◇SH3006◇会社法・金商法と会計・監査のクロスオーバー(2) 社債と出資法 弥永真生(2020/02/14)

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会社法・金商法と会計・監査のクロスオーバー(2)
社債と出資法

筑波大学ビジネスサイエンス系(ビジネス科学研究科)教授

弥 永 真 生

 

 東京地判令和元・6・13金判1573号34頁(以下「令和元年判決」という)は、社債には利息制限法の適用はないとの判断を示し、その控訴審判決である東京高判令和元・10・30も、原判決を支持し、控訴を棄却した。

 令和元年判決は、Yが、株式会社Aの募集に応じて引受けの申込みをした者として、平成24年5月10日頃に1000万円を、平成25年3月21日頃に500万円を、それぞれ、Aに支払って、社債の割当てを受け、Aは、Yに対し、これらの社債の利息及び償還として、金銭を支払ったという事案に係るものである。なお、株式会社Aは、第1回から第203回まで、社債の発行として募集をし(1回の募集当たり社債として引き受ける者は1名とされ、その金額及び利息の利率は各回ごとに異なっていた)、延べ人数としても200人を超える者から、相当に高い利率の利息を付して社債の発行により資金を受け入れていた(社債としての募集による金銭債権の利息の利率は、ほとんどのもので利息制限法所定の上限を超える利率とされており、年利が90%を超えるものもあった)と認定されている。

 社債法といえば、筆者には、鴻常夫博士がまず思い浮かぶのであるが、鴻教授は『社債法〔法律学全集33〕』(有斐閣、1958)で「社債の場合も利息制限法の適用があることは当然である」と述べておられ(144頁注2)、学説は、馬瀬文夫「利息制限法適用の範囲」判タ55号(1956)7頁をほぼ唯一の例外として[1]、社債にも利息制限法の適用があると解していると筆者は思い込んでいたため[2]、令和元年判決はとても新鮮に感じられた。

 とはいえ、令和元年判決が「債務者である社債発行会社が類型的に経済的弱者であるとは認められないこと」を理由とした点は説得力を必ずしも有しないのではないかと思われる[3]。債務者がたとえば株式会社であっても、利息制限法の適用があるからである。また、会社法上の社債は、「この法律の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、第676条各号に掲げる事項についての定めに従い償還されるものをいう」(2条23号)と定義されている。すなわち、「会社が会社法の規定による『社債』を発行すると決めたものが社債、そうでないものは社債でないと規定したに等しい」と指摘されているところ(江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』(有斐閣、2017)723頁注10)、令和元年判決の事案では、1回の募集当たり社債として引き受ける者は1名とされていたことにも表れているように、経済的実態は借入金に近かったのではないかと推測される(社債管理者もいないし、債券も発行されていない。引受人が1人であれば社債権者集会の規律も実質的には考えなくてよいであろう)。かりに、令和元年判決が正当だとすると、その限りにおいて、そもそも、利息制限法自体に合理性がないというべきなのではないかとも思われる。

 前置きが長くなったが、この事案ではおそらく問題とならない(年利109.5%を超える利息は認定されていない)のであろうが、とても気になる点は、社債に出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)の適用はないのだろうかという点である。かりに、令和元年判決のように利息制限法の適用範囲を限定的に解するのであれば、社債の引受けは出資法5条の「金銭の貸付け」にもあたらないと解することが自然であると思われるが、会社法における、上述したような「社債」の位置づけからすれば、社債という形式をとることによって、出資法5条の規律も容易に潜り抜けることができるのではないか(会社法の下では持分会社も社債を発行できる)と懸念されるところである(杞憂かもしれないが……)。



[1] なお、令和元年判決は、「昭和29年12月24日法務省民事甲第2625号法務省民事局長回答……においても、社債に対する利息制限法の適用については消極に解するとされて」いたことを根拠として挙げているが、この回答は何らの理由づけも示さずになされたものである。

[2] たとえば、「第2回 社債市場の活性化に関する懇談会 第2部会」議事要旨では、「多様な社債やエクイティに連動する金融商品などに関連して問題になることが多いのは、利息制限法である。これらの金融商品に対しても利息制限法の適用があるというのが現在の通説である」と指摘されていた。

[3] このほかにも、挙げている理由づけのみでは、社債に利息制限法の適用がないという十分な根拠にはならないのではないかと愚考している。弥永真生「社債と利息制限法」ジュリ1540号(2020)2~3頁参照。

 

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