◇SH0035◇証券監視委、裁判所への申立の実施状況を公表 鈴木正人(2014/07/16)

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証券監視委、裁判所への申立の実施状況を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 正 人

 平成26年7月7日、証券取引等監視委員会(「証券監視委」)が、金融商品取引法(「金商法」)192条に基づく緊急差止命令の申立て(192条申立て)に関して「裁判所への申立ての実施状況」(平成26年6月末現在)を公表した。

 192条申立ては、英米法におけるインジャンクション(Injunction)を参考にして証券取引法の制定時に導入された制度である。本邦では長らく192条申立ての実績がなく、「抜かずの宝刀」などと呼ばれていたが、平成22年に初めて申立てが行われ、平成26年7月10日までに合計10件の申立てが行われている。

 緊急差止命令の要件は、①緊急の必要性、②公益および投資者保護のため必要かつ適当であると認めること、③被申立人が金商法に違反する行為(金商法に基づく命令に違反する行為を含む。以下同じ。)を行いまたは行おうとすることである。

 申立後に被申立人法人に破産手続開始決定が発令されたことに伴い証券監視委が訴えを取り下げた事例と今月に申立てがなされた事例を除いた事例では、裁判所による禁止・停止命令が発令されている。被申立人の名宛人には金商法違反行為を行った法人自身のほか、当該法人の代表者、役員、大株主などがなったことがある。筆者は、証券監視委に在籍経験があり、在職中には第1号案件(東京地決平成22年11月26日金判1357号28頁)をはじめ、192条申立てに関与する機会があった。申立てに至るまでには証拠収集、調査等の準備に時間等を要し、申立てに至る件数の制約等はあるものの、東京のほか、北海道、名古屋、大阪で申立てが行われた実績があり、証券監視委は全国規模で監視の目を光らせていると評価できよう。近時の事例でも対象ファンドにて延べ千人以上の投資家より50億円もの出資が行われたものがある。平成26年度証券検査基本方針及び証券検査基本計画にも言及があり、今後も活用されることが想定される。

 192条申立ての事例は1件の無届募集を除き、残りは全て無登録業者等である。なお、無届募集の事案は開示義務違反として課徴金制度の対象にもなり得る。無登録業者等の事案では、適格機関投資家等特例業務届出者(「特例業務届出者」)を含む金融商品取引業の登録をしない業者が無登録で株式やファンド持分の販売・勧誘をしたものや特例業務届出者が虚偽告知をしたものがある。

 緊急差止命令の対象に特例業務届出者が含まれたことや特例業務届出者に対する検査にて不適切な事例が認められたことから、証券監視委は、平成26年4月18日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、適格機関投資家等特例業務(「特例業務」)における出資者要件の厳格化等を求める建議を行った。これを踏まえ、金融庁は、同年5月14日、特例業務における出資者要件を厳格化することを内容とした、「適格機関投資家等特例業務の見直しに係る政令・内閣府令案等」(「本改正案」)を公表した。具体的には、適格機関投資家等特例業務の対象となる投資家の範囲を、現行の適格機関投資家及び適格機関投資家以外の者から適格機関投資家及び金融商品取引業者等(法人のみ)、ファンド運用者、ファンド運用者の役員・使用人・親会社、上場会社、資本金が5千万円超の株式会社、外国法人、投資性金融資産を1億円以上保有かつ証券口座開設後1年経過した個人等に限定することを内容とする。本改正案は、既に意見募集の手続を経ており、今後内容が公表される予定である(施行予定日は、同年8月1日である。)。今後、特例業務の活用に当たっては改正後の要件の確認が必要となる。

*本稿の意見にわたる部分は筆者の個人的見解であり、証券監視委その他筆者の所属し又は所属したいかなる組織団体等の見解を示すものではない。

                                                                                            以上

裁判所への緊急差止命令の申立ての実施状況(平成26年7月10日現在)

年度

22

23

24

25

26

合計

2

3

1

2

2

無登録業者等

1

3

1

2

2

無届募集

1

0

0

0

0

•単位:件数

•年度:「会計年度ベース」4月~翌年3月

(すずき・まさと)

岩田合同法律事務所パートナー。2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局に在籍。『FTACA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、『Q&Aインターネットバンキング』(共編著 金融財政事情研究会、2014年)等著作多数。

岩田合同法律事務所

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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