◇SH0209◇商品先物取引の勧誘規制の見直し 荒田龍輔(2015/02/04)

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商品先物取引の勧誘規制の見直しについて

岩田合同法律事務所

弁護士 荒 田 龍 輔

1 改正の背景等

  平成27年1月23日、農林水産省は、「商品先物取引の勧誘規制の見直しについて」として、「不招請勧誘規制」(商品先物取引法第214条第9号)の緩和を内容とする改正を行った(以下「本改正」という。)[1]。商品先物取引[2]法の「不招請勧誘規制」とは、勧誘を要請していない顧客に対し、訪問又は電話により、勧誘することを禁止する規制のことをいう。

 本改正は、商品先物市場の縮小と商品先物取引に関する苦情・相談件数の減少を背景として平成25年6月14日に閣議決定された「規制改革実施計画」を受け、商品先物取引法施行規則と商品先物取引業者等の監督の基本的な指針等について、顧客保護と市場活性化の両面から検討がなされた結果に基づきなされたものである。本改正により商品先物市場の更なる活性化が意図されている。

 本改正は、平成27年6月1日から施行される。以下では、本改正について、その概要を説明する。

2 現在の「不招請勧誘規制」の対象範囲

  商品先物取引法上、不招請勧誘が禁止される商品取引契約としては、①個人を相手方とする取引所取引に係る契約(損失が限定されている取引[3]を除く)、②個人を相手方とする店頭取引に係る契約が規定されている(同法第214条第9号、同法施行令第30条)。他方で、同法第214条第9号では「委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為」については対象としないとし、具体的には同法施行規則第102条の2において、商品先物取引業者と既に継続的取引関係(商品取引契約、店頭の金融商品取引契約)にある顧客への勧誘や取引所取引の金融商品取引契約について 継続的取引関係にある顧客への勧誘が適用除外とされている。

3 本改正に基づく「不招請勧誘規制」の対象範囲

 本改正は上記商品先物取引法施行規則第102条の2を改正し、「不招請勧誘規制」の対象外となる行為の類型に以下の類型を加え、「不招請勧誘規制」を緩和するものである。

① ハイリスク取引の経験者に対する勧誘(FX(外国為替証拠金取引)等の経験者については他社顧客を新たに追加、有価証券の信用取引の経験者については自社顧客及び他社顧客いずれも追加)

② 以下の(i)及び(ii)の要件を全て満たした者への勧誘

(i) 65歳以上の高齢者や年金等生活者以外の者

(ii) 年収800万円以上若しくは金融資産2,000万円以上を有する者又は商品先物の専門的な知識を有すると考えられる資格(弁護士、公認会計士等)を有する者

 もっとも、本改正により、「不招請勧誘規制」が緩和されることに伴い、事業者に対して契約前及び契約後の一定の措置が義務付けられている(別表参照)。

4 改正に対する反対意見

  本改正に対し、平成27年1月23日、日弁連は抗議声明を出している。抗議の理由としては、上記3の2つの類型のうち②の要件の該当性に係る確認は勧誘行為の一環においてなされるものであり、本改正は、商品先物取引契約の締結を目的とする勧誘が不招請でなされることを許容し、実質的に不招請勧誘を解禁するものであること、「不招請勧誘規制」については、長年商品先物取引による深刻な被害が発生し、度重なる行為規制強化の下でもトラブルが解消しなかったため、与野党一致により商品先物取引法の平成21年改正で導入(平成23年1月施行)された経緯等が挙げられている。同様に、本改正に反対する意見が、消費者委員会からも公表されている[4]

5 まとめ

 本改正については、「不招請勧誘規制」を緩和するものであり、商品先物取引市場の活性化が見込まれるものであるが、他方で、下記別表のとおり、商品先物取引業者には契約に際し一定の措置が求められ、その違反には厳しい処分がなされ得るものであるから、勧誘については慎重になされる必要がある。また、上記4の本改正に反対する意見が存在し、本改正に対しては厳しい視線が送られていることからしても、勧誘はより一層慎重になされる必要があるように思われる。

以上

商品先物取引業者が取らなければならない措置等

 

措置等の内容

契約前

・取引のリスク(損失額が証拠金の額を上回る可能性があること等)を顧客が理解していることを、契約前にテスト方式により確認(全問正解が前提)(本改正後の商品先物取引業者等の監督の基本的な指針Ⅱ-4-3-1(5)⑦ロ(iii)(ロ))。

契約後

・商品先物取引契約締結から14日間取引を不可能とする「熟慮期間」を設ける(本改正後の商品先物取引法施行規則第102条の2第3号ハ(1))。

・投資可能額の上限を設定(年収及び金融資産の合計額の3分の1。上限額に達する証拠金の預託が必要となった場合には、取引を強制的に終了)(同法施行規則第102条の2第3号ハ(2))。

・習熟期間を設定する(経験不足の顧客については、90日間、投資できる上限額の3分の1までしか取引できない。)(同指針Ⅱ-4-2(4)②イ)。

・顧客に追加損失発生の可能性を、事前に注意喚起する。

その他

・事業者に対して重点検査を行い、法令に違反した事業者に対しては、許可取消しを含む厳正な処分が実施される。

・悪質な違反行為を行った外務員を永久追放する自主規制ルールを導入する。

・施行1年後を目処に実施状況を確認し、必要に応じて見直しを行う(委託者保護に欠ける深刻な事態が生じた場合には、施行後1年以内であっても必要な措置を講ずる。)。(商品先物取引法施行規則の一部を改正する省令附則第2条)

 


[1] 経済産業省も同内容のプレスリリースを公表している。http://www.meti.go.jp/press/2014/01/20150123001/20150123001.html

[2] 商品先物取引とは、商品取引所で取り扱われている工業原材料や農産物等の商品を、現時点で定めた価格で、将来の予め決められた時期に売買することを約束する取引のことをいう。

[3] 初期の投資額以上の損失が発生しない仕組みの取引をいう。

(あらた・りゅうすけ)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2006年九州大学法学部卒業。2008年九州大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。主な取扱い分野は紛争であり、弁護士登録後、事業会社~金融機関等の幅広い企業や個人の代理人として多くの訴訟等にかかわっている。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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