◇SH2976◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第91回) 齋藤憲道(2020/01/23)

未分類

企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

2. 要件2 「見守り役」の6者が連携して監査の効率と品質を高める

(6) 特定のテーマについて設置する「第三者委員会」

 企業の不祥事が発覚してマスコミで大きく報じられ、商品の買い控えが起きる等して業績悪化の可能性が大きくなると(上場会社の場合は、株価が下落し、上場廃止の危機に直面することもある)、内部の調査だけで明らかにした事実関係の報告では社会・関係者から信用されないため、企業から独立した外部委員(弁護士[1]、公認会計士、学識経験者等)で構成する第三者委員会を設けて事実関係の調査(「再発防止策の提言」や「社内の関係者への責任追及のあり方」を含む例もある。)を依頼し、その調査結果を公表することがある[2]

 報告書の中身は、企業が何を依頼するのかによってかなり変わるので、企業としては依頼事項を十分に整理する必要がある。

 調査委員を引き受ける側では、調査の態勢・方法・日程(公表時期を含む)、報告先(開示先を含む)、及び、最終報告書のイメージ(目次案、公表部分と非公表部分)を作成して企業側と合意(契約。費用を含む)した上で、調査を開始したい。

  1. (参考) 第三者委員会の調査報告書の構成(イメージ)の例を次に示す。
  2. ・ 第三者委員会の設置(設置の趣旨、委員会の構成、開催経緯)
  3. ・ 不正事案の概要
  4. ・ 判明した事実と発生原因(社内要因、外的要因)
  5. ・ 第三者委員会からの提言
    会社がすべきこと(再発防止策=会社の制度と運用、管理の仕組み、組織、人材等)
    業界団体がすべきこと
    国・地方の行政機関がすべきこと(法令の改正、法令の運用の改善)

 第三者委員会の調査は、社内の関係部門(監査部門・内部通報受付窓口・法務部門・取締役会事務局・社内決裁管理部門・システム部門等)から情報の提供を受けて行われることが多いが、企業内の者がヒアリング・調査報告書作成・人事処分案の検討等に関与すると調査の客観性が疑われるおそれがある。従って、調査のプロセスは可能な限り透明にして、第三者委員会が内部から圧力を受けた(又は忖度した)と見られないようにする必要がある。

  1. (注) 内部の法務部門等には、調査対象の組織・個人に対して「第三者委員会が行う調査・評価・公表等が真に企業の利益になる」ことを説明し、調査に協力して貰うように導くことが期待される。
     また、調査の初期段階から書類・電子情報等の証拠の隠滅を防止することが必要であり、通常、法務部門・システム部門等が重要な役割を果たす。特に、企業が(警察・検察の捜査ではなく)デジタル・フォレンジック調査を行う場合は、システム部門の関与が欠かせない。

 第三者委員会が調査の過程で得た情報を、可能な範囲で監査役・会計監査人等と共有すれば、それぞれの監査の品質と効率が高まると考えられる。

 そのためにも第三者委員会を適切なメンバーで構成し、調査報告書に「真の原因」及び「有効な再発防止策」を含めることが望まれる。

  1. (注) 調査、報告書作成にあたっては、社内用語と外部の用語の定義の相違に注意する必要がある。
  2.  例1「事業部の傘下に複数の工場が存在する企業」と「工場の傘下に複数の事業部が存在する企業」の事業部長・工場長の責任と権限の範囲
  3.  例2「製品別利益」を算定するために製品別売上高に賦課する「本社費」「研究所費」「営業本部費」等の有無及びその範囲

 適切な再発防止策を迅速に公表すれば、失った信用を取り戻すのに要する時間は、それだけ短くて済む可能性が大きい。さらに、「再発防止策」が徹底したもので、「世間の予想以上」であれば、以前よりも信用が増す可能性もある。
 

〔監査役等が考える第三者委員会との協働・連携[3]

 監査役は、重大な企業不祥事が発生した場合に設けられる第三者委員会の委員に就任することが望ましい(監査役として会社に善管注意義務を負う。)。

 就任しない場合も、不適切な場合を除き、第三者委員会から説明を受け、監査役会への出席を求める。
 

 利益相反の壁 

・ 企業等と利害関係を有する者は、委員に就任することができない[4]
 

(7) 6者の特徴と連携のあり方を考える

 企業において監督・監視・監査等の機能を担う立場にある6種の関係者を俯瞰すると、次の通りである。

 1)「社内の中立的立場」の目線を持つ者

  1. ⑴-1 取締役会
  2.   取締役全員で構成され、会社の業務執行を決定して、取締役の職務の執行を監督する。
    独立性と中立性を備えた社外取締役の活躍が期待されている。
    内部監査部門と取締役の連携が求められている。
     
