◇SH2295◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(134)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑥ 岩倉秀雄(2019/01/25)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(134)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑥―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、商品開発戦略について述べた。

 商品開発は、3社統合の新会社として企業理念を消費者に訴求し認知度を高めるために極めて重要であるものととらえた。

 新会社は、経営が軌道に乗るまでは市場ニーズに直結する新商品の企画・開発に特化し、基礎的研究は蓄積のある雪印乳業の技術研究所に委託した。

 会社設立前の工業所有権の取扱いについては、共同会社分割計画書の「承継する権利義務」に準拠するとともに、新会社設立後の工業所有権については原則として新会社に帰属するとした。

 最も差別化の難しい主力商品の「牛乳」は、3社ブランドの商品を併売するマルチブランド政策を基本としたが、新たにメグミルクブランドを投入し、新会社の理念を具現化して統合会社に対する消費者と取引先の理解と支持を得ようとした。

 新ブランド牛乳は、市場調査を踏まえて設計され、①成分無調整牛乳、②遮光性容器の使用、③製造年月日がわかる表現、④品質検査方法の公開、⑤原料生乳情報と製品の履歴開示を中期目標とした。

 今回は、酪農・資材の調達と品質保証体制について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ㈱のコンプライアンス⑥:事業戦略の検討③】

1. 酪農・資材調達戦略

(1) 原材料購入の基本的考え方

 原材料の購入は各社の従来の購入方法にとらわれることなく、ア. 相互利益購買、イ. 安定供給、ウ. 品質の安定を第一義に考えることとした。

(2) 生乳集荷と乳価の考え方

 新会社が、雪印乳業事件により酪農・乳業界の混乱を回避するために設立されたことから、生産者団体の需給調整機能への期待は大きかったが、この会社は市乳会社であり原料乳製品の製造を事業領域としていないことから、需給調整力の低下が懸念された。

 また、3社の乳量、乳価の取引条件は、指定団体別または県(指定団体支所)別に設定されていたが、統合により統一乳価とすることとした。

(3) 原果汁購入の考え方

  1. ① 安定供給
  2.   3社のこれまでの仕入れ先にこだわらず、品質、価格、供給能力、産地特性等をベースに購入先を選定することとした。
    また、一元供給のリスク回避、収穫時期相違産地の有効活用等のため、複数産地からの購入を基本とし、国産果汁については全農農産部(当時)と協力して購入することとした。
     
  3. ② 購買情報・契約
  4.   産地情勢・相場動向を的確に把握するため、情報入手先を広く求め、主要原果汁については年間契約を基本とし、国際相場・需給情勢・為替の先物相場動向を反映した購買を実施することとした。
     
  5. ③ 品質の安全・向上
  6.   供給先に対して現地調査を実施し、品質の安全性と規格条件を自ら確認・指導することにより、品質の優位性を追及するとともに。トレサビリティシステムの導入を検討することとした。
     
  7. ④ 新規産地の導入・開発
  8.   新規原料産地の導入及び開発を行ない、品質、価格、供給面において貢献する取引先を選択し、技術協力・共同開発を実施することした。
     
  9. ⑤ 取引条件
  10.   取引先との契約については、平成15年4月から取引条件を統一した。(規格・受け渡し条件・決済条件等)

2. 品質保証体制

 新会社は、設立の経緯から考えて、企業理念と行動規範を明示しコンプライアンス(倫理・法令順守)体制を確立するとともに、製品に対する安全・安心を保証するシステムの確立が重要であった。  

(1) 品質方針

お客様の声を聴き、

法令・社内基準遵守の企業倫理のもと、

満足と信頼いただける品質の実現を目指し、

お客様第一主義を実践します。

(2) 新会社の品質保証体系の構築と施策

  1. ・ 品質保証部は社長直轄の組織とする。(後に、代表取締役専務が担当)
  2. ・ 品質保証の最高責任者は社長である。

(3) 基本スタンス

 「HACCP[1]の考え方を基本に、新会社としての独自の品質マネジメントシステムを構築して参ります。」
 

ミルクコミュニティ品質システム=MCQS
Milk Community Quality System)

(4) 施策

  1. ① お客様の声の傾聴と実現
  2.   お客様からの意見を商品開発・品質改良に活かし、その内容を公開していく。
     
  3. ② 出荷体制と検査体制の確立
  4.   ア.迅速検査法を確立するなど、確実に検査した製品を届ける体制を敷く。
  5.   イ.センサー類の整備を順次行ない、“不良品を出荷しない仕組み”を構築する。
     
  6. ③ トレーサビリティの確立
  7.   安全・安心のためのトレーサビリティ(履歴管理)の実現に努める。
  8.   ア.原材料の履歴管理
  9.   イ.工程内管理情報の履歴管理
  10.   ウ.出荷製品の履歴管理
     
  11. ④ 情報開示
  12.   お客様の“知りたい”にお答えできるよう、情報開示に努める。
  13.   ア.工場の公開
  14.   イ.ホームページの活用
  15.   ウ.商品情報の公開
     
  16. ⑤ 品質監査の充実
  17.   社内の品質内部監査を強化するとともに、外部監査を導入して品質監査を強化する。
  18. ア. 品質内部監査
    ・ 品質保証部の中に品質監査課を設置し、生産部門に限らず、営業部門・ロジスティクス部門等も含めた各部門の監査を強化する。
    ・ 商品の表示についての関心が高まっていることから、「商品の表示」に関する監査機能を強化する。
  19. イ. 外部監査
     内部監査の充実を図る一方で、社外の監査機関に外部監査を要請し、客観的視点での監査の充実を図る。
     
  20. ⑥ 品質管理教育の充実・徹底
  21.   全役職員に、食品メーカーに従事するものとして必須の基礎知識はもとより、総合的な知識に渡り、品質管理に関わる知識とそれに基づいた行動を習得させるための研修制度を導入し、その成果を人事制度に反映する。
     
  22. ⑦ その他
  23. ア. 出荷検査と出荷体制
     充填ラインごとに、殺菌済み貯液タンクの最初の製品の衛生性を確認し出荷判定を行う。(大腸菌群迅速判定法を活用)
  24. イ. お客様苦情・重大化予測苦情の対応体制
     お客様苦情対応基本フロー・重大化予測対応フローを作成し、リスク対応を明確にする。

 次回は、広報・顧客サービス体制、情報システム体制について考察する。



[1] Hazard Analysis and Critical Control Pointの略:食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生する危害をあらかじめ分析し、予防のための重要管理点を定め、これを継続的に監視することにより製品の安全性を確保する衛生管理手法。

 

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