証券監視委、金商法違反行為に係る裁判所の禁止及び停止命令の発令を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 鬼 丸 のぞみ
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」という)の申立に基づき、東京地方裁判所が、平成26年9月5日、株式会社グランター社(以下「グランター社」という)とその代表取締役らに対し、金融商品取引法(以下「金商法」という)違反行為の禁止及び停止の命令が下されたことが公表された。
証券監視委のウェブサイトによれば、グランター社らは、全国各地で「資産運用セミナー」と称するセミナーを頻繁に開催して参加者に対し取得申し込みをするように勧誘し、以下の行為をしたとされる。
● 平成25年10月頃以降、多数の一般投資家に対し、グランター社の関連会社である外国法人との投資一任契約の締結を勧誘し、その結果、同月頃から平成26年6月頃までの間に、延べ1826名の一般投資家が約6億円を出資した。
● 平成26年1月頃以降、多数の一般投資家に対し、グランター社の関連会社であるSTパートナーズ株式会社が発行する社債の取得を行うことを事業内容とするSTP合同会社の社員権に係る取得勧誘を行い、その結果、同月頃から平成26年6月頃までの間に、延べ1129名の一般投資家がSTP合同会社の社員権を取得し、約7億円を出資した。
● 平成24年10月頃以降、多数の一般投資家に対し、海外集団投資スキーム持分に該当する積立型の金融商品(以下「海外ファンド」という)に係る取得勧誘を行い、その結果、同月頃から平成26年6月頃までの間に、延べ251名の一般投資家が海外ファンドを取得し、同月までに合計約4500万円を出資した。
なお、グランター社らは、顧客となっていた個人又は法人に対して、一般投資家をグランター社に紹介するよう委託するとともに、出資金額に応じた紹介手数料を毎月支払っている。
※証券監視委作成に係る参考資料より引用
グランター社らの上記各行為は、「投資助言・代理業」又は「第二種金融商品取引業」にそれぞれ該当し、無登録で金融商品取引業を営んだとされた。それだけでなくグランター社らは同種の行為で数十億円の金銭を集めており、上記違法行為を今後も行う蓋然性が高く、これを可及的速やかに禁止・停止させる必要があると判断されて証券監視委が裁判所に申し立て、東京地方裁判所は申立を認めた。
これは、証券監視委が裁判所に申し立て、①緊急の必要と②公益及び投資者保護のため必要かつ適当という要件が認められたときは、裁判所は、金商法違反を行ったか、行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命じることができるという金商法192条1項の規定に基づく。その審理は原則非公開の手続きで(金商法192条4項、非訟事件手続法30条)行われ、即時抗告により争うことは可能だが(金商法192条4項、非訟事件手続法66条)、裁判所の命令が確定したときは、それに反する行為を行えば3年以下の懲役か300万円以下の罰金、又はこの両方が科され得る(金商法198条8号、207条1項3号)。平成20年12月に証券監視委が申立権の委任(金商法194条の7第4項2号)を受けて以降、裁判所から金商法違反行為の禁止及び停止が命じられたのは、平成23年まで0件、平成24年度は1件、平成25年度は2件であったところ、平成26年度は9月現在で既に3件あり、増加している。
グランター社の実態は証券監視委の発表からだけでは不明であるものの、無登録の金融商品取引業を放置することは、一般投資家の金融商品への信頼を揺らがせ、また、詐欺行為の放置につながりかねないことから、証券監視委が積極的に動くようになってきたことは証券取引の健全化の確保の点で、意義が認められるといえよう。
以上
(おにまる・のぞみ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2008年3月慶応義塾大学法科大学院卒業。2010年1月東京地裁判事補任官、2013年4月「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
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