消費者庁、「機能性表示食品」って何?
岩田合同法律事務所
弁護士 荒 田 龍 輔
1 「機能性表示食品」制度新設の背景
平成27年4月1日の食品表示法の施行に伴い、「機能性表示食品」制度が開始され、これにより、国の定めるルールに従い、事業者が食品の安全性と機能性に係る科学的根拠等の必要事項を、販売前(販売予定日の60日前)に消費者庁長官に届け出れば、国の審査を経ずに機能性(すなわち、「体のどこの部位に作用するか」)を表示することができることとなった。
当該制度が開始されるまでは、機能性を表示することのできる保健機能食品は、「特定保健用食品」[1](いわゆる「トクホ」)、及び「栄養機能食品」[2]に限られていたが、国民が自らの健康を守るための的確な情報提供と、他国の食品表示制度と揃えることで農産物の海外展開を視野に入れ、諸外国よりもわかりやすい機能性表示を促す仕組みを作ることを目的として、新たに「機能性表示食品」制度がはじまった。
2 「機能性表示食品」制度の概要
(1) 対象
「機能性表示食品」制度の対象は、生鮮食品を含む食品全般であるが、以下の食品は含まれない。
・疾病罹患者、未成年者、妊産婦(妊娠を計画している者を含む。)、授乳婦を対象とする食品
・機能性関与成分[3]が、明確でない食品又は厚生労働大臣の定める食事摂取基準において基準が定められた栄養素である食品
・特別用途食品[4](特定保健用食品を含む。)、栄養機能食品、アルコールを含有する飲料
・脂質、飽和脂肪酸、コレステロール、糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないもの)、ナトリウムの過剰な摂取につながる食品
(2) 機能性表示食品の販売に際して必要な手続
機能性表示食品の販売に必要な届出を行うにあたっては、①機能性表示食品の対象食品に含まれるかを判断→②安全性の根拠の明確化→③生産・製造及び品質の管理体制の整備→④健康被害の情報収集体制の整備→⑤機能性の根拠の明確化→⑥容器包装における適正な表示の実施→⑦消費庁長官への届出の順で手続を踏む必要がある(各項目の概要は下記フローチャート「機能性表示食品の届出に係る手続」参照)。
3 表示にあたっての留意点
(1) 使用できない表現
食品に表示可能な機能性の表示は、疾病に罹患していない者の健康の維持及び増進に役立つ旨又は適する旨の表示に限られており、例えば、以下の内容を表示することはできない。
・「診断」、「予防」、「治療」、「処置」等の医学的な表現
・治療効果、予防効果を暗示する表示
・特定の疾患を持つ者を対象とした表示(例えば「糖尿病の方へ」等)
・未成年者、妊産婦(妊娠を計画している者を含む。)、授乳婦に対して機能性を訴求するような表示
・肉体改造、増毛、美白等の意図的な健康の増強を標榜するような表現
(2) 不適切な表示による責任等
表示事項が、食品表示法第4条の食品表示基準に基づいたものとなっていない場合、同法違反として、食品表示法上の指示や命令の他(同法第6条)、罰則の対象となり得る(同法第17条(3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又は併科)等)。
また、科学的根拠情報の範囲を超えた表示事項は、不当景品類及び不当表示防止法で禁止される不当表示(同法第4条)に該当し、内閣総理大臣による措置命令の対象となるほか(同法第6条)、罰則の適用を受け得るし(同法第16条(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金、又は併科)等)、または、健康増進法で禁止される誇大表示(同法第32条の2)に該当し、内閣総理大臣による勧告・命令(同法第32条の3)の対象となり罰則の適用を受け得る(同法第36条の2(6月以下の懲役又は100万円以下の罰金)等)。
さらに、届出に係る科学的根拠の説明等をするに際し、第三者の論文を無断で使用する等して第三者の著作権を侵害しないよう配慮する必要もある。
4 まとめ
上記のとおり、「機能性表示食品」制度の開始により、国の審査を経ずに、機能性を食品に表示することができるようになり、機能性表示に係る企業の負担は軽減されたということができる。もっとも、「機能性表示」に不適切な表示が含まれる場合、上記のとおり、食品表示法のみではなく、不当景品類及び不当表示防止法や健康増進法に違反しうるものであり、ひいては罰則の適用、さらにはレピュテーションリスクもあり得るから、当該表示をなすにあたっては慎重な対応が必要となると思われる。
機能性表示食品の届出に係る手続
(※詳細は、消費者庁による「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」
《http://www.caa.go.jp/foods/pdf/150330_guideline.pdf》参照)
[1] 科学的根拠に基づき、健康の維持増進に役立つことが認められ、食品の機能性(例えば、「コレステロールの吸収を抑える」等)の表示につき、消費者庁長官から許可されている食品である。表示上の効果や食品の安全性については国による審査を経ている。
[2] 1日に必要な栄養成分(ビタミン、ミネラル等)の補給・補完のために利用できる食品である。既に科学的根拠が確認された栄養成分を一定の基準量含む食品であれば、届出をせずに国の規定する表現に従い、機能性を表示することができる。
[3] 「関与成分」とは、体の生理学的機能などに影響を与える成分
[4] 乳児、幼児、妊産婦、病者などの発育、健康の保持・回復等に適するという特別の用途について表示するもの。
(あらた・りゅうすけ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2006年九州大学法学部卒業。2008年九州大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。主な取扱い分野は紛争であり、弁護士登録後、事業会社~金融機関等の幅広い企業や個人の代理人として多くの訴訟等にかかわっている。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
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1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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