SH4178 東京地判令和4年10月6日(従業員向けイントラネット上に記事を無断で掲載されたとして新聞社が損害賠償を求めた事件)における、新聞記事の著作物性 足立理(2022/10/28)

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東京地判令和4年10月6日(従業員向けイントラネット上に記事を無断で掲載されたとして新聞社が損害賠償を求めた事件)における、新聞記事の著作物性

岩田合同法律事務所

弁護士 足 立   理

 

1 事案の概要及び争点

 東京地判令和4年10月6日[1](以下「本裁判例」という。)は、中日新聞社(原告)が、つくばエクスプレスを運行する首都圏新都市鉄道(被告)に対し、被告が、2005年から2019年までの間、原告発行の新聞の一部の記事を切り抜き、スキャンデータを社内イントラネットに掲載して、被告従業員が同イントラネットに接続して同データを閲覧できるようにしたことが、原告の複製権[2]及び公衆送信権[3]の侵害に当たるとして、損害賠償を請求した事案である。

 2018年度に被告の社内イントラネットに掲載された記事のうち、133本(以下「本件記事」という。)は、事故に関する記事、又は、新しい機器若しくはシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベント若しくは企画の紹介、事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事であったところ、本裁判例においては、本件記事[4]の著作物性(以下「本件争点」という。)等が争点となった。本件争点は、特に耳目を集めるように思われるため、下記のとおり紹介する[5]

 

2 本件記事の著作物性について

 ⑴ 総論

  ア 本件争点の位置付け

 仮に本件記事が著作物[6]といえるのであれば、本件記事をスキャンしてスキャンデータを作成する行為は、著作物の複製に当たり得、また、当該スキャンデータを、社内イントラネットにアップロードする行為は、著作物の公衆送信に当たり得る。そこで、本裁判例は、本件記事が著作物に該当するか否かにつき判示した。

  イ 一般論

 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」[7]をいう。また、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、……著作物に該当しない」[8]とされている。

 そこで、新聞記事は「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえるか、言い換えれば、新聞記事は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」にすぎないのでないか、が問題となる。

 この点、過去の裁判例[9](以下「日経新聞要約翻案事件」という。)においては、「客観的な事実を素材とする新聞記事であっても、収集した素材の中からの記事に盛り込む事項の選択と、その配列、組み立て、その文章表現の技法は多様な選択、構成、表現が可能であり、新聞記事の著作者は、収集した素材の中から、一定の観点と判断基準に基づいて、記事に盛り込む事項を選択し、構成、表現するのであり、著作物といいうる程の内容を含む記事であれば直接の文章表現上は客観的報道であっても、選択された素材の内容、量、構成等により、少なくともその記事の主題についての、著作者の賞賛、好意、批判、断罪、情報価値等に対する評価等の思想、感情が表現されているものというべきである。[10]と判断されていた[11]

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(あだち・まこと)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2014年東京大学法学部卒業。2016年東京大学法科大学院修了。2017年弁護士登録。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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