  3. ⑴-2 内部監査部門
  4.   企業が任意で設置する部門である。
     「監査部」を組織しなくても、職能監査等によって監査機能を果たすことができる。
     「監査部」は、経理業務の経験者を中心にして編成する例が多い。
     取締役(会)、監査役(会)及び会計監査人と協力・連携することが求められている。

     
  5. ⑴-3 内部通報受付窓口
  6.   企業内の不正を「見える化」してその是正を図る機能であり、その効果が期待されている。
    事実関係の調査においては、内部監査と同様の手法が用いられる。
    窓口が設置される部署は企業の状況に応じて様々である。(総務部門、法務・コンプライアンス部門に設置している企業が多い。)

 2)「外部の第三者」の目線を持つ者

  1. ⑵ 監査役(会)
  2.   大きな責任と強い権限(法令定款違反行為の差止め等)を持っている。
    会計監査人・内部監査部門との連携を求めている。
    監査役に必要なスキルは明示されていない。(欠格事由、兼任禁止は規定されている。)
    監査報告書(事業報告関係、計算書類関係)を作成する。
     
  3. ⑶ 会計監査人
  4.   公認会計士の資格を有して監査を行い、自らの責任で評価・判断を行う。
     他者の監査結果等は、その信頼性・重要性等を自ら評価した上で利用の可否等を判断する。
  5.   会社の法令違反等を見つけた時は、会社に書面通知、金融庁長官に申し出、監査役(会)に報告等する。
    監査報告書(決算書類、内部統制)を作成する。
     
  6. ⑷ 行政機関
  7.   国家公務員・地方公務員として法令に基づく報告徴収・検査等を行い、企業の法令遵守を確保する。
    違反者には指導や営業停止処分等を行う。
    公務員は、職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
    公益通報者保護法に基づく「外部の労働者からの通報」に対応して、違法行為を排除する。
     この通報は、中央官庁又は全国の地方公共団体に届けられる。
  8.   国家公務員法・地方公務員法、並びに、その他の個別法が課す「守秘義務」を遵守しなければならない。
     
  9. ⑸ 第三者認証機関
  10.   企業の製品、マネジメントシステム、検査方法等が基準・規格等の規定要求事項を満たすことを審査して認証する。(この審査は完全性を証明・保証するものではない。)
    企業の現場の業務の水準・品質を評価して公表する役割を果たす。
     
  11. ⑹ 第三者委員会
  12.   特定の案件について事実関係を調査する。(是正措置や再発防止策を提案することも多い)
    企業内の調査では社会の信頼を得られない場合に設置される。
    監査役は、第三者委員会のメンバーになることが望ましいとされる。

 上記の俯瞰を通じて、監督・監視・監査等の機能のあり方について2つの方向性が見えてくる。

  1. ⑴ これまで以上の大きな活躍(成果)が期待されるのは、企業内に常設される内部監査部門と内部通報受付窓口である。
  2. ⑵ 法令違反・不祥事の事例が中長期的に最も多く蓄積される可能性があるのは、行政機関(国・地方公共団体の全てを合計した場合)である。

    1. (注) 大規模な会計事務所・法律事務所にも多数の事例が蓄積されると思われる。しかし、その利活用は事務所内に止まる可能性が大きい。

 この⑴及び⑵に注目しつつ、6者の監査機能の充実・強化のあり方を考察すれば、「高い生産性」と「高い自己浄化能力」を共に実現する経営管理システムの具体化が進むだろう。

  1. (注) 行政部門に課された「守秘義務」の壁を乗り越えて、情報を収集・分析する工夫が必要である。

 例えば、固有名詞を消して、違法行為の類型を明らかにすることができれば、行政の通常業務における審査・検査等に利用でき、民間企業に対して「不祥事の兆候の検出方法」や「再発防止策の着眼点」を啓発することも可能になる。



[1] 委員会が依頼されるテーマは「過去の出来事」を調査して整理・報告することであり、これを得意とする法曹(検事OB、裁判官OB、弁護士)が受任する例が多い。

[2] 2010年12月17日改定 日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に、第三者委員会の活動・独立性等・企業等の協力・公的機関とのコミュニケーション・委員の適格性等・調査方法等に関する指針が示されている。

[3] 日本監査役協会2015年(平成27年)7月23日改訂「監査役監査基準」27条(企業不祥事発生時の対応及び第三者委員会)3

[4] 「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」第2部第2. 5(利害関係)2010年12月17日改訂 日本弁護士連合会

 

タイトルとURLをコピーしました