP(仮訳)より

[2] 日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2015年に国連の責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment=ESGに配慮して投資分析・意思決定を行う等の6原則)に署名し(2018年9月26日時点で世界の2,116社が署名)、資金の運用を委託する金融機関にESG(Environmental環境、Social社会、Governanceガバナンス)を考慮して投資するように求めている。

[3] The International Integrated Reporting Framework 日本語版は、日本公認会計士協会が翻訳し、翻訳レビュー作業部会(企業、投資家、学識者、取引所、公認会計士が参画)による確認・承認を経て2014年3月に発行された。

[4] 「国際統合報告フレームワーク(日本語訳)」の「用語一覧」(ガバナンス責任者)より

[5] 「国際統合報告フレームワーク(日本語訳)」の「用語一覧」(統合報告書)より

[6] 「国際統合報告フレームワーク(日本語訳)」の「要旨」(統合報告書)より

[7] 「国際統合報告フレームワーク(日本語訳)」2.15に、次の1~6が詳しく説明されている。1財務資本、2製造資本、3知的資本、4人的資本(能力、経験、イノベーション意欲を含む)、5社会・関係資本(コミュニティ、ステークホルダー・グループ、その他のネットワーク間又はそれら内部の機関や関係、及び個別的・集合的幸福を高めるために情報を共有する能力)、6自然資本(空気、水、土地、鉱物・森林、生物多様性、生態系の健全性を含む)

[8] 「国際統合報告フレームワーク(日本語訳)」2.4

[9] この1~8に関して、「一般報告ガイダンス(重要性のある事象の開示、資本に関する開示、短・中・長期の時間軸、集約と細分化)」が示されている。

 

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